友人が「求人詐欺」に引っかかってしまった。ショックだった。いや、本人も凄まじいまでのショックを受けていたのだが。というか、彼女が転職していた事実にまず驚いていたのだが。入社してみるとあまりの違いにびっくりしたという。さっそく労働問題に強い弁護士を紹介した。
「話が違う!給料安すぎ!」
求人詐欺とは文字通り、求人広告や求人票の内容が実態の業務や待遇とは異なるという、採用活動における詐欺行為である。入社した瞬間「話が違う!」「私の給料安すぎ!」となってしまう。
就職・転職とは「決断」である。つまり、進路を「決定」し、他の選択肢を「断つ」ことを意味する。もう後には戻れない可能性が高いゆえに、騙された際のダメージも大きい。
「売り手市場」さらには「採用氷河期」だと言われる中、なんとしてでも採用したいという企業は存在する。なりふり構わない姿勢で取り組む中、このような黒い手に走ってしまうのだろう。
この求人詐欺をいかに防ぐのか。もっとも簡単な対策は、求人広告や、求人票を保存しておくことである。就職・転職先の人事や、人材紹介会社を通している場合は担当者とのやり取りのログを記録しておく。
ただ、それでも法の隙間をうまくついたり、すれすれのやり方で求職者を騙そうとする企業はある。そもそも、求職者と企業との間には情報の非対称性が存在する。限りなく透明に近い採用を目指し情報を開示する企業も存在するし、求職者に対して、仕事内容や職場環境についてマイナスの情報も含めて開示する「リアリスティックジョブプレビュー」と呼ばれる手法も活用されている。 「現役社員のぶっちゃけ話」などを求人広告に掲載する手法などがそうだ。ただ、それでも入社するまでは実態は把握しきれない。
ではどうすればいいか?「求人詐欺」などの悪質な手段に限らず、就職・転職する際の「こんなハズじゃなかった!」を避けるための対策を考えよう。完全な対策にはならないが、リスクを少しでも避けるためには、特に次のことに取り組むべきだ。
1.就職・転職に「感動」はいらない ポエム採用に気をつけろ
マンションポエムというものがある。マンションの広告にありがちな、ふわふわしていて、何を言っているのかよく分からないキャッチコピーである。東大などに近い文京区の物件だと「叡智の杜」、少し郊外に行くと「空と大地の間で」などまるで松山千春の曲のタイトルのようなものまである。一瞬、ひっかかりがあるし、ときに胸をうつのだが、何を言っているのか分からない。
採用活動においてもそうだ。ときに感動的なキャッチコピーの求人広告や、参加者が涙を流すような会社説明会があったりする。
実は私も、エンタメ企業で採用担当をしていた頃は、いかに感動的な採用活動にするかにこだわっていた。エンタメ企業らしさを伝える意味でも、就活で日々、様々な喜怒哀楽を体験する学生を激励したいと思ったからだ。私がプロデュースした臭い感動ムービーは今もYouTubeにアップされている。ぜひ、ご覧頂きたい。⇒ ■バンダイ就活応援ムービー 『ボクの伝えたいこと』(https://youtu.be/c8oF9wW9CkQ)
もっとも、この手の感動採用活動を行う企業の中には、企業の実態や仕事の中身を覆い隠すために、感動採用に走ったりもする。特に離職率の高い業界・企業などにも見られる。
社長のカリスマ性をウリにする企業も注意が必要だ。いや、すぐれたリーダーがいることは良いことだし、ワンマン企業も必ずしも悪くはないのだが、社長だけでもっている企業とも言える。
特に「夢」「感動」などをウリにする企業は要注意である。ふわふわした中身に踊らされてはいけないのである。
2.新規事業に気をつけろ
ビジネスには常に危機感は必要である。破壊的なイノベーションにより自社のビジネスが明日にでも壊滅的なダメージを受ける可能性だってある。特にこの15年間でプラットフォーマーの存在感は増してきた。企業は日々、想像しないような競合の登場に怯えている。
未来を創るためには新規事業が必要だ。企業を支える新しい柱を創り続けなくてはならない。
ただ、総論ではそうなのだが、自分が担当するとなると話は別である。新規事業は朝令暮改どころか朝令朝改も当たり前である。よく変化を求めてベンチャーや、大手企業の新規事業部門に飛び込む人がいるが、想像以上に変化が激しく今までとはまるで仕事の進め方が違うのだ。
転職先として、新規事業を選んだ場合は、このようなそもそもの新規事業の性質を理解しておくべきである。いや、それだけでなく、新規事業そのものがなくなってしまうことや、方針が変更になることすらリスクとして想定しておくべきだろう。事業ごと売却ということすらありえるのである。
新規事業に限らずM&Aの強化、海外ビジネスの強化など企業の大きな方針変更に合わせて人材が募集される際は注意が必要だ。その方針が見直された際に社内に居場所がなくなってしまうことだってある。
このように、企業の新たな取り組みに合わせて飛び込む際はそのリスクを意識しておくべきだろう。新しい取り組みは常に変化に満ちているのだ。
3.「若手が活躍」「高収入」に気をつけろ
私は20年近く、毎年、リクナビやマイナビに学生のふりをして登録をし、企業の採用活動をウォッチしている。勤務先の大学で就職関連の委員もしており学生の動きもウォッチしている。
長年就活を見ていると、毎年、学生がひっかかりそうになるブラック企業というものを発見する。そう、高い収入で訴求し、奨学金という名の借金を抱えた学生たちが騙されそうになるのである。
新卒、中途問わずに明らかに年収が相場より高い求人には注意をするべきだろう。いや、賃金が高いことは歓迎だ。日本はもっと賃金を上げるべきである。ただ、明らかに相場よりも高い場合はその分、仕事がきつい可能性があるのではないかと疑ってみるべきだ。
提示されている金額は、目標を大きく達成し成果を出した人のみということもあり得る。条件は細かく確認しよう。
そもそも論で言うならば、内容が実態と乖離するような求人広告が存在し、掲載されてしまうこと自体が問題だ。リクナビ、マイナビなどの就活プラットフォーマーを許認可制に移行するなど、規制の強化も検討の価値があるだろう。
求人詐欺はいま、そこにあるリスクだ。安心して就職・転職できる社会を望んでやまないが、まずは情報の確認に力を入れよう。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら