【今日から使えるロジカルシンキング】相手を動かすプレゼン 聞き手は「聞きたいこと」しか聞いていない

 

第13回 伝わるプレゼン〈基本〉

 私は先日、経営する学習塾の会議で事務責任者から次の様な報告を受けました。

事務責任者「夏休みの低学年向けの講座の中で、積み木を使った図形講座が非常に人気でした。申し込み開始からすぐに満席・キャンセル待ちになってしまいました。授業後のアンケートでも満足度も高かったです」

 その翌週、冬休みの講座に関する概要の説明を受けました。そこで、夏休みに人気だったという低学年向けの図形講座に関して言及がなかったので私は発言しました。

私「夏に人気だった図形講座は冬には開催しないのですか?」

事務責任者「いや、お伝えしたかったのは、受講できなかった生徒の保護者からの不満が大きかったので、次回開講の際は優先的に案内したほうがいいかな、ということです」

講師A「すぐに満席になるってことだったので、来年の夏は複数回実施するって話だったのでは?」

 多くの方は、「相手に同じ情報を共有すれば必然的に自分と同じ結論に至る」と思い込んでいます。しかし、この会議の例で「夏休みの講座が人気ですぐに満席になってしまった」という情報から三者三様の結論を引き出していたように、そんなことはありません。

 事務担当者が「伝わるだろう」と考えていた「今回受講できなかった人には、次回に優先的な対応をすべき」という意図は伝わらなかったのです。

受け手が「動く」プレゼン

 プレゼン・報告において、【意図】と【情報】を分けて考える必要があります(本連載第2回でもお伝えしました)。今回の事務担当者の例では、【意図】は「今回受講できなかった人には、次回に優先的な対応をすべき」であり、そう考える根拠としての【情報】が「申し込み開始からすぐに満席・キャンセル待ちになった」なのです。

 そして、この会議において重要なのは、事務担当者の【意図】に関して検討することです。

 しかし、多くの方は【意図】を考え、表現することを怠りがちです。プレゼンの目的というものは、発表者が「こうしてほしい」と考える【意図】が伝わり、受け手が「動く」ことです。ですので、プレゼンでは「いったい何をしてほしいのか?」を考えて、具体的に伝えることが大事なのです。

「意図」こそが主役。根拠や情報ばかりを列挙してもしかたがない。イラスト:くさのなおひで

 今回の事務担当者の例では、

「夏休みの低学年向けの講座の中で、積み木を使った図形講座が非常に人気でした。授業後のアンケートでも満足度も高かったです。しかし申し込み開始からすぐに満席・キャンセル待ちになってしまいました。受講できなかった保護者には不満が大きいようです」

 という【情報】を根拠として、

「つきましては、次回開講時には、今回受講できなかった方への優先案内をすべきだと思うのですが許可をいただけますか?」

 という【意図】を明確に表現するべきだったのです。

【意図】を出すことを怖がってはいけない

 【情報】は否定されることのない事実なので、収集さえすれば成果としてプレゼンしやすいものです。しかし、それらを元に導き出した【意図】は個人によって違うものなので「否定されたら嫌だな」「相手が違う意図を持っていたら面倒だな」という思いが働いて、表現することを避けてしまいがちです。しかし、【情報】を現場で集めてきた当事者だからこそ、まずはそこからの【意図】を考えて、表現すべきなのです。

 若手だからといって売り上げの数字だけを常に報告し続けていても、そこから正確な示唆を出せるようにはなりません。たとえ上司に否定されるとしても「売り上げの数字を分析した結果、こんな施策が役立つのではないか?」という【意図】を表現し続けることで、上司からのフィードバックを得られ、精度が高まっていくのです。そして、「大きなリスクはないから、こいつの意図を採用して任せてみようかな」という機会を得られるようになります。

 表現するのを避けているのではなく、そもそも考えていないということもあります。

・状況を理解してほしい

 で終わらせずに

・許可してほしい

・予算が○円ほしい

・~という点で協力してほしい

・案に対して改善ポイントを教えてほしい

 という行動を依頼する表現まで考えましょう。常に「相手が何をすれば物事が良い方向へ進むのか」まで踏み込んでプレゼンを設計するのです。

聞き手は「聞きたいと思っていること」しか聞かない

 そもそもわたしたちはプレゼンの内容を聞き流しているものです。聞きたいなと思っているものしか集中していません。

「私は英会話が得意です。これまでも海外の顧客との折衝にも携わってきました。常に国内だけでなく海外のマーケットの情報も集めています。大学の時に留学もしてきました」

「それで?」

 【意図】というものは、話者が思ってるほどには伝わりません。そして、【意図】がわからない状態では、いくらその根拠となる情報を詳しく並べても耳に入ってきません。なぜなら、なぜその情報が必要なのかを理解していないからです。つまり「聞きたい」という思いに至っていないからです。

 「私を次の海外プロジェクトのメンバーに加えてほしいのです」 このような【意図】を明確に表現したらどうでしょうか? 聞き手である上司は「なぜ加えるべきか? 加える利点はあるか?」と考えます。つまり「理由」「利点」を知りたくなるのです。ここで初めて根拠となる【情報】が頭に入ってくるのです。

いくら「根拠」となる情報を詳しく並べても聞き手の耳には入ってこない。プレゼンでは、聞き手は「意図」を知って初めて「根拠」を知りたくなる。イラスト:くさのなおひで

 「一体、何を、何のために話しているのか?」を理解してもらうことがプレゼンのスタート地点であると意識して構成を組み立ててみてください。

【プロフィール】苅野進(かりの・しん)

子供向けロジカルシンキング指導の専門家
学習塾ロジム代表

経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら