最強のコミュニケーション術

先延ばし癖は改善できる 「~しなくちゃ」はエネルギーを消耗するだけ

藤田尚弓

自己コントロール力には限度がある?

 伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。

 第10回は「先延ばし」がテーマです。2019年も残り2カ月になりましたが、新年に立てた目標の到達状況はいかがでしょうか。意志が弱いわけではないのに、先延ばしにしたまま手をつけていない。そんな部下がいる人、自分自身がそうだという人のために改善のためのポイントをご紹介します。

 もう少し寝ていたい、もっと食べたい、仕事に行きたくない、メールやSNS・ネットサーフィンをしたい…など、私たちは様々な欲望に囲まれて生きています。これらの欲望はちょっとしたものかも知れませんが、意志力を使って自己コントロールをしている時間の累計は、起きている時間の4分の1になるとも言われています。

 何かを我慢するときだけでなく、「~しなくては」と行動を起こすときにも意志力は使われます。面倒だと思っているタスクにとりかかる瞬間はもちろんですが、それをやろうと決めるまでの時間も辛いものです。

  • 「やらなければならないあの仕事に、そろそろ取りかからないと…。でも、先に〇〇をやろうかな」

 このような迷いや先延ばしを繰り返す人は、自己コントロールのためのエネルギーを浪費しやすい人といえるでしょう。

 自己コントロールに必要なエネルギーは有限で、一時的に枯渇することもあると言われています。真面目な性格なのにサボってしまうことがある、意志が弱いわけではないのについ食べ過ぎてしまうことがあるという人は、一時的なエネルギー不足を疑ってみるのもいいかも知れません。

 「適切な休憩を挟む」「大変だと感じることは午前中に行う」「疲れていてもできるようなことは夜にまわす」「いつやろうか迷うことでエネルギーを浪費しない」といったことを心がけるとエネルギーの無駄な消費を抑えられるケースもあります。

「疲れていてもできる」のはなぜ?

 先ほどもご紹介した「自己コントロールをするためのエネルギーは有限で消耗することもある」といった研究は多くの人に支持されています。しかし、それに異論を唱える研究者もいます。

 疲れてくると自己抑制が効かなくなるというのは、多くの人が体感していることでしょう。しかし、それと同じくらい「意欲的に取り組めることであれば疲れていてもできる」という経験もあるはずです。

 筆者は意志力に限度があるという説に概ね賛成です。労力が必要な仕事は午前中にやり、疲れているときに労力を使わないような仕事をするようにしてから、心理的な負担が減るのを体感しています。しかし、エネルギーを上手く使うのと同じくらい、意欲を高める工夫も大切だと考えています。

批判より意欲を向上 先延ばしに効く声がけとは

 やらなければならないこと、やったほうがいいことをつい先延ばしにしてしまったとき「自分は意志が弱い」「だらしない人間だ」と自責の念を持つ人は多いと思います。しかし、このようなセルフコミュニケーションは改善には繋がりにくいものです。発奮できればよいのですが、自己肯定感が下がったり「どうせ~だから」という思考に陥りやすくなったりするリスクのほうが心配です。

 仕事や課題解決を先延ばしにしがちな部下に対しても、責めるような言葉での指導はしないほうがよいでしょう。そういった言葉で不快感を与えて行動を改善してもらうというやり方では、常に注意を繰り返さなければなりません。成果を得るための労力もかかりますし、よい人間関係を維持するという面からもお勧めしません。

 そこで試してほしいのが、意欲を高め、行動へのハードルを下げるキーワードを使った声がけです。

先延ばしを改善する声がけ5つのキーワードとは

 意欲的に取り組めることであれば、日常生活で意志力を消耗している状態でも、私たちは必要な行動をすることができます。部下を批判するよりも、以下のキーワードを意識したコミュニケーションを心がけましょう。

1.「楽しさ」

先延ばしにしていることの中に楽しさを見つけられるような声がけをしておきましょう。

  • 例)この部分は楽しい、こういうやり方をすれば楽しい、これができるようになれば楽しいなど

2.「大義」

自分のためには頑張れなくても、誰かのためになら頑張れるというのはよくあることです。先延ばししていることにも大義があれば、それについて言及しましょう。

  • 例)人のためになる部分、会社に貢献できる部分、社会がよくなる部分など

3.「成長」

それをすることによって得られる成長について言及しましょう。

  • 例)挑戦による成長、経験による成長、達成することによる成長など

4.「スモールステップ」

何から手をつけるのかが具体的で、それが簡単であるほど、行動に移す心理的ハードルを下げることができます。「まずはこれだけやってみよう」と思えるような声掛けをしましょう。

  • 例)まずは調査を、まずはTODOリスト作りを、まずはチームを…など

5.「いつやるか」

いつやろうかという迷いや決断でもエネルギーは消耗されてしまいます。いつ取り掛かるのか、また中間報告はいつするかということを決めてしまい、淡々と取り組めるようにしましょう。

  • 例)いつ取り掛かるのか、中間報告はいつするか、締切はいつなのかなど

 これらの声がけは、部下の指導だけでなく、自分の心の中で行うセルフコミュニケーションにも取り入れてみてください。これまでよりも心理的な負担が軽くなるのを体感できるはずです。

藤田尚弓(ふじた・なおみ) コミュニケーション研究家
株式会社アップウェブ代表取締役
企業のマニュアルやトレーニングプログラムの開発、テレビでの解説、コラム執筆など、コミュニケーション研究をベースにし幅広く活動。著書は「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)他多数。

最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら