11月がやってきた。今年も残すところあと2カ月を切った。ビジネスパーソンにとっては、公私ともに忙しくなる時期である。そう、忘年会・新年会シーズンだ。『風の谷のナウシカ』の「火の7日間」のような日々が始まる。
「酒をやめる」は正論
昨年の宴会芸といえばDA PUMPの「U・S・A」だったが、今年は「パプリカ」の準備で大変だという人も多いことだろう。宴会芸はともかく、飲食の回数が多く、胃や肝臓、さらには財布が心配な人も多いのではないか。特に二日酔いの日々が続くことに不安を抱えていないか。酒でやらかしてしまうことや、飲み会帰りの電車で、トラブルに巻き込まれることを恐れる人もいることだろう。
酒に関わるリスクを劇的に減らす方法がある。それは、酒をやめてしまうことだ。詭弁だと思うだろう。「そんなことできるのか?」と石を投げたくなる人もいるかもしれない。ふと、アントニオ猪木が予備校で講演をした際に「夜の勉強が捗らない」という相談に「昼間やれ、昼間!」と回答したことを思い出した。さすがの猪木と思ったが、今、思うと、正論である。この際、酒をやめてしまう選択は極論のようで、実は正論である。
なぜ、酒を飲むのか。酒を飲まなければ、どうなるのか。これは実は自己分析のようなものである。
最近、発売された町田康さんの『しらふで生きる』(幻冬舎)は、30年間毎日酒を飲み続けた大酒豪の作家が、4年前から禁酒をした体験を書き綴ったものだ。健康や禁酒のノウハウ本かというと、やや違う。美しい成功体験談かというと、それとも違う。そこで綴られているのは、酒を手放した人生であり、その味わい方である。そもそも酒とは何かということが問われている。酒をやめることは健康上のメリットだけでなく、人生を深く味わう行為であるのだと感じさせるエッセイだ。
私も酒をやめて11カ月になる。昨年の12月22日以来、一滴も飲んでいない。いまや、ケーキや洋菓子で酔ってしまうほど、アルコールが苦手になってしまった。ノンアルコールビールもしばらく飲んでいない。先週、居酒屋でノンアルコールビールを頼んだところ、アルコール度数0.00%なのにも関わらず、味がリアルだからなのか、酔って気持ち悪くなってしまった。禁酒を極めるとこうなる。
毎日、朝が辛かった
以前は、飲みの席だけでなく、毎日、家でビールをあけていた。6缶パックを買ってきて、その日のうちにあけてしまうこともあった。ウイスキーや焼酎も常備しており、延々と一人で飲み続けていた。
もちろん、これだけ飲んでいるとトラブルも起こる。酒を飲みながら登壇するトークイベントやニコ生では暴走したこともあった。電車で寝飛ばしたこともよくあった。毎日、朝が辛かった。
そんな私だったが、昨年、健康診断でイエローカードが出たこと、育児と仕事に集中するため、クルマ移動を増やしたかったことを理由に酒をやめた。いや、いま振り返ると、まさに忘年会シーズンのアポが集中しており、これ以上、飲んだら死ぬのではないかと思ったからだった。仲間と酒を飲む日々は楽しかったが、明らかに心身に無理がきていることや、依存症気味であることが問題だと思った。
飲まないと面白くないヤツなのか?
以前も数カ月におよぶ禁酒をしたことがあった。簡単だ。コツは3日続けることである。3日坊主とはよく言ったものだ。3日続けると、習慣は定着する。
周りにも事情を説明すればたいていは理解してもらえる。むしろ、応援してもらえる。「トリビー(とりあえずビール)」文化はもう古い。今は、アルコールを無理にすすめると、アルハラ(アルコール・ハラスメント)だと言われる時代なので、酒を飲まないことに対する理解も得やすい。
「以前はあんなに飲んでいたのに…」「飲まないと面白くない」と当初は言われるだろう。対策は簡単だ。飲まなくても表裏がなく、ノリが変わらないということを理解してもらうだけだ。こうすると理解は得られる。
結局、酒とは何だったのか
アルコールをやめると、よく眠れるし、様々なトラブルに巻き込まれるリスクも回避できるし、出費も減る。いちいち快適である。娘が熱を出したときに病院につれていくことも、柔軟に対応できるようになった。感覚もシャープになった。
1年近くやめてみて気づいたことは、酒とは何だったのかということである。二十数年間にわたって飲み続けてきたが、それは何のためだったのか。
たしかに、酒は美味しい飲みものだった。ただ、それなしでも生きていくことはできる。酒を通じて出会ったり、交流を深めることができた人たちも多数いるが、ただ、酒はマストだったわけではない。
酒なしだと、公私の関係はどうなるか。酒なしで会ってみると印象はどう変わるか。酒をやめてみると見えてくる。飲みニケーションなしで、職場を円滑にする方法も見えてくる。というわけで、この忘年会・新年会シーズンを乗り切るためにも、人生を考える意味でも、この冬、酒をやめてみないか。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら