CAのここだけの話

“持ってる”CAが遭遇した「空の珍事件」 多忙路線で突然の悲鳴…

南万里子

私は「持っている」CAです

 SankeiBiz読者のみなさんだけに客室乗務員(CA)がこっそり教える「ここだけ」の話。第65回は中国系航空会社勤務乗務6年目の南万里子がお送りいたします。

中国系航空会社に勤務する南万里子さん。東京のパレスホテルに、家族と食事をしに行きました。提供:執筆者
羽田発・関空行きの機内からは離陸後すぐに富士山が見えました。提供:執筆者
家族旅行でハワイへ。写真はホノルルのビーチ。提供:執筆者
友人との旅行で中国・上海へ行きました。提供:執筆者

 皆さま、CAの業界用語で「持ってるね」とはどのような意味だと思いますか? 「持ってる人」「あなた、持ってるよね」は、「イレギュラーによく当たる人」「イレギュラー持ち」という意味なんです! 同じ数だけフライトをしているのに、不思議とイレギュラー(急病人、飛行機のメンテナンス関係のトラブルなど)に全く巻き込まれない人もいれば、出くわす経験が多い人も。

 私はといえば…後者です(苦笑) ふだんは起こらない事態によく遭遇します。今回は“イレギュラー持ち”CAならではのエピソード、「空の珍事件」をご紹介します。

ドクターコール お医者様が担当エリアに

 国内線の平日フライトは、ビジネスマンのお客様が多く「満席」が常。その日も満席でしたが、ほぼ穏やかなフライトでした。しかし、お飲み物のサービスが終わり、片付けに追われているころ…なんといきなりドクターコールが!

 「機内で体調の悪いお客様がいらっしゃいます。お客様の中に、お医者様または医療関係の方がいらっしゃいましたら速やかにお近くの客室乗務員までお知らせください」

 「え! ドラマみたいなことが起こってしまった! どうしよう…」。当時はまだ新人だったので、突然のドクターコールにびっくり! 毎日フライトしているCAですが、ドクターコール(お医者様や医療関係の方を機内アナウンスで呼びかける行為)に出くわすことは滅多にないからです。

 万が一倒れたお客様がいても、意識のある方や貧血の方などは広いお席に移動し、衣服をゆるめて休んでいただくだけで随分と回復するケースもあります。CAは万が一に備えて訓練を受けてもいるので、AED(自動体外式除細動器)も扱えますし、病人の初期手当てもできます。つまり、お医者様を呼ぶのはよっぽどのこと…。客室乗務員全員に緊張が走りました。

 私の担当エリアは、一番後方のキャビン。B777の大型機でしたので、前方の様子が全く分かりません。どうやら体調が優れないのは前方のようです。「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんでしょうか?」と聞いて回っていたところ、なんと私の担当エリアにお医者様が!

  • お客様
  • 「産婦人科なんですが、大丈夫ですか…?」
  • 「もちろんです! すぐにチーフパーサーに報告しますのでお待ちください!」

 チーフにコール(機内の電話)すると、すぐに前方に来てほしいとのこと。お医者様をお連れし、前方のギャレー(機内のキッチン)近くに進んでいくと、ぐったりしているビジネスマンがいるではありませんか!

 幸運にも、お客様の中から看護師2名にもお申し出いただき、お医者様の指示のもと、テキパキと処置していただきました。

 原因はなんと、ダイエットによる栄養不足! そんなこと? と思われるかもしれませんが、機内の気圧は低く空気も薄いので、体調を崩される方が多いのです。また患者の男性はダイエットのため、当日の朝は何も食べずに機内に搭乗されたとか。空の上は地上とは異なります。皆さまも、飛行機に乗るときはしっかり食べて元気な状態を心がけてくださいね~。

体調不良者続出の“あの”デリー便でまたもや…

 CAにとって、大変な路線はどれかご存知でしょうか? 満席のフライトはどの便も大変ですが、特にCAが疲労困憊するのはインド路線。

 インド人のお客様にはベジタリアンが多く、そのため「スペシャルミール(既存の機内食ではなく、ベジタリアン・アレルギー対応・宗教対応など要望に合わせて事前にリクエストできる食事)」のオーダーが多いのです。間違えないように提供するため時間がかかるのでCAも大忙し。

 さらに、日本人のお客様からはインド料理や風土が合わず、インドからの帰国便で体調不良者が続出。そういう意味でも大変なフライトなのです。

 お客様が搭乗する前にCAはキャビンの準備をする時間がありますが、当日に発覚したのはエコノミークラスのスペシャルミールが110個! ということ。お客様の搭乗時、リクエストされた方々にスペシャルミールのオーダーが間違っていないか確認するのですが、これもひと苦労です。

 搭乗時に荷物の整理をするお客様を押し退けながら(失礼しました)、怒涛の搭乗時間も終わり、デリー発成田行きの飛行機は順調にフライトを開始しました。

 そして、インド路線はお客様がエネルギッシュなのももちろんですが、お酒のオーダーが多いのも特徴です。インドでは外国製のお酒が高価なため、これでもかと(?)お酒を召し上がるお客様がいらっしゃいます(笑)

 飲み物のオーダーに追われつつ、間違いがないようにスペシャルミールを配っていました。すると、突然悲鳴が!

 何事かと周囲を見回すと、日本人男性が倒れていました。話しかけると意識はあるようで、少し酔ってしまったとのこと。冷たいお水をお持ちし、倒れた時に頭を打っていないか、痛みはないかなど確認していました。そして、その男性の横では、奥様らしき女性が号泣していました。

 旦那様が突然倒れたのでびっくりされたのだと思いますが、まるでこの世の終わりのような号泣ぶり。旦那様は幸い大事には至らなかったのですが、心配して泣き続ける奥様の姿に、私は「夫婦っていいな」と思わされました。

 お話しているとその女性は中国人の方で、旦那様と小さい赤ちゃんと3人でインドに駐在しており日本に一時帰国するところだったとのこと。

 見ず知らずの国で、周りに母国の方もいない状況で、旦那様に何かあったら…と思うと不安で仕方がなかったのだろうと思います。旦那様も少し休むと元気になり、無事に日本に到着しました。

 このように、機内では日々色んなドラマが起こっています。CAの業務は大変ですが、一期一会のお客様との出会いがずっと胸に残っているフライトも多いです。皆さま、フライトの際には体調不良だけはお気を付けくださいね!

大学卒業後、商社にて総合職として勤務するも、夢を捨てきれず航空会社へ転職。大手日系航空会社で、国内線・国際線共に乗務を経験し、さらにインターナショナルな環境を求めて、外資系航空会社へ転職。今は兼ねてから好きだった中国文化にはまっています!

【CAのここだけの話♪】はAirSol(エアソル)に登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。隔週月曜日掲載。アーカイブはこちら


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