【近ごろ都に流行るもの】人手不足に対応「ご近所ワーク」 主婦の潜在力、スキマ時間に発揮

 

 各地に散らばる単純業務を地元の主婦らに代行してもらう「ご近所ワーク」という働き方が広がっている。スキマ時間がお金に換えられることから登録者は10万人を突破。企業側には社員の移動時間や交通費などの負担がなくなるメリットがあり、10月の台風19号に伴う被害確認などでも成果を上げた。1億総活躍がうたわれる深刻な人手不足のなか、近所の“お母さん”の潜在力に光が当たってきた。(重松明子)

 依頼場所をスマートフォンで撮影し、簡単なアンケートに答えて送信。分単位の作業で小金が稼げるという「ご近所ワーク ライト」のアプリを開くと、台風19号で被害が出た東京都世田谷区の地図上に“現場”を示すピンが多数刺さり、「トランクルームの状況を確認してください!」と表示されていた。

トランクルームの台風被害調査を依頼する「ご近所ワーク ライト」の画面

 10月14~26日に行われた、大手トランクルーム運営会社による被害調査の依頼だ。1件当りの報酬は200円。大雨・強風による浸水や看板の破損、倒木など449件の点検に、46人の主婦らが協力。期間内に9割以上をカバーする416件の調査を終えたという。

トランクルームの台風被害調査を依頼する「ご近所ワーク ライト」画面

 「近所の方々の迅速な対応で実施できた。依頼主の社内だけではマンパワーに限界があり、被害状況の把握が遅れれば業務に支障をきたす恐れもある。災害時の被害調査は初めてでしたが、今後も活用できると感じた」。ご近所ワークを展開する主婦向け人材派遣会社「ビースタイル」(東京都新宿区)の中村浩史執行役員(41)が手応えを語った。

 普段は、不動産会社の用地発見や広告物の汚損チェックなどの依頼を不特定多数に仲介している「ご近所ワーク ライト」。より仕事度を高めた「ご近所ワーク」は、企業が同じ人に継続的に単発仕事を依頼でき、働き手にとっては一定収入が確保できる。

 昨年9月から登録している埼玉県の小倉由佳里さん(54)は、「好きなタイミングでいろいろな仕事ができて面白い。『一人異業種交流会』みたい」と話す。これまでに飲食・不動産・保険代理店の覆面調査、郵便局の商品陳列、美容モニターなどを経験した。

「ご近所ワーク」を活用する小倉由佳里さん。スマホによる位置情報で、現在地近くの仕事を探すこともできる(重松明子撮影)

 2人の子供を育てるシングルマザーで、本業のコールセンターの夜勤に加えて、日中はベビーシッターとして働く日もある。多忙の中でもスキマ時間を見つけて働くのは生活費のためだが、「気分転換になっている。近所の仕事を増やしてほしい」と意欲的だ。週2回行っている無人コンビニの商品仕分け(1件当りの報酬500円)を1件15分程度のペースで10件こなし、2~3時間で5000円稼ぐ辣腕(らつわん)だ。

 こうしたご近所ワークの仕事を「個人事業主」として受注しているのは、平成24年の労働者派遣法改正により、世帯年収500万円未満の人が「日雇い派遣」で働くことが原則禁止されているから。小倉さんは「女性世帯主でこの年収をクリアできる人は少ない。現実と矛盾している」と指摘。派遣ならば労災保険の対象になり、単発仕事でも安心して働けるという。

 東京23区と横浜・川崎のオフィス向けに無人コンビニエンスストアを展開する「600」(千代田区)は、商品補充の人手にご近所ワークを活用している。「元気で明るく気遣いできる方が多い」と、入社2年目の後藤智子さん(25)は“主婦力”を頼りにしている。「設置場所のオフィスを回るなかでの気付きを現場感覚で伝えてくれて、業務改善に役立つ。雑務を担ってもらうことで社員は基幹業務に専念でき、助かっています」

 ご近所ワークの仕組みを開発した、ビースタイルの中村執行役員は、このような働き方が生まれた背景を次のように語る。

 「現代は終身雇用が崩れ、給料も右肩上がりではない。『暇な時間に割りよく稼ぎたい』とのニーズは以前からあったが、分単位の仕事を発注・管理する仕組みがなかった。企業側も、社員がやるほどではない“誰でもできる仕事”は安く外注し、生産性を上げたいと考えている」

「ご近所ワーク」の仕組みを説明する、ビースタイルの中村浩史・執行役員=東京都新宿区

 今後はシニア層や副業意欲のある男性も視野に入れ、ご近所ワーク開始2周年にあたる来年6月末までに、請負総額5億円を目指している。

 社員の長時間労働を是正する「働き方改革」の裏で、すき間の時間を削ってでも働きたい人たちがいる。気軽なお小遣い稼ぎもあれば、切実な事情を抱えたケースもあるだろう。誰もが自分らしく、健康的に働ける環境整備は、見えにくい所にこそ必要だ。