ティファニーのあのエメラルドがかったブルーの箱を受け取ってうれしくない人は、男女ともにそうはいないに違いありません。その箱の中には必ず、上質で品が良く、かと言って大げさでどこにもしていけないような代物ではない知的な何か素晴らしいモノが入っていることを示唆しています。
そんなティファニーにLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)から買収の打診があるとのニュースに驚いたビジネスマンは多いのではないでしょうか?ティファニーと言えばニューヨーク5番街に旗艦店を構え、ニューヨークを、いやアメリカを代表するブランドとして知られていますので、ルイヴィトンやモエヘネシーを母体とする生粋のヨーロッパ高級ブランドグループLVMH傘下に入る姿はちょっと想像できないでいます。
1837年 ニューヨーク 創業
あらためてティファニーの歴史を調べると、1837年ニューヨークのブロードウェイに創業しています。なんと初日の売り上げは4.98ドル。当初は文房具や装飾品を扱っており、1848年フランスの貴族から貴重な宝石を買い入れたことがきっかけで全米屈指の宝石商という地位を確立していったとのことです。
歴史の中でもトルーマン・カポーティ原作、オードリー・ヘップバーン主演の1961年米映画「ティファニーで朝食を」はあまりにも有名です。これも映画やテレビドラマに商品や社名を表示させアピールするプロダクトプレイスメント手法の走りでもあるようですが、すでに代名詞的な定評ステータスを確立していたがゆえに有名作家が自ら引用したということだと思います。
世界に300店舗以上が展開されており、日本人にも馴染みの深いブランドですが、近年はアジアパシフィック地域でも伸長するなど、商売に行き詰まって身売りするということではないようです。
LVMHなどが主導し脚光を浴びる高級ブランド価値最大化スキームから見た場合、ティファニーの現経営はまだまだ保守的で伸長の余地ありということなのでしょう。
欧州ブランドと一線を画すシンプルさ
ティファニーの製品は、同じ高級品でも多くのヨーロッパの階級社会をバックグラウンドにするものとは違いを感じます。まずどこかシンプルで質実剛健。もちろんアメリカの富裕層が極めて裕福であることに違いはないでしょうが、ビジネスをバックグラウンドにする彼らの好みとして高額品にもどこか実用性を求めているように感じます。だからこそ、銀製の文具や装飾品など普段使いもできそうな小物類などお手頃な価格帯の商品も違和感なくラインアップされており、それが人気や認知の幅広さの背景となっています。
場所のパワーを生かし価値を高める
ブランディング的には、象徴的な場所への出店が高級ブランドならではのアイデンティティを表明する手段になっていることが注目されます。ティファニーと言えばニューヨーク。バブル期には破綻した日本の不動産会社・第一不動産(エフ・アール・イー)がニューヨークの本店ビルを買収したこともありました。また日本では百貨店全盛期の象徴でもあり日本の三越とのパートナーシップは長く、三越の一番良い場所には必ずティファニーという時代が思い出されます。またハワイへの出店を上手にブランドアップに活用する手法も先駆けだったと思います。多くの日本人が良いイメージしか持たないハワイでティファニーに触れてもらい買ってもらう。素晴らしいアプローチではなかったでしょうか。
現在のフラッグシップ銀座本店のビルは売れっ子隈研吾氏の事務所設計で孫正義氏の保有です。振り返ると、時代時代を象徴するロケーションブランディングとでも言いましょうか。場所の持つパワーを生かし逆にティファニーが立地することでその場所の価値が高まる。絶妙な特別な立地との共生関係が感じられます。
稀有だが最強 色のブランディング
そしてもうひとつ、ブランディング視点で特筆すべき点が色を使ったブランディングです。
ティファニーブルー。この青に薄いグリーンを感じさせるなんとも微妙な色合い。なんと1837年にはすでに使われていたということで、ブランドのヘリテイジ(歴史的遺産)が命の高級ブランドにとってこの歴史こそが無形でありながら、いや無形であるからこその最大の価値の源泉であることは間違いありません。なんでも、この色はコマドリの卵の色に由来するそうで、これもまたユニークです。
我々広告業界の人間からすると、印刷で色味が出なさそうだなぁ、というのが第一印象ではありますが、まさにそのお手軽に表現、管理できる色味ではないこと自体がラグジュアリーさの表現ということだろうと思います。
実は、この「ティファニーブルー」は色として商標登録を認められたことで有名です。色を使ったブランディングが成立してしまえば、これほどシンプルにして最強の手法はないでしょうが、成功例はどうでしょう。エルメスのオレンジ色?赤ヘルの愛称でも親しまれている広島カープの赤色?シンプルな手法にも関わらずそれほど多くの成功事例は思い浮かびません。
まず色味がユニークでなければいけませんし、それが独自の色と認知されないといけません。でも実際には似たような色は世の中に氾濫しているわけで、その中でブランド=特定色という関係を作ることは簡単なようで簡単ではないことに気が付きます。
まさにティファニーが1837年以来営々とそのティファニーブルーを使い続けてきたからこそ成立したラグジュアリーなブランディング手法でブランドの大きな資産を形成した稀有な成功事例と言えるかと思います。
豊潤なヘリテイジに再び集まる注目
そんな豊富なブランド資産をもつティファニーも、本家アメリカでは20代のモデルを起用したキャンペーンが不評で販売が伸びないなど、ブランドのリフレッシュに苦戦している様子もうかがえます。そんな高級ブランドの価値を刷新し最大化する手法に長けたLVMHが目をつけるのは当たり前のことなのかもしれません。彼らから見ればティファニーはまだまだ伸びるブランドだということに違いありません。
ともあれ。時代時代の経営や資本のダイナミズムはともかくとして、ティファニーブルーがそう簡単にすたれないだろうことだけは間違いないように思います。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら