働き方ラボ

流行語から漏れたけど… 人生再設計やAI選考、働き方の論点は山ほどある

常見陽平

 2019年の「ユーキャン・新語流行語大賞」が発表された。年間トップテンは「計画運休」「軽減税率」「スマイリングシンデレラ」「タピる」「#KuToo」「◯◯ペイ」「免許返納」「闇営業」「令和」「ONE TEAM」だった。年間大賞はラグビー日本代表の「ONE TEAM」だった。そして、選考委員特別賞としてイチローの「後悔などあろうはずがありません」が選ばれた。

 私は毎年、『現代用語の基礎知識』の「働き方事情」のページを担当している関係で、この発表会、受賞式には毎年、ご招待頂いている。そう、この賞の前提は、その年の秋に発売された『現代用語の基礎知識』に掲載されている言葉から選ばれるのだ。

 労働者の尊厳を“軽視”した年

 今年のノミネート語が発表された際には、率直に物足りなさというか、違和感のようなものを感じた。スポーツ関連(特にラグビー)が多いと感じたし、働き方関連のキーワードが少ないことが不満だった。政権批判色も薄いと感じてしまった。

 ただ、発表会に参加して、その不安は吹き飛んだ。今年を象徴する言葉たちだった。受賞理由のコメントを読むと納得した。そして、そこでは一見関係ない物事がつながっていることを見事に提示した。ちゃんと社会に対する問題提起も行っていた。何より、受賞者たちのコメントが心のこもったものであり、感動的だった。特に「ONE TEAM」の受賞者として登壇した公益財団法人日本ラグビーフットボール協会会長・森重隆さんの感極まる様子や、女性の働き方と靴について問題提起した「#KuToo」のアクティビスト石川優実さんの「私は別にハイヒールを否定しているわけではありません」「こんな運動がなくてもいい社会をつくりたい」というコメントも胸アツだった。

 もっとも、「働き方」関連のキーワードが少なめだったのは、やや残念だった。特に「人生再設計第一世代」や「内定辞退率予測」はノミネートを信じていた。

 一連の言葉から感じられるのは、「人手不足」で「採用氷河期」だと言われつつも、働く人の尊厳を踏みにじりかねない案件が多かった年だと言える。

 氷河期世代の支援に関しては、この世代に支援をするという方向性自体は否定するべきものではない。ただ、「人生再設計第一世代」という言葉自体が、当事者たちをスティグマ化したものだ。彼らを救済したいというよりも、労働力が足りないから、さらには外国人労働者の拡大などが進む中、日本人への支援はどうしたのかという批判を避ける意図が見え隠れする。

 これまで正規雇用で働いたことのない人にとっての、就転職活動をするための時間や労力を捻出することも困難だ。正規雇用で働いて当然というプレッシャー自体が、この世代にとって心地よいものとは言えない。支援と言いつつも、国の思惑を強く感じるものになっている。

 リクナビの「内定辞退率予測」問題についても、求職者の人権に関わる問題である。個人情報の扱いの問題はもちろんだが、求職者の情報をどこまで利活用して良いのかという問題もはらんでいる。

 このICTやAI、さらには各種データを利活用した「HRテック」というものが広がっていることも認識したい。これはホワイトナイトなのか、黒船なのか。

 話題のAI選考のように、エントリーシートの読み込みをAIが行う、スマートフォンのアプリが面接を代行するなどの取組みが行われている。これは善なのか、悪なのか。

 AI選考のメリットもある

 メリットがあることも確認しておきたい。人間ではない、AIが選考を行うことに対する抵抗感はあるだろう。ただ、では人間による選考は優れているのか? 人間による視点のブレなどを回避することができるし、人事の業務負荷軽減にもつながる。精度も高くなっていく。人間では読めない量のエントリーシートを読み込むことができるので、大学名で差別・区別されていた学生が救われる可能性だってある。

 採用だけではない。優秀な営業マンと、売れない営業マンの行動特性を分析する仕組みや、離職しそうな社員を分析するツールもすでに登場している。

 とはいえ、どこまでを機械にまかせるのかは大きな論点だろう。まさに人間と機械が闘う『ターミネーター』のような時代がやってきている。なお、同作品の最新作がリリースされ賛否をよんでいるが、以前は夢のようなSFの話が、現実になっているというのも大きなポイントだろう。

 他にもフリーランスの拡大、ギグ・エコノミー、外国人労働者の拡大、働き方改革関連法案の施行、ストライキ、就活セクハラなどなど、キーワードは多数あった。流行語大賞にはノミネートされなかったものの、問題として認識しておきたい。

 これらのキーワードに共通するのは、労働者にとって優しい社会になっているか、厳しい社会になっているかという論点である。一見すると聞こえの良さそうなものの裏には、労働者を安く買い叩く意図が見え隠れする。

 いかにして、労働者の権利を守るのかを考えなくてはならない。何より、来年は労働者にとってのハッピーなキーワードが増えることを願っている。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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