ハリウッドで差別と戦いスターへ 大活躍を始めた東アジアの男優たち

 
香港のアクションスター、ジャッキー・チェンも米ハリウッドではステレオタイプな役柄しか与えられなかった…

 【エンタメよもやま話】さて、今回ご紹介するエンターテインメントは、エンタメの王道、米ハリウッドに関するお話です。

 産経ニュース2014年1月11日付の本コラム「黒人初のアカデミー監督賞? 会員8割が「白人」「男」…黒人女性会長のもと人種の多様化を模索」(https://www.sankei.com/west/news/140111/wst1401110085-n1.html)

 などで何度もご紹介したように、米ハリウッドでは昨今、映画やドラマでの役柄におけるスターの人種の扱いや配慮に至るまで、人種問題に関してはとにかく厳しいわけですが、それでも白人以外が主役を張ることは、やはり簡単なことではありません。

 しかし、そんな米ハリウッドがいよいよ、本当に変わりつつあるのではないかという動きが最近、出始めています。

 出演者の人種の多様化が叫ばれるハリウッドでは、いまや黒人やヒスパニック系が重要な役柄を演じる機会がぐんぐん増えており、昨年には、黒人監督による黒人が主人公のSF娯楽大作で、出演者から制作スタッフに至るまで、大半が黒人という初の米映画「ブラックパンサー」(監督・脚本=ライアン・クーグラー)も大いに話題を集めました。

 そんななか、ずっとマイナーな扱いを受け続けているのが日中韓といった東アジア系の俳優たちなのですが、いよいよ、状況が変わりつつあるのです。

 11月10日付の英紙ガーディアン(電子版)などが報じているのですが、中国系カナダ人のシム・リウ(30)や、両親がマレーシア人と英国人というヘンリー・ゴールディング(32)、韓国系米国人のランドール・パーク(45)といった東アジア系の男優が、米ハリウッドで最近、次々と重要な役柄を獲得しているのです。

 ガーディアン紙は、2016年公開の米の青春コメディ映画「スウィート17モンスター」(ケリー・フレモン・クレイグ監督)を例に挙げ、この作品では、高校2年生のネイディーン(ヘイリー・スタインフェルド)が、香港系カナダ人の男優ヘイデン・セットー(34)演じるクラスメートのアーウィンとすれ違いながらも互いに相思相愛の関係になりますが、アーウィンを東アジア系の俳優が演じているとあって、熱烈なキスといった恋愛成就(じょうじゅ)の描写はなく、思わせぶりなエンディングで幕を閉じたことで「だまされたように感じた」などと述懐。しかし、あれから約3年経った今、米ハリウッドの東アジアの俳優たちを取り巻く風景は完全に変わったと明言し、「今では、彼らは意中の女性をモノにすることもできるし、キスすることも許されている」などと解説します。

 そして、具体例として、ヘンリー・ゴールディングは米で11月8日から公開中の米恋愛映画「ラスト・クリスマス」(ポール・フェイグ監督)で、米ケーブルテレビ局HBOの超人気ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」で人気の女優エミリア・クラークと熱いロマンスを熱演。さらに、ランドール・パークは今年5月公開の米ロマンチックコメディ映画「いつかはマイ・ベイビー」(ナナッチカ・カーン監督)で、あのキアヌ・リーブスと共に強い存在感を発揮し、シム・リウは2021年2月公開予定の米SF大作「シャン・チー:レジェンド・オブ・ザ・テン・リングス」(ディスティン・ダニエル・クレットン監督)で、アジア初のスーパーヒーローとして、マーベル・シネマティック・ユニバースへの進出を果たします。

 こうした昨今の状況についてガーディアン紙は「突然“目に見えない少数派”が映画の主流になりつつある」と歓迎し、東アジアの俳優たちが遂に、サポート的な役柄だけでなく、物語をリードする役柄を演じる魅力的な存在になったとの論調で評価しました。

 一方、2018年の英米合作のアクション映画「トゥームレイダー」(ローアル・ユートハウグ監督)や2001年の米映画「スパイ・ゲーム」(トニー・スコット監督)に出演した英国系中国人俳優、デヴィッド・ツェーのこんな意見も紹介しました。

 「もしもあなたが東アジアのショービズ界を見れば、ロマンティックな役柄やヒーローを演じる非常に有名でハンサムな(アジアの)一流の男性俳優を発見するでしょう。それは何も珍しいことではありません。しかし欧米のショービズ界には竹の天井があります。この風土病のごとき人種差別的傾向に、東アジアの俳優たちは大変な怒りを感じていると思います」

 とはいえ、過去に米ハリウッドで大成功した東アジア系の俳優が皆無だったわけではありません。映画に詳しい方ならご存じだと思いますが、米ハリウッドが映画産業の一大拠点として活動を本格化させた1910年代、欧米でトップスター級の映画俳優として大活躍した日本の早川雪州(1886年~1973年)がいます。

 1958年の英米合作映画「戦場にかける橋」(デヴィッド・リーン監督)でアカデミー賞の助演男優賞候補になるなど、無声映画時代のハリウッドで名実ともに東アジア系として唯一、大成功を収めたわけですが、ガーディアン紙は、彼以降、東アジア系の俳優は事実上、女性にとってあまり魅力がない中性的な存在として描かれているなどと説明。映画の中では多くの場合、ハンサムではあるもののセクシーとは言えず、恋愛より武道や科学に興味があり、時に野蛮な存在であるなどと説明。その具体例として、2000年公開の米アクション映画「ロミオ・マスト・ダイ」(アンジェイ・バートコウィアク監督)を挙げます。

 この作品、主人公の中国人のアクションスター、ジェット・リー(56)と米歌手兼女優のアリーヤ(両親はアフリカ系アメリカ人とネイティブアメリカン)のキスシーンが没になり、最終的に、単なるハグ(腕で抱きしめること)の場面に差し替えられたというのです…。

 東アジア系のアクションスターといえば、香港のジャッキー・チェン(65)もそうでした。日本でも大スターだった彼ですが、米ハリウッドに進出するも、残念ながら、大体“英語がへたくそなおっちょこちょいだが、超強力なカンフーの技で敵をなぎ倒す”といったステレオタイプの役柄しか与えられませんでした…。

 日本男子としては何だか悲しい話ばかりなのですが、もっと悲しいデータもあるのです。

 2004年に登場した米の大手出会い系サイト「オーケーキューピッド」の2014年の調査によると、東アジアの男性は白人や黒人、ラテン系の女性から見て、他の人種の男性に比べて平均で12~14%、魅力に欠けていたことが判明。米ニューヨークの名門、コロンビア大学がスピードデーティング(日本で言えば婚活パーティー)について調査した結果によると、2回目のデートにこぎつけるのが最も難しい人種であることが分かりました。

 さらに別の研究によると、東アジア系の男性が白人男性というライバルを出し抜き、白人女性とデートにこぎけたいと思うなら、最低でも年収約24万7000ドル(約2700万円)を稼ぐ必要があるというのです…。

 映画の外の世界でも、東アジア系の男性の地位は想像以上に低いわけですが、ガーディアン紙はこうしたステレオタイプな見方が根強い理由について、東アジアの移民が数十年にわたって西側世界にとって危険な人種であるという差別的な見方があったからだと指摘します。

 そして、英作家サックス・ローマーが1913年に創作した架空の中国人で、東洋人による世界征服の野望を持つ怪人「フー・マンチュー」のように、元々あるネガティブなイメージをことさら強調するようなキャラクターが映画などでたびたび登場するようになったことが大きいと明言しています。

 これまで深く考えたこともなかったのですが、確かに米ハリウッドにおける東アジア系の俳優の存在感や立場、そして描かれ方は、「ダイバーシティ」(人種や趣向、文化の多様性)や「インクルージョン」(多様な文化や背景、個人的特質をもった人を組織や社会が受け入れようとする動き)が物語の重要な要素を占める昨今のハリウッド映画においても、実力や才能を正当に評価したものだとは言えません。

 前述した東アジア系の俳優たちの今後の活躍が、米ハリウッドを変えることを期待したいものです。(岡田敏一)

 【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当を経て大阪文化部編集委員。ロック音楽とハリウッド映画の専門家、産経ニュース( https://www.sankei.com/ )で【芸能考察】【エンタメよもやま話】など連載中。京都市在住。

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