【ビジネスパーソン大航海時代】駐車場の新時代を切り拓く“パーキング王子”~航海(16)

 
吉川幸孝さん(右)

 今回は、駐車場のシェアリングサービス「スマートパーキング」事業を手がける吉川幸孝(ゆきたか)さん(株式会社シード代表取締役・28歳)についてお話させてください。

 吉川さんは、駐車場会社の2代目社長であるお父さんと同業界の会社を経営する“3代目社長”です。みなさんは、「3代目社長」と聞くと、どんな印象を持ちますでしょうか?きっと「御曹司として不自由なく暮らして世間を知らないのだろう」と思うのではないでしょうか?いわゆる“ボンボン”と感じませんでしたか?少なくとも私は最初そう思いました。

 しかし、お話を伺うにつれ吉川さんの人生は、お父さんに言われたわけではなく自ら起業したこと、そしてトラディショナルな駐車場業界全体から「パーキング王子」というポジションを請われたのだと理解するようになっていきました。

 それではインタビューをご覧ください。

 「スマートパーキング」が駐車体験を進化させる

 吉川さんが手掛けているスマートパーキングはどんなサービスなのか。まずそれから伺ってみました。

 早速ですがスマートパーキングのご紹介をお願いいたします。

 「不動産オーナー様や管理会社の方から空きエリアをご提供いただき、車を持つユーザー様がそこに駐車するサービスです」

 すごくシンプルですね(笑)。どこに革新性があるのか教えてください。

 「まず不動産オーナー様側の革新性ですが、従来駐車場にするためには初期コストが平均400万円くらいかかっていました。スマートパーキングはその初期コストを0円にしたのです。そのため駐車場経営をしていただきやすい。もう一方のユーザー様側ですが、スマートパーキングのアプリをダウンロードすると、リアルタイムで駐車場の空き状況がわかり、自分から一番近い駐車場も教えてくれます。そしてキャッシュレスで支払いができるのです」

 おお、とてもスマートなサービスなのですね。

 「はい。17の特許でサービスを支えており、オーナー様とユーザー様の駐車場に関わるストレスを限りなく0にしています。スマートフォンを持っている方であれば本当に滑らかに使えるのですよ」

 現在は何カ所対応しているのですか?

 「2020年6月末までの開設予定を含めると全国5000カ所になっており、毎日増えている状況です。最大手のタイムズさん(パーク24)が約17000カ所と言われていますので、それなりの規模感になってきています」

 「父を超える」がビジネスの原動力。

 なるほど、ビジネスとしての面白みが伝わってきました。2代目社長であるお父さんが企画されたのですか?

 「いえ違いますよ。よく勘違いされるのですが、私の起業と父の事業とは最初は全く関連がなかったのです。スマートパーキングを企画したのは私ですし、私の会社の事業です」

 もう少し教えてください。

 「まず父は、私が小さい時に“能力がないと継がせない”と言っていました。ですから私は父の会社を継げると全く考えていませんでした」

 今のシード社はお父様の会社ではないのですか?

 「はい、別です。私が作った会社です。父を超えたいと思い、大学3年生の時に起業しました。最初は大学生が思いつきそうな街コンなど様々な事業を手掛け、自分の給与も抑えて3期連続黒字で経営をしました。銀行から融資を受けるためには必要なことだと考えたためです。そして3500万円を借りて新規事業をしようと決めました。そこでうまれたのがスマートパーキングでした」

 なぜスマートパーキングを新規事業として選んだのでしょうか?

 「父はコイン駐車場業界でトップ10に入る規模の経営者なのですが、私の会社が父の会社の事業を手伝う機会があったからです。最初はなんとなく関わっていたのですが、手伝っていくうちに非常に効率化が遅れている業界だと理解が進みました。コインパーキングや月極など駐車場全体の市場規模は非常に大きいのですが、例えばいまだに現金支払いが基本になっています。デジタルに明るい20代の自分が勝負するには良い市場だと賭けたのです」

 なるほど。スマートパーキングは駐車場関連の仕事をきっかけに思いついたということなのですね。

 「まさにそうです。スマートパーキングをリリースして2週間経ってから初めて父に見せたくらい、最初父は関連を持っていませんでした」

 お見せして反応はいかがでしたか?

 「思いのほか良かったです。“これは便利だ。このデザインは年長者でも使えそうだ。”という感じでした。 父であるという前に、駐車場会社の経営者から反応が良かったということは自信につながりました」

 そこからお父様との協力がはじまるのですね。

 「はい。私のスマートパーキングは駐車場を提供してくださるオーナー様と駐車場を使うユーザー様の両方が揃っていないと成立しません。起業当初は、父を超えるために父の力を一切借りないと決めていたのですが、父はすでに駐車場を一定規模押さえています。そこで、父の持つ駐車場のうち100カ所をスマートパーキングに対応してもらうように依頼をしました。これは大きいことでした」

 なるほど。どのようにご自身の気持ちの整理をつけたのでしょうか。

 「はい、父の力を借りて、父の会社の10倍の規模にすると決めました。同じ規模であれば超えたとは言えません。負けているくらいでしょう。しかし、10倍だったら父を超えたと言えると思います」

 わかりやすいですね。現在のところその目標に向けて順調のようですね。

 「まだそうとは言いたくありませんが、最初の父の駐車場100カ所から、3年半で5000カ所になっています」

 社会に影響を与えるサービスを提供したい

  今までを振り返ってみてどう思われますか。

 「社会から見たら、まだまだだと思います。しかし、私はこの仕事が好きで毎日学習と挑戦を続けられています。やがては社会に好ましい影響を与えられる事業になると手応えを感じています」

 具体的にどういうことでしょうか?

 「免許を持ったら必ずスマートパーキングのアプリをダウンロードする世界がくると思います。日常使いのサービスですし、駐車場業界はIT化に遅れていることでストレスがあり、それを解決できると考えているためです」

 なるほど、あくまでも駐車場という領域を軸にして社会と向き合っていくのですね。

 「はい。スマートフォンが当たり前の世界になったことで、産業にある非効率をIT起業家が変えにきています。もちろん駐車場業界にも参入しようとする方は多いです。しかし、私はもともと父が駐車場業界だったことで、子供の頃から駐車場を見てきています。IT業界出身ではないのです。ですから私の考えには駐車場業界の方々から支援をいただけています」

 なるほど、もう少し具体的に教えてください。

 「はい。今駐車場が5000カ所に増えたのですが、最近一気に3000カ所増えました。“Smart Parking HUB” という、精算機メーカーと連携した技術を核としたサービスを提供できたからです。精算機メーカーからしてみると、大手でもIT系の会社と組むよりも、私のような駐車場業界のバックグラウンドを持ち、コツコツとやってきた会社と組むのは自然だと言っていただいています」

  イメージが湧きます。駐車場業界が待ち望んだ“パーキング王子”というわけですね。

 「そうは思いませんが、私は父を尊敬しており、その父が属す駐車場業界に自分なりに役に立ちたいと考えています」

 最後にSankeiBiz読者の方にメッセージをお願いいたします。

 「自分は、3代目であることに誇りを持てるようになりました。当初は父を超えるために父と関連がない事業を手掛けていましたが、より大きい社会インパクトを与えるために、今では同じ業界で自分なりに新しいアプローチで駐車場改革を進めています。私の人生の中で、それが最も多くの人の利便性に寄与できると思ったからです。起業家だろうと誰であろうと、人生の枠組みの中で出来るだけ大きい影響を与えられるように挑戦し続けていくべきだとは思いませんか?チャンスは日常にしかない。私はそう考えています」

 吉川さんありがとうございました。

【プロフィール】小原聖誉(おばら・まさしげ)

株式会社StartPoint代表取締役CEO

1977年生まれ。1999年より、スタートアップのキャリアをスタート。その後モバイルコンテンツコンサル会社を経て2013年35歳で起業。のべ400万人以上に利用されるアプリメディアを提供し、16年4月にKDDIグループmedibaにバイアウト。現在はエンジェル投資家として15社に出資し1社上場。
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ビジネスパーソン大航海時代】は小原聖誉さんが多様な働き方が選択できる「大航海時代」に生きるビジネスパーソンを応援する連載コラムです。更新は原則第3水曜日。アーカイブはこちら