CAのここだけの話

海外での多忙なCA生活が一変 突如始まった9年ぶりの日本生活

金子あすな

 SankeiBiz読者のみなさんだけに客室乗務員(CA)がこっそり教える「ここだけ」の話。第94回はマレーシアの系航空会社で乗務する金子あすながお送りいたします。

マレーシアの航空会社で乗務する金子あすなさん(左から3人目)。昇格試験に合格し、責任もより重くなるシニアキャビンクルーとしての初めての乗務は、天候不良により、ネパールの首都カトマンズへまさかのダイバート(代替着陸)。普段は日帰りで降機することのないカトマンズで撮ったクルーとの1枚。提供:本人
私のマレーシア生活が充実している理由のひとつは現地のラクロスクラブに入り沢山の大切なチームメイトが出来たこと! Lacrosse makes friends. 提供:執筆者
日本人の仲良し同期とリクエストしたインド便。乗務を終えて街へ繰り出しました。大好きな就航地に大好きな同期と飛んでいる時は本当に仕事なのかプライベートなのかを忘れ、この仕事に就けてラッキーだと思う瞬間です。提供:執筆者
全米ベストビーチにも選ばれたことのあるハワイのカイルアビーチにて。提供:執筆者

かつて見たことのない「0時間」

 私の在籍する会社では「turn around(宿泊を伴わない乗務)」「night stop(宿泊を伴う乗務)」ともに中国路線が多く、日本人だからといって日本線だけに乗務するという勤務体制ではありません。そのため、中国で新型コロナウイルス感染症の流行が本格化した2020年1月後半、旧正月前後には、すでに減便や欠航が相次ぎ、2月に入った頃には毎日のように「roster change (スケジュール変更)」の連絡を受けていました。

 そして私が住むマレーシアでは3月半ばに、生活に必要最低限の行動のみが許可される都市封鎖が始まり、そこから約2カ月半はかなりの厳戒態勢でした。その後、緩和はされたものの、感染者数は日本と比べはるかに少ないのにわりとしっかりと対策・対応をとっていて、日本とはかなり温度差があるように感じました。

 弊社も、マレーシアの都市封鎖開始後すぐに全便運航停止となりました。私たち外国人CAも、「マレーシアに残るか、無給休暇を取得して母国に一時帰国するか」の選択肢が与えられ、私は日本への一時帰国を選びました。

 こうして1月までは100時間もあった飛行時間が、数カ月の間に今まで見たこともない「0時間」となったのです。

 その後、私たちCAは、通常のCA業務ではなく、マスクや防護服などを大量に乗せた国際カーゴ便、海外に残されたマレーシア人を帰国させるためのレスキュー便での乗務にあたりました。

 加えて「乗務がない間にできることを!」ということで人身売買や絶滅危惧種の密輸についてなどのeラーニングによる課題が出されたりもしました。

9年ぶりの日本時間、おうち時間、家族時間

 日本に帰って来て、今までの生活ではありえなかった「Stay Home」と「自炊」が完全に習慣化し、私自身が一番驚いています。

 現在の会社に入社し、マレーシアでの生活と勤務が始まってからは、有給休暇や毎年の家族旅行は全てマレーシアか第三国で過ごしていたため、日本滞在は最長でも(冠婚葬祭のための)1回5日間程度。日本に帰ってくると毎回限られた時間の中で会いたい人も食べたい物も沢山ありすぎて大忙しでした。

 今回の一時帰国は、先の見えないものです。帰国後すぐに緊急事態宣言が出され自粛生活に突入してしまったので、こんなに長く日本にいるのに友人には自由気ままには会えず、大好きな食べ歩きもできずに実家でのおうち時間が始まりました。

▼マレーシアにはない「ゴミの日」

 自粛期間中は多くの方が断捨離をしたと思いますが、我が家も例に漏れず。ただ、マレーシアと異なるのが「ゴミの日」があるということ。マレーシアではおおまかな分別はあるものの日時構わずゴミ出しができたのです。日本に帰って来てまず、実家のある市町村のごみの分別方法から学び、ゴミ出しの曜日を覚えました(笑)

▼“CA事情”でほぼ外食

 この9年間のマレーシア生活では昼夜逆転。そのため、月間7日間しかないような繁忙期の休日は、「よく寝て、楽しく好きなものを、好きなだけ食べる」というのが私の一番の健康管理法でした。健康管理は私たちCAの重要な仕事のひとつなので、心身ともに健康でいることには常に気をかけていましたが、自炊からは遠ざかりがちでした。

 というのも勤務パターンも不規則なためCAの休日は短いのです。限られた時間の中で買い物をし、調理をし、また数日間家を離れるために残り物を廃棄することにとても罪悪感を覚えました。そこで私は、「美味い! 早い! 安い!」の3拍子揃った大好きなマレーシアごはんの外食で、朝ごはん以外をまかなっていました。

 こんな不規則な生活が日常の私たちCAなので、家庭持ちの同僚のママさんCA、パパさんCAには入社時から本当に頭が上がりません。

▼Farm to Kitchen 日本での自炊生活が楽しくなったワケ

 私はフライトの際に、ステイ先で地元のファーマーズマーケットや市場などに行くことが大好きです。現地の旬のものが手に入り、しかも季節が真逆の北半球、南半球の行き来もあるので1週間の間にいろんな季節の旬のものが食べられるのはCAの特権だなぁと感じていました。

 日本での自粛生活で自炊が楽しくなった理由のひとつに、89歳になる祖母が愛情をたっぷり込めて作った無農薬野菜の存在がありました。たけのこ、じゃがいも、ピーマン、なす、いんげん、茗荷、南瓜、ゴーヤ等々、沢山の野菜の収穫を手伝いました。

 安全で美味しい野菜づくりのために「高級米の米糠を使っているの」と嬉しそうに話す祖母。日々努力している話を聞いたり、実際に農作業をするその姿を見ていることもあり、畑から我が家の台所に“直送”されてきた野菜たちを家族のために調理できる喜びは格別。祖母と畑で過ごす時間、他愛もない会話は「いただきます」「ごちそうさま」の本来の意味をより一層強めてくれるものとなりました。

また会いましょう!

 最後になりますが、新型コロナウイルスの感染拡大が世界中でまだ終息の兆しを見せない中、とても不安ではありますが一人一人がうつらない、うつさないをきちんと意識して、また一日でも早く皆様と共に自由に国をまたぐ移動が可能となりますことを願っております。Jumpa Lagi!(マレー語で また会いましょう!)

神奈川県横浜市出身。法政大学国際文化学部業後、新卒でJAL SKY東京(現JALスカイ)に入社、羽田空港国際線で地上職員として勤務したのち、マレーシアの航空会社へ。乗務歴9年目。乗務に加え日本人乗務員の採用や育成、また日本語アナウンスの作成、指導にも関わっています。プライベートでは、大学時代にしていたラクロスをクアラルンプールで再開し、国籍、性別、人種、宗教、言語、年齢などを越え、ボーダレスに仲間たちと楽しく汗をかいています。

【CAのここだけの話】はAirSol(エアソル)に登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。隔週月曜日掲載。アーカイブはこちら