人材も安価に獲得…新たな副業のカタチ 「平日は大都市、休日は地方で」
普段は大都市で働く労働者が、週末などに地方で「副業」をするケースが出てきている。地方にとっては確保が難しい人材を安価で獲得できるメリットがあり、政府も兼業、副業などを通じて地域と関わる「関係人口」の拡大を柱にした地方活性化策を打ち出す。働き方改革の一環として厚生労働省が平成30年1月、副業を事実上解禁してから2年。新たな「働き方」は根付くのか。(橋本昌宗)
月に2回、長野へ
「本来の仕事とは別の視点を持ちたかった」
横浜市の大手アウトドアメーカーで顧客の利便性向上案や社内の業務改善プロジェクトなどを企画するマネジャーとして働く渡辺雅司さん(45)は、昨年5月から月に2回、週末に長野県白馬村で副業をしている。
出身は千葉県で、現在は横浜市在住。白馬村との関わりは、冬場にスノーボードなどのウインタースポーツを楽しむために訪れたことがある程度だったが、雑誌に掲載されていた、地方での副業を紹介する会社の記事を見て、応募。スキー場の運営などを手掛ける「八方尾根開発」で、冬以外の季節に集客できる新規事業の企画・調査などを担当している。
収入は月10万円ほどだといい、「仕事の内容は本業と似ているものもあれば、違うものもある。職場が全く違うので、大自然の中で気分的なリフレッシュにもなっている」と話す。
受け入れ側も「歓迎」
八方尾根開発では、渡辺さんのほかにも5人ほどの「副業人材」を受け入れている。同社の倉田保緒(やすお)社長(66)は、「地方企業にとって切実に足りないのは資金より人材。非常に助かっている」と語る。
倉田社長によると、国内のスキー人口が減少傾向にある中、社内には客を呼び込む新規事業を仕掛けられる人材が不足していたという。「副業なら交通費はかかるが、(フルタイムで雇うより)費用は少なく抑えられるし、さまざまな経験や技術を持った人に来てもらえる」とメリットを強調した。
「関係人口」拡大を柱に
地方での副業拡大は、政府も後押ししている。
昨年12月に閣議決定された令和2~6年度の地方創生の方針を示す総合戦略の中では、副業などで地方と関わる「関係人口」の拡大が柱の一つに据えられた。
内閣府によると、関係人口とは、観光客など一過性の人の動きとは違って週末だけ地方を訪れて働いたり伝統行事に参加したりする人を指す。将来的な移住にもつながるとされている。
また総合戦略では、副業などで地方に関わる意欲のある人と地元企業をマッチングする仕組みも構築するとしている。
八方尾根開発と渡辺さんをつないだ副業紹介会社「JOINS(ジョインズ)」(東京都渋谷区)の猪尾愛隆(よしたか)社長(42)は、「地方銀行などから相談を受ける事例も増えてきており、地方の人材不足は深刻な状態。都心の大企業などで働く人が活躍する余地は十分ある」と話している。
社員が管理できる仕組みを
一方で、副業推進に向けた企業側の動きは鈍い。
人材情報会社「リクルートキャリア」が平成30年10月に公表した企業に対する意識調査では、副業や兼業を「推進している」と答えた企業はわずか3・6%。「容認している」は25・2%、「禁止している」は71・2%に上っている。
禁止の理由は「長時間労働・過重労働を助長する」が44・8%と最多。次いで「労働時間の管理・把握が困難」が37・9%。副業先での仕事内容が見えないことによる労務管理上の不安が、二の足を踏ませている格好だ。
厚生労働省は12月、労働政策審議会の部会で、労災認定をする際に複数の事業所での労働時間を合算して判断する新制度を導入することで合意。ただ、労働時間の上限をどう規制するかについては別の部会で議論が続く。厚労省の担当者は「特に期限は設けていない」としており、包括的な指針は示せていない。
リクルートワークス研究所の萩原牧子主任研究員は、「そもそも勤務時間外に社員が何をしているか、企業がすべて把握しようとするのは無理がある。プライバシーの侵害にもつながりかねない」と指摘。
そのうえで、「会社側が『本業と合わせた労働時間が〇〇時間を超えるような副業は認められない』と就業規則で規定するなど、社員自らが(労働時間を)管理できる仕組みを整えていくべきだ」と話している。