「角が立っていても、和をなせる場が五輪」 2020大会エンブレム考案者の願い

 

 【オリパラ×デザイン(上)】大会エンブレム考案・野老朝雄さん

 東京五輪・パラリンピックが開催される令和2(2020)年を迎えた。選手が夢の舞台に向けて追い込みをかける中、大会エンブレム考案者の野老(ところ)朝雄さん(50)は「大きな社会実験ができる」と心待ちにする。市松模様を模したエンブレムはすっかり定着した形。エンブレムに込められた野老さんの願いとは。(松崎翼)

東京大会への期待を語る野老朝雄さん=新宿区 (三尾郁恵撮影)

 子や孫に伝える義務

 --いよいよ東京五輪・パラリンピックが近づいてきた

 「1964年の東京五輪では、建物ができたり、道路ができたりとインフラが整えられた。今回はそういう時代ではないが、新しい成功の形があると思うし、やはり楽しみ。ポジティブな気持ちになる数週間。私たちの世代には『2020年東京大会はこういうものだった』と子供、孫の世代に伝える義務がある」

 --エンブレムに込めた思いは

 「3種の四角形を組み合わせた市松紋様で多様性を表した。角と角の点がかろうじて接している様子から、『一生懸命さ』や『和をなす』ということをイメージした。スポーツには美しさがあり、万人が極致を見たいと思っている。角が立っていても、和をなせる場が五輪でもある」

五輪のエンブレム

 --エンブレムは数学的にも研究対象になっている

 「最近になって数理的にも興味を持たれるようになり、科学雑誌にも取り上げられた。これから始まるプログラミング教育の題材になったりして多くの子供たちが覚えてくれればうれしい」

 --街中にエンブレムがあふれている

 「エンブレムが入ったタクシーも多く走っていて、やはりうれしい。私の子供が5歳になり、エンブレムを見て『パパの』と言ってくれるようになった。子供が行く場所にあったりするとうれしい。大会が終わると一斉にはがされるので、『ロス(喪失感)』にならないようにしたい」

 --活動の原動力は

 「決してハッピーなことが原動力ではない。2001年9月11日の米中枢同時テロから『つなげる』をテーマに創作するようになった。世の中を変えてやるとは思っていないが、大きな断絶を見たときに、あきらめたくないという気持ち。何代先も遺恨を残す宗教対立など解決は難しいが、つながるということを訴えたい。大会期間に戦争がないということはニュースにはならないが、実はすごいことだ」

パラリンピックのエンブレム

 いかに記憶に残るか

 --何をもって大会の成功と考えるか

 「どういうふうに記憶に残るかが大事。大会をきっかけにアスリートになろうする人がいればいい。自動運転とか大きな社会実験ができるチャンスでもある。自分ができるのは、つながっていく概念を広めること。東京五輪にアンチ(反対)の人がいるのは理解できるが、少しでも多くの人に大会が開催されてよかったと思ってほしい」

 --大会後は

 「2030年冬季五輪では、札幌がまた開催地になるかもしれないし、どこかで関わりたいという思いはすごくある。コンペに挑戦できるようなコンディションでいたい」

 五輪・パラリンピックにデザインから深く関わる人に、大会への期待を聞く。((下)は明日1月12日に掲載します)

【プロフィル】野老朝雄

 ところ・あさお 新宿区出身。平成4年、東京造形大卒業。建築を学んだ後、建築家・美術家の江頭慎(しん)氏に師事した。13年から独学で紋様の制作を始める。テーマは「つなげること」で、部分を組み立ててつながるデザインを目指している。ビルの入り口壁画などで多くの作品を生み出す。東京大建築学科非常勤講師。