働き方ラボ

渾身のスピーチや企画書がまさかの“空回り” 伝わらない理由はそこにある

常見陽平

 「春眠暁を覚えず」というフレーズを思い出してしまった。孟浩然の詩『春暁』の冒頭だ。10代の頃、国語の教科書で読んだ。言葉の広がり、醸し出す空気感が素晴らしい。

 冗長でマンネリ気味

 もっとも、この美しい句とビジネスパーソンの現実はズレている。「働き方改革」が叫ばれるが、ゆっくり寝ていられるわけもなく、早起きして家を出て通勤ラッシュの末にたどり着いた職場では、何かと眠くなる瞬間が多いものだ。年や期の変わり目で、なにかとイベントが多く、人のスピーチを聞く機会が多いからだ。しかも、たいていはマンネリ化しており、つまらない。

 この手の話は長くて、眠くなる。厳密には、「長く感じる」ものである。冷静に時間を測ってみると数分であっても、「長く感じる」ものなのである。話が冗長である上、つまらないからだ。

 眠くなるのは、スピーチだけではない。社内外から届く企画書もそうだ。4月以降になると、新人営業担当者や、異動したての人の企画書があふれかえる。たいていは自己満足で、ダラダラと長い。しかも、どこかで見たようなもので、つまらない。なんせ、役に立つ提案になっていない。

 春は採用の季節でもある。新卒の就活も、4月入社に向けた転職活動も盛り上がる。たくさんの履歴書が届くが、残念なものも多数だ。これまでの人生で1万枚近いエントリーシートを読んできた。たいていは「会いたい」とは思うものではない。「入りたい」という愛に満ちあふれているが、あまりに一方通行でストーカーのラブレターのように見えてしまう。

 気鋭の電通マンがノウハウ披露

 一方、「この履歴書は伝わらない」とバッサリ斬る人事も同じような失敗をしている。仕事柄、合同説明会などで会社説明のプレゼンを聴く機会が多いのだが、取引先向けの資料をそのまま利用し学生向けに説明するので、職場としてまったく魅力を感じない企業が多数という状態になってしまう。わかりにくいプレゼンに対して熱心に食いついている風に装わなくてはならない学生もかわいそうだ。

 そういう私の原稿も、すでにダラダラと長くなっており、説得力がまるでなくなっている。さて、どうすればいいのだろう? ヒントになる本が登場した。『言葉ダイエット』(橋口幸生 宣伝会議)がそれだ。著者の橋口幸生氏は大手広告代理店電通のコピーライターである。ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、ACC賞ゴールド、スパイクスアジアなど、数々の賞を総なめにしてきた才能の塊のような彼が、そのノウハウを私たちに惜しげもなく開示してくれる有り難い本だ。

 「誰も見たくない」という前提

 「でも、お高いんでしょう?」と不安になる人もいるだろう。1,500円+税で売られている他、なんと、Kindle Unlimitedにも入っているから、会員は今すぐ読むことができる。

 本書の主張は明確だ。なぜ、あなたの文章は伝わらないのか? それは「書きすぎ」だからだ。伝えたい内容を詰め込みすぎているからだ。気づけば贅肉だらけの文章になってしまっているのだ。結果として読みにくくなってしまうのだ。「言葉ダイエット」とは、言葉の贅肉を削ぎ落とす行為なのだ。

 なぜ、ビジネス文章はグダグダと長くなってしまうのだろう? 著者は「読んでもらえる前提でいるから」「あなたが真面目で、能力が高いから」だと喝破する。

 特に前者は、言われてみると当たり前なのに、いつの間にか認識しなくなるのではないだろうか。昔の漫画に出てきそうな、個人宅に入り込み、買ってくれるまで帰らないような、押し売りのようなことを、いつの間にかやっていないか?

 新人コピーライターはまず「広告なんて誰も見たくない」という前提を叩き込まれるという。芸能人が出て、売れているアーチストがBGMを演奏している広告ですら、皆、見たくないのである。この「誰も見たくない」前提で考えるという発想は有益だ。

 「あなたが真面目で、能力が高いから」という指摘にも深く頷いてしまう。前述した、新卒採用の世界での「難しいことを言っているが、学生にはまるで伝わらない会社説明」も原因の一つは、これだ。学生に企業を理解してもらい、就職先として興味を持ってもらうための説明であるにも関わらず、社内からの「正しく我が社を説明していない」という圧に屈してしまっている。真面目にとりくみ、専門用語を多用し、学生のためではなく、社内にアピールするための説明になってしまっているのだ。

 具体例が満載

 「ひとつの文には、ひとつの内容だけを書く」「1文は40~60文字以内」「抽象論禁止」「繰り返し禁止」「ムダな敬語禁止」「表記を統一しよう」「こそあど&接続語の連発禁止」などのノウハウも具体的でわかりやすい。しかも、「言葉ダイエット」の具体例が満載だ。通る企画書、エントリーシートをつくるためのヒントに満ちている。

 気鋭のコピーライターによる、書き方の教科書のようで、この本は「伝えたいことは何か」「どんな価値を提供するのか」という本質を問いかけるものである。これはクリエイターと言われる人への誤解を解く本でもある。何かすごいものをつくる存在ではなく、物事を整理し、どうやったら伝わるかを考え抜く。これもクリエイティブの機能だ。

 「言葉ダイエット」という概念を紹介する文章なのに、グダグダと書いてしまった。いいたことはたった一つ。この春、あなたも「言葉ダイエット」を始めよう。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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