働き方ラボ

新型肺炎レベルの難局で一社員がすべきこと 将来に備えてリスク管理を学べ

常見陽平

 ビジネスパーソンとしてできることを考える

 今、そこにある危機といえば、コロナウイルス問題だ。日本国内でも感染者が広がっているのは報道されている通りだ。経済的影響が甚大であることは確定的だと言っていい。グローバルなサプライチェーンに影響する。日本への渡航者が減少するだけでなく、国内の消費にも影響する。

 各種イベントの中止や延期も続いている。東京五輪の開催を危ぶむ声もある。ロンドンが東京で開催できない場合の開催地として名乗りをあげたが、これだけ世界各国に影響を与えているとこれも厳しいと見ざるを得ない。

 ただ、政官財などそれぞれの立場の人が危機を乗り越えようと頑張っている状態に水をさすつもりはないが、日本の危機管理については今回も首を傾げざるを得ない。海外メディアで叩かれているのは周知の通りである。未曾有の事態ではあるが、特に政治家の対応などは後手後手と言っていい。まるで映画『シン・ゴジラ』の前半を見ているかのようだ。政治家も官僚も対応しきれない。エラーだらけの野球が、いま展開されている。

 自分の目の前で起きていることにもふれておこう。各大学は卒業式や入学式の中止や、小規模化をすすめているし、入試への配慮を行う大学も現れた。就活においては、リクナビが合同説明会を中止した。決行を決めた説明会でも、参画を見送る企業が現れた。動画を活用した会社説明会、ビデオ面接を行う企業もある。さらには、面接でのマスク着用を認める企業も。趣味の音楽に関していうと、外国人アーチストの来日(さらにはアジアツアーの)キャンセルが相次いでいる。ライブを決行するにしても、グッズの生産が間に合わないという事件も起こっている。この10年で音楽業界はCDからライブ、グッズに儲けの柱をシフトしたので、打撃は大きい。

 こんなときに何をするべきか? いちビジネスパーソンとして、できることを考えてみよう。

 不安を煽るわけではないが、これは世界の危機であり、国難である。ただ、天災や事故などと違うのは、誰が感染しているのか、どこまで広がっているのかを明確にすることができないことだ。個人としては感染することが怖いが、「被害者」になるだけでなく「加害者」になることも怖い。感染すること、させることを防がなくてはならない。その理由から、チケット争奪戦を突破して、楽しみにしていたPerfumeの25日の東京ドーム公演に行く予定だったが、自粛することにした。親として、教育者として数万人が集まる場所に行くことに危険を感じたからだ。主催者は25日のライブを決行したが、来ない人は払い戻しという対応だった(※26日の公演は所属事務所が当日に中止を発表)。

 「コロナの恐怖の中、決死で働いた○○さんは偉い」というような物語のヒーローになることを目指してはいけない。このような行為は、美談のようで信頼を失う可能性がある。もちろん、業務の性質上、このような環境下でも働かざるを得ない人がいるということは認識しなくてはならないのだが。

 社会や会社の方針に従って、アポをキャンセルしたり、リモートワークにせざるを得ないこともあるだろう。やむを得ないが、これ以上、危機を深刻化させないためにも英断が必要だ。もろもろ、サービスレベルを下げざるを得ない状態もありうるが、寛容でありたい。

 寛容といえば、政府もリモートワークの活用を呼びかけているし、企業でも推進の動きがある。あたかもリモートワークが万能の杖のように喧伝されているが、冷静になりたい。この手の話は、リモートワークをやったことがないか、フリーランスの立場での在宅ワークと1対1のビデオ通話くらいしかやったことがない人の意見である。

 リモートワーク=在宅勤務ではない

 すべての取り組みにはメリット、デメリットがある。その弊害についてもふれておかなくてはならない。テレワークが解決するのは、通勤である。テレワーク導入企業では、通勤時間は減るものの、労働時間が増えてしまうという問題が起こることがある。また、慣れない人にとっては、ビデオ通話を利用した会議などは苦痛だろう。遅延なども起こりうるし、話が聞き取れないこともあるからだ。

 なお、リモートワーク=在宅勤務ではないことにも注意したい。テレワーク協会の定義では、この働き方は3つに分類される。在宅勤務と、直行直帰の営業に代表されるようなモバイルワーク、そしてサテライトオフィス勤務だ。ただ、現状のコロナ対策から考えるならば、この中でも推進されるのは在宅勤務ということである。

 よく、在宅勤務は育児や介護との両立が可能だと喧伝される。ただ、これらと仕事の両立は修羅場になる。さらに、もし自身や家族がコロナウイルスに感染したら…。デスマーチ状態になる。

 そもそも論で言うならば、リモートワークは簡単に始められるわけではない。よく、スマホとノートパソコンがあればどこでも仕事ができるという言説があるが、これもNOだ。セキュリティが確保された状態でなくては本来であればリモートワークをするのは危険である。ネットワークや端末へのログイン、安全なチャットツール、ファイル共有の仕組みなどが必要であるし、さらには勤怠管理の仕組みも必要である。端末に極力情報を残さない仕組みを活用する場合もある。

 リモートワークに対応した就業規則も必要だ。これに関しては、わかりやすい雛形が用意され、導入は簡単になったのだが。

 このような慣れない状況でリモートワークを行っているこということを理解したい。社内外の人に対する思いやりが必要だ。

 そして、このような環境下で仕事を減らしている人たちもいる。フリーランスや非正規雇用で働く人たちである(一部では特需も生まれるが)。社会全体が痛みに苦しんでいることを認識したい。

 さて、イベントや飲み会のキャンセルも増えた今、するべきことは何か? インプットである。特に先人たちがどのように困難を乗り越えたのか(あるいは、それができなかったのか)について学ぶべきだ。個人的には『シン・ゴジラ』をみること、『失敗の本質』(野中郁次郎ほか 中央公論新社)を読むことをおすすめする。組織はなぜ腐敗するのか、なぜ優秀だと言われる人たちがいても上手くいかないのか、学ぶことにしよう。

 さらに、社内外の人たちが、この困難にどう対応するのか。観察することにしよう。自分自身のあるべき姿や、やってはいけないことの参考になるはずだ。いつか、リーダーになるその日のために。というわけで、国難そのものだが、こういうときこそ平常心でいこう。上を見て歩かなくていいから、前を向いて進もう。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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