企業よって対応は180度変わる
先日、企業の経営者たちも多く参加するゴルフコンペが開催されたのですが、欠席者も多かったようです。参加していた経営者の方々とも新型コロナウイルスの話題になりました。その中で印象的だったのは、各社の感染拡大防止策に関して、経営者によって見解が大きく分かれることでした。
ある社長は、コロナウイルスの影響を全く懸念しておらず、従業員に対して特にテレワーク推奨などのアナウンスをしていないと言います。ある社長は、従業員に5名以上が集まる密室空間への参加を禁止しており、自身も、コンペの表彰式は別室からテレビ電話で参加していました。
ウイルスという「見えない敵」と、現段階では「終わりが見えない戦い」をしている上で、「これが正解」と定義するのは難しいと思います。しかし企業のトップの考え方は企業のブランディングにも大きな影響を与えます。今回の対応が対外的にどう映るかを考慮し、保守的な対策をとっている企業が多いようです。
こういう非常時こそ、「企業の真価」が問われるのだと思います。平常時はある程度ルールが決められており正しい判断が下しやすいですが、非常時は、状況に対応したルールがないことが多く、判断を誤るケースも出てくるからです。
東日本大震災のときのあの「不安」
フリーランスの仕事がなくなってしまった、一斉休校で勤務終了を告知された、有給休暇でない欠勤を求められた…。社会全体が新型ウイルスへの感染リスクにさらされる中、パートやアルバイトといった非正規労働者が、働くことさえできなくなり収入に困るというニュースを耳にします。
私はそうした収入不安を、実体験をもって理解できます。私の前職である受付嬢の雇用形態は基本的に派遣社員か業務委託。東日本大震災が発生した時、私も派遣社員として、ある企業の受付嬢をしていたからです。
震災直後、派遣就労先(派遣先)の企業は、営業できるような状況ではなかったので、私たち受付嬢を含めて全社員に自宅待機を指示していました。以前もお話ししたように、受付という場所に紐づく業務ですから、出社しなければ就業することすらできません。その時に一番不安だったのは「こういう非常時に就業できない場合、私たちの収入はどうなるのか」ということでした。これは今、新型コロナウイルスの影響で就業できない非正規雇用者の方々も感じている不安と近いと思います。
大震災当時の私は幸いにも、自宅待機となった日数分の賃金をいただくことができました。自宅待機を「指示している」という理由で、派遣先の企業が、派遣社員の賃金まで補償してくれたのです。非常にありがたいことでした。
しかし、それはあくまで派遣先の「ご好意」。あの時、違う派遣先だったら…と思うと本当に不安だったと思います。実際に補償してもらえない企業に勤めていた受付嬢の友人もいました。
この時は、正社員雇用のメリットを感じた場面でもありましたが、正社員で雇用されていても、全額補償してくれるかどうかはまた別な話のようです。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、イベント関連施設自体が休館になっているので、そこで働く人はテレワークもできず、休暇を余儀なくされているそうです。その間の給与の数割は補償されるようですが、全額ではないとのことです。「終わりが見えない戦い」である以上、副業を始めるわけにもいかず、このまま転職を検討するほど深刻化しているそうです。ウイルスによるさまざまな制限はあれど、テレワークや時差出勤を活用して働き続けられる人はまだ良いのかもしれません。
今回の事態を受け、国は賃金補償制度を発表しました。制度がないよりは遥かに助かるとは思いますが、それぞれの生活環境や家族構成が異なる中で一律の補助があったとしても期待通りの効果は得られないのではないかとも思います。
企業側のフォロー「まったくない」
人間誰しも、不安な状態やストレスフルな状態が続くとパフォーマンスは落ちます。パフォーマンスを維持する上で精神的な健康は重要ですが、それ以上に重要かもしれないのが「企業との信頼関係」です。
企業が自分(従業員)のことをきちんと考えてくれているのかは企業で働く上でのモチベーションに直結します。こういった非常時に企業がどう立ち振る舞うかで、信頼関係の向上にも低下にもどちらにも繋がります。
弊社にも派遣社員がいます。彼らに、新型ウイルス感染拡大に際して派遣元の会社から、勤務に関するフォローの連絡があったのか聞いてみたところ、「全くない」とのことでした。「手洗いうがいを入念にしましょう」という呼びかけはあったそうですが、現段階で派遣会社がとるべきコンタクトとしては違和感を覚えます。私がその派遣会社で就業していたら、不信感を抱くと思います。
派遣会社は派遣スタッフの方の就業で成り立っている会社ですから、派遣スタッフ一人ひとりへの不安を少しでも和らげるような配慮があって当然ではないでしょうか。
対応は企業や国が 予防は個人が
突然起きてしまう災害や今回のような新型ウイルスは予測しようがありません。
その瞬間の痛みを和らげる「対応措置」は必要ですし、それは企業側や国が実施するべきでしょう。対応措置を行うべき企業側に、従業員などへの配慮を実施しやすくなるような政策(例えば法人税をその年だけ見直すなど)を行うほうが多くの労働者やその家族を少ない労力でカバーできるかもしれません。
一方で、従業員ひとりひとりも、非常時に備えた働き方に備える必要があると思います。
弊社RECEPTIONIST(レセプショニスト)も、現在はテレワークと時差通勤を推奨しています。しかし、推奨以前と状況がさほど変わることはありません。一部社員は、それらを取り入れていますが、営業などの対面業務に携わる社員は平常時と全く変わりません。
従業員はみな判断力のある社会人という認識で、「自己管理」を基本としています。マスクを着用している人もいれば、していない人もいます。会社から細かい規定などはあえて設けておりません。こういう時こそ「自分の身は自分で守る環境」を構築したいものです。
繰り返しになりますが、非常時こそ企業の真価が問われます。非正規雇用者、テレワークで対応する従業員、業務上テレワークできない従業員、それらの人々の生活を維持して初めて、予測不可能な困難を乗り超えていると言えると思います。企業にとって、本当に戦うべき相手はウイルスではないといえるかもしれません。終わりの見えない戦いのもと、ルールが整備されていない中で、自分たちの日常を確保すること。これが私たちが向き合うべき一番の課題かもしれません。
【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら