1匹400万円? 新型コロナでダブつくコツメカワウソ市場 密輸も横行
【衝撃事件の核心】
近年、東南アジア原産のコツメカワウソが日本でブームになっているのをご存じだろうか。テレビ番組やSNSなどで愛くるしい姿が発信されるとペットとして飼う人が増え、触れ合えるカフェも全国でオープンした。一方、裏では転売目的の密輸が横行し、昨年8月にはワシントン条約で国際商取引を禁止することが決まった。そんなさなかに起きたのが、大阪の男がカワウソを密輸しようとした事件。その背景を探ると、今後の対策に懸念も浮かび上がってきた。(西山瑞穂)
タイの男から…
昨年9月、関西空港の検査場で税関職員がタイから帰国した男(54)を呼び止めた。持っている小型スーツケースを開けるよう指示し、衣類を取り出すと段ボールのような小さな箱が現れた。かすかに聞こえる「キュキュキュ」という鳴き声。職員が中をみると、まだ目も開いていない生後間もないコツメカワウソ2匹の弱り切った姿があった。
男は、関税法違反容疑で大阪府警に逮捕された。以前に熱帯魚ショップを経営しており、今年2月の裁判では「タイの知人の男から日常的に動物画像が送られてくる」と証言した。
今回も無料通信アプリLINE(ライン)で届いた動画などをみてタイに渡ったという。2匹の購入価格は計3千バーツ(約1万円)。日本では1匹100万円超で売れるとされるが、男は「あまりにもかわいくて持ち帰ってしまった。独り暮らしの寂しさを紛らわすためで、転売目的ではない」と釈明した。
しかし、男の行動には不審な点もあった。
1匹400万円?
コツメカワウソは、環境悪化やペットにすることを目的とした乱獲などで生息数が減少。そのため、昨年8月のワシントン条約締約国会議では条約の付属書1(サイテス1)への掲載が決まり、同11月26日から国際商取引が禁止された。同時に国内法も改正され、国内での売買や譲渡なども原則できなくなった。
ただ、例外もある。同日までに国内で取得、あるいは輸入された個体は環境相に登録でき、登録個体同士の子も同様に登録が認められる。この登録票があれば、国内で売買できる仕組みとなっているのだ。
サイテス1になれば希少価値が高まり価格高騰は必至という。静岡県の動物園「イズー」園長で動物商の白輪剛史さんは「これまでの100万円というのも、実は仕入れ値が格安の密輸個体に引き下げられた相場で、適正な小売価格は約200万円。今後はそれが倍以上にはなる」と話す。
府警によると、こうした状況を狙い、サイテス1への格上げ前に密輸の動きが活発化することはよくあるという。今回逮捕された男は環境省に法改正について問い合わせた上、密輸直前にも1度タイを訪問。捜査関係者は「自営業で生活も苦しいのに、自分で飼うためだけにここまでするだろうか」と首をかしげる。
登録審査に課題
密輸がやまないのは裏を返せば、登録審査をすり抜けられると考える業者がいるということだ。国際的な野生生物取引監視団体「トラフィック」の浅川陽子さんは現行の審査について、「規制前に国内にいたことさえ証明できれば登録できる。親子関係のチェックも厳密でなく、密輸個体を登録個体の子として申請する方法が抜け穴になる恐れもある」と警鐘を鳴らす。
批判も踏まえ、環境省はコツメカワウソの審査には特に慎重を期す構えだ。取得までの経路について申請者に厳密な説明を求め、必要に応じて現地調査も行うことになる。登録機関によると、昨年11月26日以降、今年3月1日までに登録を認めた個体はまだいないという。
「これだけ厳しくなれば、組織的な密輸は通常なら下火になる」というのが白輪さんの見立てだが、事態を複雑にしているのが新型コロナウイルスという。「中国がコロナ収束まで野生動物輸入を全面禁止したことで国際市場がだぶついており、困ったブローカーが違法に売り込んでくる可能性がある」からだ。
さらに、コツメカワウソの密輸を防いだとしても、業者は次のブームを探すだけ、という見方もある。「飼えなくなって自然に放すと、駆除の対象にもなりかねない。扱いが難しい動物もおり、ペットにして本当にいいのか、まずは考えてほしい」。浅川さんはそう訴える。動物を守るために必要なのは、1人1人の心掛けにほかならない。
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