増える感染経路不明も追跡限界 夜の繁華街、プライバシーの壁

 
雪が降り閑散とする新宿で歩く人々=29日午前、東京都新宿区(萩原悠久人撮影)
新宿・歌舞伎町をマスク姿で歩く人たち=27日(ロイター)

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、感染経路を追跡できないケースが東京都内で増えている。感染者に対する保健所の聞き取り調査では、プライバシー上の理由などから十分な回答が得られず、感染者の詳細な行動、知人らとの接触の度合いなどを把握しきれていないという。懸念される夜の繁華街の感染に網がかけられず、大規模な感染の連鎖につながることが危惧されている。

 東京都では1日当たりの感染者数が25日から40人台になり、28日には63人に達した。院内感染が疑われる台東区の永寿総合病院の関係者が数字を押し上げている一方で、25~28日で感染経路不明の人数は発表時点で計78人に上った。都の幹部は「どこで感染したか分からないケースが積み重なることは感染の連鎖を招く恐れがあり、深刻といえる」との認識を示す。

 感染が判明した場合、保健所は感染経路の特定などに向け、感染症法に基づく調査を実施し、発症前2週間や発症以降の行動を調べる。勤務先など必要な場所を消毒した上で、濃厚接触者にはウイルス検査を行い、さらなる感染拡大の抑え込みを目指す。

 しかし任意の調査のため、実態解明に「プライバシー」の壁が立ちはだかる。都内では、夜の繁華街をめぐる調査が難航。関係者によると、感染経路の不明者の中で、世代を問わず一定数の感染者が夜の繁華街の飲食店で食事をしていることを把握した。ただ、店名や同席者の名前に関して、当事者らは「相手の迷惑になるから」などと口が重たくなるという。

 一部で店名が判明することもあるが、今度は店側が「症状のある人はいません」「お客さんの迷惑になるので来ないでほしい」などの対応をとり、調査が進まないケースが多い。

 都幹部は「素直に話してくれたほうが、関係者の健康、命を守ることになる。職員はそれこそ、手を替え品を替え何度も説得するのだが、感染者も店も消極的な例が目立つ。お願いベースの調査の限界を感じている」と漏らした。

 山梨県では、感染が判明した男性会社員が当初、調査に対して発熱後は自宅療養していたと説明したものの、実際は夜にコンビニエンスストアでアルバイトしていたことが発覚した。県が調査強化のため、県警からの出向組も入れた感染症対策特別チームを立ち上げる事態になっている。

 海外ではこうしたケースにどう対応しているのか。

 イスラエルでは、ネタニヤフ首相が携帯電話の位置情報を用いて感染者の行動を追跡し、濃厚接触者などの調査に乗り出すと表明した。中国でも同様の措置が取られていると、多くの専門家は指摘する。

 海外の非常事態制度に詳しい法政大学の萩谷順名誉教授(現代政治)は「感染症の防疫には感染者の行動経路のトレース(追跡)が不可欠だ。今の日本の法体系では、強制力をもって行うことができず、行政関係者にとって大きな障害になっている。政治のリーダーが感染拡大の瀬戸際にあることを上手に伝え、国民の調査への理解を得る必要がある」と指摘している。