【ローカリゼーションマップ】ラグジュアリーはモリスに回帰 社会性の高いクラフト感覚が求められる
昨春から何度かラグジュアリーのあり方について、本連載で書いてきた。実のところ、このテーマに関わる前は「ラグジュアリーなんて!」と思っていた。しかし、どうもラグジュアリー周辺に何か新しい胎動があるのではないかと感じ始め、探索をはじめることにしたのだ。
この1年間、ずいぶんと色々な人に会ってきた。その分野の商品を当事者として扱う人、当該分野をプロモートする人、アカデミックに研究する人、さまざまである。本や資料も少なからず読んできた。
そして、ぼくの狙いはラグジュアリーの新しい意味、21世紀に消費者として台頭する新しい世代に対するラグジュアリーとは何か?を考えることに絞られてきた。
ラグジュアリーの顧客層が変化しつつあることは、どの資料をみても明らかである。主力が欧州の中年以上の紳士淑女の世界ではないのは、既に1970年代からの傾向であった。1990年代には日本のパラサイトシングルの女性のラグジュアリー商品の購入が欧州のアカデミックの人たちの間でも話題になり、今世紀に入ってからは、中国やロシアの人たちが表舞台に出てくる。あるいは東南アジアの人たちも、そのなかに入ってくる。
こういう新しい人たちは、旧大陸の顧客と比べると圧倒的に年齢が若い。しかも彼らの求める感覚は、文化圏を問わず共通しているところがある。例えば、ラグジュアリー領域にある企業は、他の領域の企業よりも「社会的な責任を果たすべきだ」との期待を、彼らはもっている。もっと言えば、彼らの次にやってくるZ世代(1990年代後半以降の生まれ)の到来に焦点があたる。
彼らの望む傾向とは何か? クラフト感覚への希求だ。機械で作られた同じものが世の中に沢山あることを好ましく思っていない。人肌を感じられる自分だけしか所有できないものを欲しいと思う。
即ち、社会性が高いクラフト感覚のあるモノを求めるとすると、ふと思うことがある。
それは19世紀の後半に英国で活躍したデザイナーであり社会運動家であるウィリアム・モリスが先導したアーツ・アンド・クラフツ運動である。アーツ・アンド・クラフツ運動は、産業革命で大量の質の劣る製品が市場に出回ったことに対し、中世にあった職人の手によるモノを世に問うた。
モリスはテキスタイルやステンドグラスを作り販売したが、当時の富裕層から人気のある商品となった。高額だったのである。彼自身は労働者が社会のなかで活躍することを思想上は望みながら、実際のビジネスにおいては逆のかたちになってしまった。
こうしたこともあり、アーツ・アンド・クラフツ運動は20世紀初頭のドイツに生まれた建築とデザインの学校、バウハウスの源流として、即ち、近代デザインのスタート地点としてみられながらも、ビジネスの文脈においてはあまり敬意を表される対象とはなっていなかったとの印象がある。
しかし、これこそがラグジュアリーの歴史の一つの源として再評価されるべきではないか? いや、再評価される流れができていくのではないか?と、ぼくは思い始めた。
この数カ月、ラグジュアリーについて考え続けている人たちに、ぼくの仮説をぶつけてきた。
「ラグジュアリーというと、フランスの19世紀のブルジョワジーに愛されたモノの歴史が語られることが多い。それはそれでアリだが、Z世代の特徴も勘案すると、アーツ・アンド・クラフツ運動をラグジュアリー史のなかで位置付けていくことが、もっと議論の対象になっていくと考えているのだが、どう思うか?」と聞いてきたのである。
結果、概ね、同意してくれる人が多い。ぼくの勘をつけた方向は悪くないらしい。よってこれをベースに、ラグジュアリーの歴史と意味をさらに整理することを考えている。
さて、そのためにも英国にまた行きたいと思うのだが、どのタイミングで英国に自由に行けるようになるのか、これはまだ何とも言えない。ミラノの図書館で資料を探すこともできないし、さらなる関係者にも会いたいが、それも叶わない。
何らかの圧政なりの時代の終焉の次に文化が花ひらく例があるが、そのような時代の雰囲気の変化があるのだろうかと夢想している今だ。少なくても、新しい欧州に期待しておこう。
【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?:世界を魅了する<意味>の戦略的デザイン』『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
Twitter:@anzaih
note:https://note.mu/anzaih
Instagram:@anzaih
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。
関連記事
-
【ローカリゼーションマップ】風評被害を招く感染拡大の背景分析 限られた異文化理解の適用は自戒が必要
-
【ローカリゼーションマップ】全土封鎖のイタリアに悲惨な感染予測 それでも国民は歌声で鼓舞
-
【ローカリゼーションマップ】「人生は不安定だから自分は自分で守る」 新型コロナで子供に教えたいこと
-
【ローカリゼーションマップ】新型コロナでミラノのスーパーにも異変? 全体像把握の難しさが招くパニック
-
【ローカリゼーションマップ】倫理性に乏しいビジネスへ再考を促す「美」 デザイン文化の聖地が問う
-
【ローカリゼーションマップ】洗練されたリーダーシップは「聴く力」に支えられる 日本文化が生かされる時
- その他の最新ニュースはこちら