最低7割減出勤は高すぎるハードル 中小企業反発、政府要請に「仕事なくなる」

 
緊急事態宣言が出され、JR大阪駅を利用する乗降客も少なくなった=10日午前(安元雄太撮影)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が7日に発出した緊急事態宣言の対象地域では出勤者を最低7割減らすよう唐突に求められ、中小企業は頭を抱えた。すでにコストをかけながら感染初期からテレワーク(在宅勤務)導入を進めてきており、これ以上の推進は「あまりにも高いハードル」というわけだ。中小企業のテレワーク導入は約2割にとどまり、大企業の半分以下との調査もある。(岡本祐大)

 人員の余裕なく

 「できる人はテレワークをやるように」。電子機器を製造する大阪府内の事業所で働く男性(33)は13日、上司から突然告げられ驚いた。会社では今まで誰一人テレワークをしたことがなかったからだ。

 社内システムは自宅で見られるのか、取引先との連絡はどうするのか、こうした説明はなかった。「政府が言い出したので会社としてポーズだけでも取ったのではないか」。男性はそう感じたという。

 民間調査会社の東京商工リサーチが5日までに全国の企業約1万7千社を対象に行った調査では、在宅勤務などのテレワークを実施している企業は25・3%にとどまる。このうち、資本金1億円以上の大企業は約48・0%で実施していたのに、中小企業は20・9%と半分以下だった。

 同社は「社内インフラの整備や、交代勤務できる人員の余裕などの違いが背景にある」と分析する。

 工場は出勤必要

 また、日本商工会議所の三村明夫会頭が13日の定例会見で、製造や運輸、建設業などを挙げ「テレワークは難しい」と指摘したように、業種によってテレワークを導入しやすいかしにくいかの違いがある。緊急事態宣言の対象となった7都府県の製造業者は、「7割減は達成困難だ」と口をそろえる。

 関西の企業のうち、清酒メーカー日本盛(兵庫県西宮市)は、すでに営業担当者に現場との直行直帰を徹底している。

 しかし、「オフィス勤務者に限っても7割減らすのはハードルが高い」(担当者)。これまでパソコンの持ち帰りを想定しておらず、テレビ会議システムを導入するにしても、納入には時間がかかるという。

 帽子製造のマキシン(神戸市)も販売員を自宅待機としているが、「職人たちは自宅で作業できない。(大きな通勤の削減は)大企業ならできるかもしれないが」(担当者)とこぼす。

 IT企業が導入支援

 社員約60人の大阪市内の金属加工業でも、時差出勤や有給休暇取得の奨励で「業務の間引き」を進めているが、テレワーク実施は約3割にとどまる。

 工場の稼働や顧客対応に従業員が出勤してくることが必要で、関係者は「7割削減のために納入を待ってといえば、仕事がなくなる」と憤る。在宅勤務できるよう、社内システムをそろえるにしても多額の出費を伴う。関係者は「政府の方針は後だしじゃんけんのように次々出てくる」と不満をこぼした。

 一方、テレワーク対応に苦しむ中小企業を支援する動きも出てきた。パソコンメーカーのレノボ・ジャパンは社員300人以下の企業を対象に、ノートパソコンを貸し出す。すでに250台のパソコンを確保し、1社当たり5台まで最長3カ月無料で貸し出すとしている。

 新型コロナの流行をきっかけに、初めてテレワークを検討する企業もあるため、相談を受け付ける窓口も設けているという。