【ブランドウォッチング】巣ごもり生活の締めに「-196℃ストロングゼロ」 家飲み時代の直球勝負
新型コロナウイルスは、流行前にまったく予期していなかったかたちで、我々の仕事にも生活にも大きな影響を与えています。やはり外出を極力控えざるを得なくなったことが、日々の変化としての影響が大きいと感じます。
もちろん国難とも人類的災厄とも言える今回の事態です。1日も早い収束を願い出来得る限りの自重をする他ありません。そんな巣ごもり生活の中で、ツイッターやインスタグラム上で色々な在宅勤務や生活の工夫が紹介されています。特に在宅中、仕事とアフターファイブを同じ空間で過ごすがゆえにせめて1日の締めに趣向を凝らし気分転換を図ろうという人の投稿が目をひきます。家で居酒屋開業しました、とかオンライン飲み会など、苦境をせめて楽しく過ごす投稿が、なかなかの充実ぶりです。そしてそんな家飲み投稿を見ながらふと気づいたのが、そのかたわらにサントリーの-196℃ストロングゼロをはじめとするチューハイ飲料の多いことです。
強いパッケージデザインで存在感極まるRTDカテゴリー
新型コロナウイルス流行で外出自粛になる前から、缶チューハイ市場は大変な活況でした。缶チューハイ・カクテル市場は缶からそのまま飲めることからRTD(Ready To Drink)市場として、2019年は前年比12%拡大した見込みで、これは4年連続の2桁増です(日本食糧新聞社「ストロング系やレモンがRTD市場の躍進をけん引」より)。
その隆盛はコンビニエンスストアの棚を見れば一目瞭然伝わってきます。棚一面を各社とも、様々なフレーバーやアルコール度数の商品で埋め尽くしています。
本連載でも繰り返し指摘してきた、食品や飲料のパッケージデザインはカッコ良かったりクールすぎたりするとまったく売れないとの知見を「そんなことは百も承知よ」とばかりに、分かりやすさと強烈さに振り切ったパッケージがにぎやかです。また従来のパッケージデザインの王道セオリーで言えば(広告デザインもそうですが)、本当に伝えたいメッセージを伝えるためには、むしろ引き算の計算が必要で、これも強調したいあれも強調したいと盛り込みすぎれば結果何も伝わらないという黄金律があります。しかしRTD製品群の太く大きなゴシック系の文字、派手な色づかいでパッケージが埋め尽くされたデザインはもはやそんな塩梅を軽快に振り切っています。
でも不思議なのは、1本1本では破調の極みのようなパッケージも、棚に並ぶと、棚全体がきらびやかでかなりの高揚感と存在感を感じさせることです。そして、売れているから棚が拡がり、棚の面積が増えるから売れるという好循環をRTDドリンクカテゴリー全体で作りだしているのです。
何より生活者に、「ガツンと楽しめる」という効能が伝わりやすいこのパッケージが受け入れられていますし、カテゴリー全体の熱が伝わっていることは間違いがないようです。
当たり前になった家飲みスタイル
コロナ流行による外出自粛で図らずも加速度を上げた感はありますが、そもそも家飲みは長期的な生活トレンドとして定着しつつありました。様々な要因はあったかと思われますが、やはり先の見えにくい時代の標準スタイルとしての節約志向、スマホやテレビゲーム、ビデオオンデマンドなど在宅エンターテインメントの充実があります。そして結構大きな要因と感じるのが、年々進化を続けるコンビニエンスストアで買えるおつまみの充実です。最近では鮮度管理上良い状態で提供することが難しかったお刺身さえも外食とそん色ないものが買えるようになっています。
そんな家飲みにカッコ良さは必要ありません。外食や会食ならば、ここはオシャレにワインでもという場面がありますが、家飲みであれば、安くて美味しく酔えれば文句なし。そんな生活者インサイトのストライクゾーンど真ん中に直球勝負しているのが、値段もビールなどと比べて安いストロングゼロを筆頭にするRTD各社商品群なのです。
世界企業、PB、チャレンジャーもれなく参入し乱戦模様
昨年は、大手アルコール飲料各社を中心に大活況のRTD市場に、コカ・コーラ「檸檬堂」が参入しました。あの世界的な清涼飲料会社にしてマーケティング教の教祖のような会社がしかも世界で初めてアルコール飲料市場に参入してきたわけですから、一大ニュースです。しかも、まずは売上好調なようですから受けて立つ日本勢としてもまったくウカウカしていられません。
さらには各流通のPB(プライベートブランド)も参入。筆者が注目している穴馬はローソンなどに低価格を引っさげて参入してきたサンガリアです。大阪発祥で正直ナショナルブランドとまでは言えない存在でしたが、独自の清涼飲料やお茶商品でジワジワと地歩を固めていると思っていたら、ここにきて割って入ってきたかたちです。価格への感応度の高いカテゴリーですから大手各社としても心中穏やかではないものがあるように思います。
競争の激化もありますが、そもそもアルコール飲料大手としてはビールに比べると単価が安く売上、利益とも確保しづらいカテゴリーであることもまた事実。ましてコロナウイルス流行にともない外食産業が営業時間などの自粛を余儀なくされる中、ビールの売上激減がすでに伝えられています。そういう意味では各社、RTD活況だけを喜べない部分があり、コロナウイルス収束以降の生活者動向も見据えた、商品ポジショニングの見直しなど総合戦略が必要とされる局面であるように思われます。
【プロフィール】秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)
大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら
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