【5時から作家塾】昭和好きの中国人富裕層がリピート 多慶屋やレトロショップの魅力
一味違う中国人の爆買いが存在
数年前、中国人の爆買いがニュースでも話題となっていたが、中国側の税関強化により爆買いはトーンダウン。それでも、新型コロナ禍前は、都心のドラッグストアや家電量販店、「ドン・キホーテ」などには、両手に荷物一杯抱えた中国人訪日客の姿を日常的に見ることができた。
一方、これとは少し違う中国人の爆買いも存在する。しかも、あまり日本人が足を運ばない店のため、もっとうまくプロモーションすればウィン-ウィンになりそうな感じもする。
中国天津で医療施設を経営する李さん(51)は、東京へ来る度に「多慶屋」(御徒町)で買い物をしている。多慶屋をご存知だろうか。東京に住んでいる人間でもあまり馴染みがないかもしれない。
紫の建物がトレードマークのディスカウントストアだ。御徒町から上野にかけて集中展開している。
著者は1階でビールを買うくらいで、スーパーマーケットくらいに思っていたが、AB館が連結する本館上層階には「オメガ」や「ロレックス」などの高級腕時計、ダイヤモンドなど高額ジュエリー、紳士服、「ブルガリ」や「フェラガモ」などのキーケースや財布など、高級ブランド品も売られている。
これらのフロアを訪れると、中国人を中心に外国人が多く、日本人は年配者をちらほら見かけるくらいとなる。
「その場で体験できるのがいいですね」
昨年末、李さんが「食事前に多慶屋へ行きたい」と言うので同行させてもらった。まず革靴を探し始めた。「これがいい」と10分ほどで濃いブラウンの紳士靴を選び出した。決め手は、ワイズ(足囲)で4Eのサイズを愛用している。かかとからつま先までが26cmなどのサイズは、中国でも豊富に売られているが、ワイズ4Eとなるとほとんど売られていないので、歩くと疲れるそうだ。つまり、李さんはワイズ4Eの中からデザイン、サイズで靴を選んでいた。
「多慶屋は4Eが豊富にあって、その場で体験できるのがいいですね。ぴったりです」(李さん)
中国でもオンラインストアなら4Eの紳士靴は買うことはできるが、購入して到着、履いて合わなければ返品交換、を繰り返すのが面倒だという。ちなみに中国のオンラインストアは「アマゾン」と同じく、客都合でも自由に返品できるストアが一般的だったりする。
この日、李さんは、紳士靴とジャケットを購入して、しめて約7万円のお買い上げだった。ジャケットは好みの薄いグレーがなかったので取り寄せてもらうことになり、1週間後、著者が代わりに取りに行って預かり、後日、李さんへ渡した。
高級デパート並のサービス
多慶屋は、お世辞にも高級感は微塵もない。それは、紳士服や宝飾品フロアへ上がっても同じだ。同店が好きな別の中国人に聞くとスタッフの商品知識が豊富で、ベテランスタッフもいるので安心できるという。同店のサービスは高級デパート並と中国人の間で評価が高いのだ。
今や上海や深センなどは、東京より高級感ある商用ビルや店舗が無数に存在するので、もはや見た目の高級感では中国人の心に刺さらないようだ。
そもそも、李さんがなぜ多慶屋を知ったかと聞くと、20年ほど前に李さんの中国人の先輩経営者から紹介されて連れていってもらい知ったそうだ。以来、リピーターになっている。
中国人が最も信用するものの1つが、信頼できる人からの口コミ情報だ。家族や親戚、親友、尊敬する人などからの口コミの口コミで広がっていく。
もう1つのキーワードは安定感。多慶屋は1947年(昭和22)創業で長い歴史があり、建物に新鮮味はないが、いつ来店しても安定したサービスと欲しい商品が買える安定感は中国人には刺さりまくる。
どうやら中国人は、毎日同じ時間に同じことが繰り返される-日本では当たり前だが-毎朝午前9時にオープンしていつ行っても欲しい商品が買える、という安定感=安心を求める傾向が高いように思える。
「昭和好きの購買力」に注目を
李さんのように昭和後半に日本語を勉強した世代の人たちには、日本人教師が話す日本の文化や習慣、教材として見聞きした映像や音楽にノスタルジーを感じている人も少なくない。
瀋陽で飲食店をグループ展開している汪さん(49)は、上野のガード下にあるカセットテープを大量に売っている専門店へ通って、昭和の歌謡曲や演歌のテープを漁る。最近は、近くにある「ハードオフ」のカセットテープコーナーがお気に入りとのこと。
多慶屋にしてもカセットテープ店にしても、新型コロナ禍もあり経営状態は厳しいかもしれない。しかし、李さんや汪さんのような昭和好きの購買力ある中国人を狙い、売り込みを強化して差別化を図ってみたらどうだろうか。
80年代、苦学生だった彼らは今や富裕層と呼ばれる金持ちになり、学生時代に憧れだったものがあれば爆買い(大人買い?)するはずだ。また、中国では市電やバスに乗らないような富裕層だが、マナーが悪い人は少なく、店側も安心してやり取りできるのではないだろうか。(筑前サンミゲル/5時から作家塾(R))
【プロフィール】5時から作家塾(R)
1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。
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