約1カ月遅れで新学期が始まった。本学は全面的にオンライン講義となった。この2週間、実践してみて発見したことを共有しよう。ビジネスパーソンがリモートワークで陥りがちな失敗と重なる部分も大きいと私は考えた。オンラインコミュニケーションの教訓を考える。一言で言うと、思いやりと、余裕が大切だ。そして、ツールはかなり進化しているし、活用の仕方によっては何でもできると言っても過言ではないが、限界にも気づくべきだ。
意外に疲れるオンライン講義
オンライン講義が始まって既に2週間が経とうとしている。勤務先の大学では、学生は8月半ばまで入構禁止、職員は出勤日と在宅勤務日が半々となり、教員は研究や教育のためやむを得ない場合を除き在宅勤務となった。週に1、2回、研究室に本を取りに行く他は家にいる。通勤時間が1日1時間は減っているので、楽になったかと思いきや、相当疲れている。なぜか? 保育園が休園で育児が大変だということもあるが、それ以上にオンライン講義である。これが意外に疲れるのである。
オンライン講義は無観客試合である。事前に収録して、動画や、解説付きの資料を見てもらうオンデマンド型と、その場で双方向のコミュニケーションをとるリアルタイム型に分かれるのだが、いずれにせよ、学生の姿は見えない。ひたすらカメラやマイクに向かって語りかける。無観客試合状態だ。しかも、拡声用のマイクがなく、地声で話すので、気づくと喉が枯れている。喉が痛くてグッタリするので「ひょっとして、新型コロナウイルスに感染したのか?」とすら思ってしまうほどだ。
「リアルタイム型なら、相手の反応もわかるのでは?」と思う人もいるだろう。おっしゃるとおり、仕組み上はそれが可能だ。しかし、中にはWi-Fi環境がない学生もいるし、「パケ死」「ギガ死」していて通信制限がかかっている学生もいる。仮にWi-Fi環境が充実していたとしても、カメラをオンにする人が増えるとだんだん、動作が重くなり、音も途切れがちになっていく。だから、全員がカメラをオンにしての講義はなかなか難しい。
反応がわからないまま、すすめるので、学生が必ずしも追いついていない場合や、理解できていない場合もあるし、ウケていない小ネタをひっぱりすぎて「うざい」と思われることもある。もちろん、質問などに対応する時間もつくるので、疑問は解消されるのだが。
新型コロナウイルスショック前はライブによく通っていたのだが、前座で出てくるバンドの気持ちがよくわかった。反応がない、ファンが少ない状態でベストなパフォーマンスをし続けなくてはならない。盛り上げようとすると、逆に滑ることもある。こんな状態なのだ。結果として身も心も疲弊する。
一方、学生も相当疲弊していることを意識しなくてはならない。学生に聴いてみると、いつも最前列で講義を聴いている気分でグッタリするというのだ。数コマ続くと疲労はよりたまる。しかも、カメラオンにしないと、仲間がいることを実感することができず、孤独感を味わうことになる。
もちろん、オンライン講義にはメリットも多い。学生は復習したいときには、映像のアーカイブを使って学ぶことができる。学生の反応が見えないと書いたが、実際はチャットツールで質問することができるし、意見を伝えることもできる。なんせ、通学時間がないというのもメリットだ。そう、会社員の「痛勤」が話題となるが、学生も自宅生の長距離通学が問題となっている。現在はオンライン講義をせざるを得ない状態になっている。そのメリットを見出しつつ、デメリットとして指摘されている部分を解決していきたい。
働く相手を気遣う
さて、このオンライン講義の現場で起こっていることからビジネスパーソンが学ぶべきことは何か。つきなみだが、相手のことを考えるということが大事だ。自宅に閉じ込められ、ひたすらPCとスマホに向かいつつ、生活の不安も抱えつつ働く相手を気遣うことが大切である。
特に、部下や後輩がいる人、取引先とのオンラインでのやり取りがある人は、自分の言動が、相手にとって辛いものになっていないかを意識しよう。ただでさえ疲弊しているときに、電波の状態が悪い中、きついトーンで依頼がきたら、心が折れてしまう。自分がそうしていなくても、部下や、後輩に対して上司や取引先がそんな風に接しているのをみたら、フォローしよう。
オンラインでのコミュニケーションは、マイクをオンにしなければ発言できない。オンライン会議は普段の会議以上に、お互いの存在を確認する場になりがちである。ついつい発言しない人も増えてしまう。一方、理解しているかどうか、納得しているかどうか怪しいこともある。会議中でも、その事後でも構わないので、意識的に意見をふるべきだろう。
これもオンライン講義からの学びだが、コンテンツを詰め込みすぎると、学生は疲れ果ててしまい、理解が追いつかなくなるのだ。お互いの交流を深めるために、会議には少しだけ余裕を持つことをオススメする。
オンラインで仕事をすることは可能性を広げてくれる。ただ、これにより疲弊しないためにも、さらにはこの新型コロナウイルス対策の過程で人間関係を悪化させないためにも、思いやりを大事にしたい。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら