働き方ラボ

ウチのオンライン採用は大丈夫か? 学生から試される面接官のコミュ力

常見陽平

 オンライン採用のコミュニケーション能力問題

 「わ、私は…、コミュニケーション能力、抜群です」-。就活の面接では、こんな学生がたまに出現する。面接官の顔を見ることができず、ずっと下をむいてこう言う。むしろ、コミュニケーション能力に課題があることが可視化されている。もっとも、会社員、とくに男性中心の上意下達型のぶっきらぼうなコミュニケーションが正当化されるのにも関わらず、若者にだけこの能力を過度に期待するのもいかがなものか。企業が求める人物像を演じざるを得ない若者こそ可愛そうだとも言える。

 私自身、企業の採用担当者として、数え切れないほどの学生を面接してきた。一生懸命な学生を笑うわけにはいかないが、「えっと…」と深呼吸したくなる自己PRをたくさん見てきた。前出の学生のように、言っていることとやっていることが違う学生である。他にも「納豆のように粘り強い人間です」「私はエアコンです。環境適応能力抜群です」など、いかにもテンプレ化したアピールをする人、ウケ狙いをする人などはまさにそうだ。

 ウケ狙いといえば、ドラえもんなどのぬいぐるみや、部活動のユニフォームで面接に現れる学生がいた。思えば、私が就活をしていた90年代半ばに、電通の面接に行ったところ「坂本龍馬コスプレ」の男性がいた。ご丁寧に大学名や名前まで書いていた。面接でフィギュアスケートのイナバウアーをする学生がいた。面接官が申し送り事項に記入したので、最終面接でも披露。結果、合格し、内定者懇親会でも披露したのだった。もっとも、これらの滑稽な面接での発言、ウケ狙いのパフォーマンスも、単に若者を揶揄する論に結びつけるのは危険である。社会人たちの気に入る学生像に応えようと努力した結果だとも言えるからだ。

 さて、6月である。就活解禁日がやってきた。今年は奇妙な就活戦線となっている。というのも、経団連が就活ルールを設定する立場を降りるなど就活ルールの見直し期である上、売り手市場が続いており、当初は昨年よりもフライング傾向が明らかだった。リクルート就職みらい研究所によると、4月1日時点ですでに昨年同時期を9.8ポイント上回る31.3%の学生が内定を持っていた。しかし、新型コロナウイルスショックへの対応や、緊急事態宣言などで採用スケジュールが混乱し、停滞した。一方、オンラインの説明会や面接の導入が進んだ。

 今日の論点はここだ。オンライン採用のコミュニケーション能力問題である。むしろ面接官が残念なコミュニケーションをしていないか? 結果として学生を不安にさせ、内定辞退などにつながっていないか? たとえば、学生から嫌われるオンライン採用の「あるある光景」は次のようなものである。

 ■大仏、地蔵状態の「動かざること山の如し」面接官

 「動かざること山の如し」ではないが、あまりに無反応で「この面接官、聴いているかな?」と不安にさせてしまうようなタイプだ。オンラインでのコミュニケーションで大事なのはリアクションである。相手の話を受け止める姿勢がまったくない。もともと、リアルな場のコミュニケーションでも、このようなスタイルは不快感を与えてしまうのだが、オンラインだと余計に目立ってしまう。こういう社員は、面接はもちろん、普段の会議でも不快感を撒き散らす。なお、相手の話を無視するのは、圧迫面接そのものだ。「あの会社、圧迫面接だった」と言われかねない。気をつけよう。

 ■情弱面接官

 明らかにオンライン面接に慣れていないことが伝わってしまう面接官。学生の側が不安になってしまう。接続がうまくいかないなどにいちいち動揺し、取り乱してしまう。オンラインものは、いつもトラブルがつきものである。慣れている企業は、その際に別な接続手段を紹介したり、スケジュール変更に応じたりもする。この企業のITリテラシーは大丈夫かと不安になってしまう。

 ■焦りを感じさせる面接官

 内定辞退を避けるために、志望度を何度も聞く面接官がいる。さらには、法的拘束力のない内定承諾書の提出を迫る人事担当者がいる。「この会社、よっぽど採用に困っているのかな?」と学生は不安になってしまう。

 ■肝心なことを教えてくれない人

 説明会や面接で、こちらが知りたいと思っていることに答えてくれない人がいる。学生たちは動画に慣れているので、ここだけのぶっちゃけ話などにも期待してしまうのだが。結果として、ふわふわした、よくわからない話をもとに企業を決めなくてはならなくなる。

 ■一方通行のコミュニケーションをする人

 オンラインものは、没入するためにリアルなコミュニケーションよりも疲れることがよくある。テレワーク疲れの要因の一つはこれだ。リアルな場の会議なら、端の方の席で黙っていても構わないが、オンライン会議は常に最前列にいる気分になるので疲れるという声をよく聞く。これは、大学のオンライン講義もそうだ。ずっと最前列にいて、教員からあてられるかもしれないという緊張感のもと、1日数本の講義を受けなくてはならない。ただでさえ疲れる、このオンラインコミュニケーションで、一方通行のコミュニケーションをされても困るのだ。相手の圧迫感を意識してほしい。


 もっとも、面接において1対1で熱くされると疲れてしまうが、逆に会社説明会などで、淡々と話されても困る。無難な話が続くものもあり、オンライン説明会はつまらないと、学生は失望していることもおさえておきたい。もちろん、オンライン採用が初めてという企業も多いことだろう。また、やりとりを録画・録音されるリスクがあり、突っ込んだ話、込み入った話ができないという問題もある。これにより、就活ハラスメントが抑止されているとも言えるが(これは録画・録音がなくてもNGだが)、学生に対する「ここだけの話」もしにくい。

 新型コロナウイルスショックが直撃しつつも、大手企業を含め、対面での面接にこだわった企業もあった。「こんな時に学生を企業に呼び出すなんて」という批判もあるだろう。ただ、直接会って互いに確かめ合いたい、オフィスを見てもらいたいという意図もある。逆に、オンラインだけで完結するがゆえのミスマッチには気をつけなくてはならない。今年は内定者懇親会や研修も開きにくい。もちろん、これまでのやり方の問題も多々あるのだが、ミスマッチを解消するための創意工夫に企業は取り組まなくてはならない。

 オンライン採用については、新型コロナウイルスショックへの対応が一段落した後も、定着すると見られている。ただ、完全にこちらに切り替わるのではなく、リアルな場での面接との組み合わせになっていくと私は見ている。いずれにせよ、ビジネスパーソンと就活生はオンラインコミュニケーションに関する力を高めなくてはならない。新型コロナウイルスショックの前から、海外とのやりとりなどではオンラインコミュニケーションが活用されていた。面接の場などは、企業も学生から面接されているのだと認識したい。学生が入社先を決めるポイントの一つは、面接官だ。勤務先のオンライン採用は大丈夫か。確認してみよう。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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