新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止のために世界各国で行われてきた都市封鎖や自宅待機は、徐々に緩和されつつある。しかし、第2波、第3波が予想されることもあり、人々の生活スタイルはコロナ前と同じレベルにはなかなか戻らないだろう。人々のコミュニケーションにおいても、以前にも増してインターネットが活用されるようになると思われる。
そうしたなかで急速に利用者を増やしているのが、ビデオ会議システムだ。在宅勤務や自宅学習を円滑に進める手段、そしてグループで手軽に会話を楽しむためのツールとして、2020年1月以降一気に普及した。なかでも「ズーム人気」は目覚ましく、同サービスを提供するズーム・ビデオ・コミュニケーションズのブログによれば、1日の利用者数は、2019年の1000万人から2020年4月には3億人超まで急増したという(この数字は当初アクティブユーザー数と報じられたが、後にズームがあくまで1日の利用者数であると説明している)。
ではなぜズームがこれほど人気を集めているのだろうか。一番の理由は、最大100人のグループで、最長40分のビデオ会議を「無料で」行うことができるからだ。しかもパスワードやIDを使ったログインの必要もなく、初めての人でも使いやすい。ズームを利用した飲み会や同窓会、誕生日会といったバーチャルイベント、またヨガやエクササイズのクラスなども頻繁に行われている。
もちろんビデオ会議システムを提供しているのはズームだけではない。競合他社も自社サービスの一部無料化や新機能の追加などにより、ズームに対抗しようとしている。
グーグルは5月より、オンラインプロダクティビティサービス「Gスイート」の一部として、企業向けに提供しているビデオ会議サービス「グーグルミート」の無償版の提供を開始した。Gmailアカウントを持っていれば、Gスイートユーザーではない個人でも利用可能で、最大100人までのビデオ会議を開くことができる。9月30日までは、通話時間も無制限だ(以降は最大60分に制限される)。
グーグルミートの利用者も増えており、4月末時点での発表によれば、1月と比較すると日々追加される新規ユーザー数は30倍以上で、毎日約300万人が新たに同サービスを利用しているという。1日あたりの利用者数はズームには遠く及ばないものの、4月末の時点で1億人を超えた。グーグルがズームを意識しているのは明らかで、ズームで人気の「ギャラリービュー」(参加者をサムネイル表示する)とよく似たタイルビュー(ただし最高16人まで)も追加している。
マイクロソフトはかつてスカイプで、ビデオ会議システム市場において地位を確立していたが、新興のズームにすっかりお株を奪われてしまった。スカイプもコロナ禍でユーザー数を伸ばしたとはいえ、ズームには到底及ばない。またマイクロソフトは現在スカイプよりも、チャットとオンライン会議などの機能を統合した「マイクロソフトチームズ」に力を入れているようだ。同サービスは同社のクラウドサービスである「Office 365」や「Microsoft 365」に組み込まれているほか、無料版も提供されている。同社によれば、4月末時点での日々のアクティブユーザー数は7500万人で、過去1カ月間で3100万人増えたという。
そしてフェイスブックは5月、最大50人でのビデオ会議が可能な「メッセンジャールームズ」を公開した。会議の主催者はフェイスブック、メッセンジャー、インスタグラムまたはワッツアップのアプリが必要だが、これらのアカウントを持っていない人でもリンクを送ってチャットに招待することができる。無料で利用でき、利用時間の制限もない。
ただしズームは気軽に無料で利用できる反面、セキュリティ面での不安が指摘されている。会議への参加にパスワードが不要なため、部外者が勝手に会議に参入する荒らし行為が相次ぎ、「ズーム爆撃」という言葉まで生まれた。現在は、ホストが必要に応じてユーザーのマイクをミュート(オフ)にして、悪意あるユーザーが発言できないようにする機能や、ホストが承認するまで会議に入れない機能、パスワード設定機能などが追加されている。
またフェイスブックの「メッセンジャールームズ」では会話が暗号化されないため、仕事や重要な内容の会議には不向きだ。
新型コロナウイルスがある程度収まっても、ビデオ会議システムの需要が減ることはないだろう。今後は用途に応じた使い分けが進む可能性がある。(岡真由美/5時から作家塾(R))