社会・その他

コロナで大打撃の「うちわ」 逆転の7万本プロジェクト

 新型コロナウイルスの感染拡大が、夏に付き物のうちわに“打撃”を与えている。イベントや祭りの中止が相次いだほか、広告や販売促進用の需要も落ち込んだためだ。こうした状況で、うちわの生産量日本一を誇る香川県丸亀市が着目したのは、感染予防のための「新しい生活様式」だ。

新しい生活様式をPRするうちわ
新しい生活様式をPRするうちわを持つ香川県丸亀市の梶正治市長=6月30日、香川県丸亀市

 リーマン・ショック超える苦境

 「例年に比べて注文が7~8割減った。リーマン・ショックの時期を上回る深刻な事態」。県うちわ協同組合連合会の山田時達(ときさと)会長は危機感をあらわにする。

 毎年6月中旬~7月末はうちわ製造のピークだが、今年は新型コロナの影響で、各地のイベントや祭りが中止に追い込まれ、注文が激減。企業活動にも影を落とし、広告や販売促進用のうちわの注文も大きく落ち込んだ。

 さらに、うちわの配布に適した人が集まる場所は避けられがちになり、感染症の収束時期も見通せない。各社は「来年になっても元の状況に戻るだろうか」と頭を悩ませる。

 そうした中、地場産業を後押ししようと同市が打ち出したのが、感染予防のための「新しい生活様式」を周知するうちわを配布することだった。

 「3密」回避、換気、手洗い

「イベントの中止で打撃を受けた地場産業を支援したい」。6月30日の定例記者会見で、うちわを手にした同市の梶正治市長はこう語った。

 うちわでは「3密」を避けることや、換気やせきエチケット、手洗いといった感染予防策を紹介。エアコンを使っていない時などは、うちわであおいで体温を下げ、熱中症を防ぐよう促す。小さな文字で「生産量日本一」もPRする。

 子供向けのうちわには、疫病退散に御利益があるという妖怪「アマビエ」のイラストをあしらい、マスクをつけ友達との距離を確保することや、換気中や暑い時はうちわを使おうと提案。「みんなでまもろう」と呼びかける。

 市は同連合会に依頼して計7万本を用意し、市内の幼稚園や保育所、小中学校、高齢者施設に3万3千本を配布。親善都市や友好都市に送付するほか、各地の祭りやイベントの主催者に2万5千本を無料で提供する計画を打ち出した。

 金毘羅参りの土産物

 市産業観光課によると、丸亀では江戸時代に金毘羅参りの土産物としてうちわ作りが始まった。参拝客がうちわを持ち帰り、全国的に知られるようになった。丸亀藩が武士の内職として製作を奨励し、産業として根付いたという。

 かつては職人が手作業で仕上げる竹うちわがメインだったが、機械化が進むにつれ、大量生産が可能なポリうちわが主流になった。

 現在も同市や周辺自治体には製造業者が集中し、同連合会には約30業者が加盟。年間の生産量は8千万~9千万本に上り、その大半をポリうちわが占める。

 地元の丸亀港近くには、国の伝統的工芸品に指定された丸亀うちわの歴史を伝える「うちわの港ミュージアム」がある。連合会が講座を開いて、受講生にうちわ作りの工程を指導。職人や後継者の育成を目指している。丸亀城内にある観光案内所の工房では、講座の修了者らがうちわ作りの実演を披露している。

 そんな一大産地が見舞われた逆風だが、市が打ち出した今回の取り組みは、広報ツールとしてのうちわがあらためて脚光を浴びる機会になった。イベントなどで配布されれば、丸亀うちわのPRにもつながる。7万本は各社で手分けして製造する予定といい、山田会長は「涼を感じてもらうとともに、うちわの良さを見直してもらえたら」と期待する。

 同市は、今回製作した新しい生活様式を周知するうちわ計2万5千本を、祭りやイベントを主催する50団体に無料で提供する。

 はがきに、代表者の住所▽氏名▽電話番号-と、まつりやイベントの名称▽規模(人数など)▽概要(内容)-を記入。「〒763-0042 香川県丸亀市港町307の15、県うちわ協同組合連合会コロナ予防うちわ係」宛に申し込む。31日まで。応募多数の場合は抽選。8月上旬に発送する。

 問い合わせは県うちわ協同組合連合会コロナ予防うちわ係(0877・24・7055)。