仮置き場まで浸水 想定外で混乱する災害ごみ問題
九州の広範囲を襲った豪雨災害の被災地で、浸水被害を受けた家具や家電など「災害廃棄物(災害ごみ)」の処理が課題となっている。熊本県内の各自治体は平成28年の熊本地震の教訓を生かして処理計画を策定していたが、仮置き場予定地が浸水し使用不能となるなど、「想定外」の事態が続発。災害ごみを持ち込もうとする車による渋滞が発生するなど、思わぬ混乱が起きている。(吉沢智美)
「泥にまみれたごみを選別するのも、車に載せるのも大変だ」。同県人吉市で被災した会社員の男性(26)は、軽トラックに積まれた泥だらけの自転車を見つめ、ため息をついた。
母親と2人暮らしだった自宅は屋根下まで浸水。現在は親戚の家に身を寄せながら自宅の片づけを進めており、災害ごみの仮置き場となっている同市上漆田町の人吉中核工業用地まで、トラックで往復する日々だ。
被災した友人宅の手伝いに熊本市から来た自営業の男性(50)も、仮置き場に通う一人だ。「先週は8時間も並んだし、今日も小一時間は並んでる。早く災害ごみを捨てないと復旧が進まないのに」といらだった。
県によると、28年の熊本地震では仮置き場の設置が遅れたため災害ごみが路上などに置かれたことで、慢性的な渋滞が起きたことなどが問題視された。県はこの教訓を踏まえ、各自治体に災害ごみの処理対応を事前に定める「災害廃棄物処理計画」の策定を要請。昨年5月までに全市町村が計画を策定したという。
だが、今回の豪雨災害ではごみの受け入れを急ぐあまり、準備が整わない段階で仮置き場を開設するなどした結果、各地で渋滞や混乱が発生。15日時点で県内には20の仮置き場が設けられているが、予定地が浸水被害にあったため、場所を変更した自治体もある。
芦北町は町内4カ所に災害ごみ仮置き場を予定していたが、豪雨で1カ所は使用不能に。人吉市でも予定地1カ所は近くの河川で氾濫の恐れがあったため、約5ヘクタールの工業用地に急遽変更した。
一方、迅速な受け入れを目指した新しい試みもある。人吉市は全国で初めて「畳のみ」「家具のみ」といった1品目のみ搬入する人を優先的に受け入れる「ファーストレーン」を導入。搬入時間の短縮が目的で、市は「混載していると荷降ろしに時間がかかり、渋滞につながる。分別して搬入してほしい」と呼びかけている。
過去にも課題 復旧阻むごみ問題
過去の災害でも課題となってきた災害ごみ。京都大の浅利美鈴准教授(環境工学)は「被災地の復旧には、災害ごみの迅速な処理が必要だ」と指摘する。
平成26年の広島県土砂災害では58万トン、28年の熊本地震では311万トンの災害ごみが発生した。処理にかかった期間は、広島が約1年半、熊本は約2年。水害で発生する災害ごみは家電や家屋の木材などが攪拌(かくはん)されて泥をかぶった状態になっているため分別にも時間がかかり、処理は遅れがちだ。
環境省によると東日本大震災以降、自治体にとって災害ごみの「対応マニュアル」といえる災害廃棄物処理計画の策定が全国で進んだ。ただ、今年3月末時点で、実際に計画を策定したのは全国1741市区町村の51%の889にとどまる。人口規模が小さい自治体は職員の人手不足を理由に、対応が遅れがちだという。
今回の豪雨で甚大な被害を受けた熊本県は30年から、各市町村と研修会を行うなどして備えを進めていた。だが、想定を超える被害が相次いだため、計画通りの処理が不可能になるケースが続出。ごみ処理を目的とする車による渋滞や、現場の混乱につながっている。
過去の災害ではボランティアなどから分別方法や受け付け時間などの情報を被災者が受け取り、処理を円滑に進めることができた自治体もあった。浅利准教授は「新型コロナウイルス感染予防のため、県外からボランティアが入りづらいという特異な状況も影響している」と指摘。「ボランティアの減少により、正確な情報が被災者に届いていないのでは」と推察した。