社会・その他

豪雨で鉄道復旧めど立たず 復活が待たれる「九州の足」

 九州に甚大な被害をもたらした豪雨災害は18日で発生から2週間となった。鉄道設備も被害を受け、線路が大量の土砂の流入で埋まったり、鉄橋が流出したりするなど、多くの路線で復旧の見通しがたっていない状況だ。地域住民の通勤や通学、観光地を支えてきた「九州の足」の復活が待たれている。(石橋明日佳、入沢亮輔、西山瑞穂、花輪理徳)

250メートルにわたり土砂が流入し、線路が見えない状態となった「肥薩おれんじ鉄道」の佐敷-海浦区間=熊本県芦北町
夕景を走り抜ける観光列車「おれんじ食堂」=(肥薩おれんじ鉄道提供)
流失したJR久大線の鉄橋。線路のレールはねじ曲がり、橋脚の数十メートル下流の河原で流木をかぶっていた=12日、大分県九重町右田
くま川鉄道人吉温泉駅では一時ホームが浸水。5両ある車両もエンジン部分が水に浸かった=くま川鉄道提供

 コロナ禍乗り越えた矢先

 「信じられない」。九州南西部の八代(熊本)-川内(鹿児島)の海岸沿いを走り抜ける「おれ鉄」の愛称で親しまれる「肥薩おれんじ鉄道」。最も大きな被害が出た熊本県芦北町の佐敷(さしき)-海浦(うみのうら)間の惨状に、同社の原田幸二さん(59)は絶句した。

 おれ鉄では、45カ所で土砂の流入や冠水、線路を支える砂利の流出などの被害が出た。全線116・7キロのうち、約半分にあたる49・6キロが不通となった。車両の被害は免れたが、運行再開のめどは立たない。

 おれ鉄は学生を中心に、年間110万人が乗車する地域の足だ。また、同社が運行する観光列車「おれんじ食堂」は、車内で地元食材を使ったイタリアンを楽しめるとあって観光客にも人気が高い。

 おれんじ食堂は新型コロナウイルスの影響で3月下旬から運休を余儀なくされた。車両の定期検査を終え、7月末から4カ月ぶりに再出発する予定だったという。同社の出田(いでた)貴康社長(63)は「コロナだけなら何とかなったが出ばなをくじかれた。オンシーズンに営業できないのはつらい」と表情を曇らせる。

 そんな中、豪雨の発生直後から、鉄道ファンから「また美しい景色を見に乗りに行く」といった励ましの連絡や寄付の申し出が相次いだ。出田社長は「愛されている路線だと実感した。安全を第一に早期復旧を目指したい」と話す。

 デザイン車両も浸水

 また、人吉・球磨地方を走り、地元住民らに親しまれる「くま川鉄道」(くま鉄)も橋が流されるなど大きな被害を受けた。くま鉄は、国鉄(現JR)湯前(ゆのまえ)線の廃線を受け、平成元年10月に人吉市と球磨郡の9町村などからなる第3セクター「くま川鉄道」が運行を引き継ぐ形で開業した。

 全長24・8キロで、人吉温泉(人吉市)-湯前間(湯前町)を結ぶ。利用客のうち高校生が8割を占めるなど、通学の足としても定着している。しかし、4日の球磨川の氾濫で、球磨川と川辺川の合流地点付近にある橋梁が流されたり、駅に土砂が押し寄せたりするなど大きな被害を受けた。

 このほか、鉄道の車両デザインで知られる水戸岡(みとおか)鋭治氏が季節をテーマにした車両5両もエンジン部分が浸水。森山照信・鉄道部長は「ここまでひどい被害は経験したことがない」と話す。現在は、バスによる代替輸送を県と協議しているが、復旧まで何年かかるか全く見通せない状況だ。

 被害額も高額になることが予想され、同社はホームページで、寄付を募り始めた。森山部長は「運行の継続なども含め、今後については地元自治体とも相談していきたい」と話した。

 3年前の豪雨でも被害

 九州を広範囲に襲った豪雨では、福岡県と大分県を結ぶJR(きゅうだい)線でも、大分県九重町の豊後中村駅の東約350メートルにかかる鉄橋が流された。近くに住む女性(76)は「石が川を転がり、雷のような轟音がしていた。家から避難した2時間ほどの間に橋がなくなっていた」と驚く。

 久大線では、ほかにもトンネルや線路への土砂の流入などが相次ぎ、145件の被害が出た。日田-向之原(むかいのはる)間の約80キロで復旧のめどが立っていないという。久大線は平成29年の九州北部豪雨でも同県日田市内の鉄橋が流失。復旧工事は順調に進んだものの、全線再開までには1年を要した。

 沿線には観光地として知られる由布院温泉や湯平温泉があり、観光列車「ゆふいんの森」もこの路線を通る。由布院から東側の路線は無事だった3年前の豪雨被害とは違い、今回は東西ともに寸断した。ゆふいんの森は、新型コロナウイルスの影響で休止していた運行が6月に再開された直後の被害。沿線の住民は観光への影響を懸念する。

 温泉街で土産物店を営む金子尚美さん(64)は「コロナが明けて客足が戻ると期待していたが、またかという思い。温泉街にとっては大きな痛手です」と肩を落とした。