働き方

ワーケーションに期待と課題 「旅行兼仕事」コロナ禍受け拡大

 旅行先で休暇を楽しみながら仕事にも取り組む「ワーケーション」が急速に進んでいる。新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワークを本格的に導入する企業が増え、旅行先でもノートパソコンなどを使って仕事ができる環境が整ってきたからだ。インバウンド(訪日外国人客)需要が消失した観光業界としても、国内旅行の新形態としてワーケーションに大きな期待を寄せる。

 苦境下の需要喚起策

 ワーケーションは「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語。もともと有給休暇の取得率が低かった米国で、バカンス中でも旅行先で働き、家族や友人と過ごす時間を増やすライフスタイルとして広がった。

 日本でも、2018年6月に成立した働き方改革関連法で19年4月から年次有給休暇(年休)の年5日取得が義務化され、長期休暇取得の機運の高まりがワーケーションを後押ししている。受け入れ側の地方自治体では、都市部に住みながら地方と交流する「関係人口」の拡大策の一つとしてワーケーションに注目が集まる。19年11月には「ワーケーション自治体協議会(WAJ)」が設立され、現在約90の自治体が参加し、情報交換などの連携を強めている。

 先進地の和歌山県では、17~19年度の3年間に104社910人がワーケーションに訪れた。クラウドサービス大手のセールスフォース・ドットコムは15年10月、県内の白浜町にサテライトオフィスを構え、都市部の内勤営業社員数人が3カ月交代で勤務しながら、終業後や休日にサーフィンや温泉、ゴルフといったレジャーを楽しむ。地元の小中学校でプログラミング授業を実施するなど住民との交流も深めており、「会社や地域への貢献意識が高まっている」(広報)という。

 こうしたワーケーションの取り組みが徐々に浸透してきたところに新型コロナの感染拡大が起こり、苦境の観光業界が新たな需要喚起策としてワーケーションに本腰を入れ始めた。

 星野リゾートは、沖縄県竹富町の滞在型リゾートホテル「星のや竹富島」で、21年1月までの期間限定で30連泊の宿泊プランを打ち出した。1人27万8460円(税別、2人一室、サービス料別)からで、通常の3割程度の価格で提供。プリンターや延長コードなどの備品を貸し出すほか、客室などでは無料の公衆無線LAN「Wi-Fi(ワイファイ)」を完備する。北海道旭川市のホテル「OMO7(オモセブン)旭川」でも、今年7~11月の5カ月間、15~30連泊の長期滞在プランを通常の4割以下の価格で提供するという。

 日本旅行業協会(JATA)副会長の高橋広行JTB会長は「新たな旅の形としてワーケーションなどを世の中にどんどん提案したい」と意気込む。

 難しい労務管理

 ただ、普及にあたっては課題も少なくない。特に困難なのが企業側による労務管理だ。JTB総合研究所の高橋伸佳主席研究員は「仕事と休暇の線引きが必要で、どこまで企業が交通費や宿泊費などのコストを負担するかといった点を整理しなければならない」と指摘する。家庭で行うテレワークと違い、労災の危険度なども異なるという。

 さらに、社員の意識にも温度差がある。同研究所の調査によると、男性20~30代でワーケーションが認められれば休暇が取りやすいとの回答が多いのに対し、女性20~30代では仕事とプライベートの旅行は完全に分けたいとの答えが多かった。こうした難しい労務管理や複雑な社内の意見調整を乗り越えてまで実施するメリットがなければ、企業はワーケーション導入に踏み切れないともいえる。

 こうした課題に対し、ワーケーションを企業の成長にもつなげようと、パソナグループの「パソナ JOB HUB」は7月1日から都市部の企業を対象に、ワーケーションを活用した人材育成・事業創造プログラムの提供を始めた。ノウハウを持つコーディネーターが地方側と連携して地域交流による課題解決など具体的な内容を企画し、日本航空やANAホールディングス、全国各地の観光団体とも協力しながらプログラムを運営する。

 加藤遼事業統括部長は「社員のキャリア感が変化するだけでなく、プログラムの成果が地方でのビジネスにつながることもある」と強調する。

 単なる観光の一形態から、企業もメリットを享受できる新たなスタイルへの進化がワーケーション普及のカギといえそうだ。(桑原雄尚 岡田美月)