男性の部屋をめった斬り
かたい頭に釘を打ち込まれたような衝撃だった。腐った魂を蹴り上げられたような感覚に陥ってしまった。何の話かというと、7月15日にスタートしたテレビ東京系の深夜ドラマ『おしゃ家ソムリエおしゃ子!』のことである。原作者かっぴー氏はクリエイター群像劇『左ききのエレン』に続き、2作目のドラマ化となる。主人公の女性が、男性の部屋をめった斬りにする様子が痛快だ。
主人公はおしゃれ一族“イエーガー家”の一人娘、イエーガー・おしゃ子(矢作穂香)である。「おしゃ家ソムリエ」であるおしゃ子はある理由のために25歳の誕生日を迎えるまでに、おしゃ子が認める「おしゃ家(いえ)」に住む理想の男性を見つけなければならない。しかし、おしゃ子の理想は高い。おしゃ子は簡単にお持ち帰りされるのだが、男性の自宅に到着した瞬間、猛チェックと、ダメ出しが始まる。これが、いちいち的確で面白い。
たとえば、第1回に登場した若き起業家の基陸ルゥ斗(もとりくるーと)は、タワマンに住んでいるが狭く、そのスペースにル・コルビュジエのレプリカなどを詰め込んでいる点や、埃をかぶったDJブース、さらには起業家の家には必ず洋書、風景の写真集、ビジネス書が並んでいて、しかも読んだ形跡がない件などが猛批判された。第2回に登場したグラフィックデザイナー多摩美大(たまよしひろ)は、無印良品信者だ。単にそろえただけで、無印良品のブランドコンセプトを理解していないのではないかとダメ出しされた。このダメ出しをする際の、おしゃ子のエモさ、さらには具体的かつ的確なアドバイスがたまらない。
さて、ここまで読んで、嫌な予感がした人がいるのではないか。そう、「これって私のことでは?」「ウチも人のことを言えない」と。とくに、新型コロナウイルスショックにより、自宅を急遽テレワーク仕様にしなくてはならなかった人も多いことだろう。突貫工事であるがゆえに、効率上も、見た目上も様々な問題を抱えているのではないか。
部屋を見直す3つのポイント
別に読者の皆さんを、おしゃ子も責める気にはなれないだろう。というのも、ビジネスパーソンが自宅をメインの職場にするということは、少なくとも現在働いている人たちはあまり経験したことがないことだからだ。会社のオフィスは特にこの約20年で進化してきた。机や椅子などもより快適なものになったし、デザインもおしゃれかつ効率があがるものになった。非喫煙者以外もリラックスできるように、休憩スペースも充実した。企業によっては、社員食堂やカフェテリアなども充実させた。社内に和室や広場があるなどの、ユニークオフィスも話題となった。
テレワーク、なかでも在宅勤務の推進は長きにわたり叫ばれてきた。ただ、主に制度設計や、活用の推進、どのようなIT機器やシステムを活用するかなどに話が集中しており、そもそも、自宅をどのような職場にするかという話については無頓着だったのではないか。
この夏、自宅オフィスについて見直すポイントを3点提示しよう。
1.仕事の中の小さな我慢を解消しよう
2.整理・整頓に取り組もう
3.休み&遊びコーナーをつくろう
1点目の小さな我慢とは何か? それは、現在の家庭における仕事環境に関して、いつの間にか続けている「我慢」や「妥協」である。具体的には、「ウチには、机がないからテーブルで仕事をしなければならない」「この部屋で仕事せざるを得ない」などのものである。実際、SNSで友人たちの仕事場を見てみると、子供が昔、使っていた学習机、ウォークインクローゼットや納戸などで仕事をしている人がおり、涙が出てくる。やむを得ない事情も理解できる。
しかし、このようなやり方を続けていくと、ストレスがたまるだけではなく、身体にも負荷がかかってしまう。会社員時代に、トヨタ自動車の現場で管理監督者を長年務めてきた「ものづくりのプロ」と仕事をしたことがあったが、彼らは机の高さや、姿勢にまでこだわる。それは単に効率をあげるためではなく、身体を守るためでもある。自分の生活の中での「無理な姿勢」を洗い出してみよう。
おしゃ家文脈で言うならば、実はここでは、おしゃれな家具が逆に身体に負荷をかけることがあることも覚えておこう。たとえば、ガラスの板でできたテーブル、デスクなどである。これをプロダクトとして否定するわけではない。おしゃれな家具でテンションが上がる人もいることだろう。しかし、PCで作業するとガタガタいって落ち着かない。傷をつけるのではないかと気を使ってしまう。気づけば、のびのびと仕事ができなくなってしまっていないか。別におしゃれ家具を手放す必要はない。ただ、これをそのまま使うのなら、安くても気持ち良い姿勢で働くことができる机や椅子を手に入れるべきだろう。普段、仕事をする上で感じている「小さな負荷」はないか。検証してみよう。
次に、整理・整頓である。要るものと要らないものを分けて、要らないものを即刻処分する。要るものを決められた場所に、決められたように置く。これを実践しよう。非常に簡単に言うならば、要らないものをどんどん捨てる、要るものは置き場所を見直し、決めるということだ。
ポイントは迷ったら捨てる、新品でも捨てるということだ。使わないもので場所をとられ、ストレスがたまるのはよくない。どんな狭い部屋でも、モノを捨てるとスッキリする。場所を確保する上でも、要らないもの、使っていないものはどんどん捨てよう。捨てることに抵抗がある人は、実家に持っていく、保管サービスを活用するなどして、十分なスペースを確保しよう。
別に高いものは必要ない
最後に、休み&遊びコーナーだ。会社には社内外に意外にもリラックススポットがあったはずだ。しかし、家にこもっていては、これを必ずしも確保できない。昼寝をする、リラックスするなどのスペースを確保しておくべきだ。
友人が取り組んでいたのは、ベランダ用のテーブルと椅子である。これがあると、一気にオープンカフェのような雰囲気になり、リラックスできる。「でも、お高いんでしょう?」と思うだろう。実は1万円台で手に入る。なかなかお値打ちではないか。他、昼寝用のハンモックなどもスタンドを含めて2万円以内で買うことができる。これもまた、あると便利だ。
なお、おしゃれな部屋という話でいうと、別に高いものを買わなくても色や柄などの統一、家具の置き場所や高さによって、一気におしゃれになるし、快適になる。おしゃ子が劇中で触れているように、高いものを無理やり押し込んでもおしゃれにはならない。それよりも、あなたがいきいきと暮らし、働くことができ、誇ることができる部屋こそ、おしゃれ部屋ではないか。夏休みに、自宅オフィスのあり方について考えてみよう。おしゃ子に絶賛される日を目指しつつ。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら