伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。
第20回は「意見の違い」がテーマです。なんとなく外出を控えている人も、人との交流が少しずつ増えてきていると思います。昔は気をつけたい話題として「政治」「宗教」「野球」などが挙げられていましたが、最近では「コロナに関する態度」も避けている人が多いようです。
意見の違いがあるのはあたりまえですが、自分とは違う信念で行動している人に対して、ストレスや怒りを感じてしまうこともあります。自分の正しさを過信すると、相手への批判や押し付けをしやすくなりますし、行き過ぎた正義感が攻撃に転じることがあるのは皆さんご存知のとおりです。意見が違っても不快にならないようにするには、どうすればいいのか。人間が持つ5つの残念な特性と、それを踏まえた「お勧めフレーズ」ご紹介します。
なぜ自分の意見が正しいと過信してしまうのか
「なぜ、あの人はわからないんだろうか」。そんな思いがよぎった時は、自分の思考を見つめ直すチャンスかも知れません。自分が信じる「正しさ」が間違っている可能性もありますし、柔軟に考えたほうがいいケースもあります。ついつい自分が正しいと思い込んでしまう、以下のような特性があることを知っておきましょう。
残念な特性1:少ない情報だけでジャッジしてしまう
「テレビではこう言っていた」「SNSではみんなこう言っている」「〇〇さんの知り合いのお医者さんが言っていた」などなど。私たちは、不完全な情報や、必ずしも全体を表しているわけではない情報からも影響を受けています。「これが正しい対応だ」「あんな行動をするなんて非常識だ」といったコロナに対する態度も、ごく限られた情報から形成されている可能性があります。
残念な特性2:信じているものに合致する情報を探してしまう
「本当はどうなっているのか」自分なりに調べてみたという人も多いと思います。しかし、私たちは自分が信じる仮説に合っている情報を探してしまう傾向があります。真偽があやふやで正確かどうか調べたいケースでさえも、自分が信じた情報を否定するものより、肯定する情報が目についてしまう傾向があることを知っておきましょう。
▼意見が違う人と話すときのお勧めフレーズ
自分の意見を言うときに「という説もあるよね」というフレーズを使ってみましょう。
【例】「会食はまだ控えたほうがいいという説もあるよね」
過信を最小限にとどめてくれる効果、「絶対~だ」「こうするべき」といった断言や批判を予防する効果が期待できます。
情報にはたいてい自分のバイアスがかかっている
「データを確認したから間違いない」「これはエビデンスベースだから」と思うときも、自分の正しさを人に押しつけるのは、少し待ったほうがいいかも知れません。
残念な特性3:統計には誤解しやすいポイントが多い
例えば「去年の平均年収は○万円」といった数字を聞いたときに、皆さんはどう感じるでしょうか。「せめて中央値か、最頻値を知りたい」「標準偏差はどのくらいだろう」と思う人は読み飛ばしてOKです。統計は勉強したことのある人でも、誤解しやすいポイントがあります。数字を都合よく解釈して使う人もいます。テレビなどで引き合いに出される数字に違和感を抱くことがない人は、メディアでも誤解を招く使い方をされることがあると知っておきましょう。
残念な特性4:信念に合致する情報を覚えている
私たちは毎日たくさんの情報に触れています。連日のコロナ関連ニュースにうんざりしたという人もいるのではないでしょうか。様々な切り口の情報が提供されている場合でも、私たちは自分の信じていることに合致する情報をピックアップしやすく、それを印象に残しやすい特性があります。情報の偏りに気づきたい人は「あえて反対意見が含まれる情報を探す日」を作ってみるとよいでしょう。
残念な特性5:先入観で情報にバイアスをかける
すべての情報を平等に評価するのは難しいものです。「遂に火星人が発見された」というニュースと「自民党の支持率は過去最低」というニュースを見たとき、皆さんの受け止め方は同じでしょうか。「こういうことは起きるはずだ」といった先入観があった場合、情報は正しく感じられますし、受け容れやすいはずです。そうでない場合には、重要でない情報とみなし、忘れてしまうということもあります。
▼意見が違う人と話すときのお勧めフレーズ
「個人的には」という言葉を使ってみましょう。
【例】「個人的にはワクチンはどうかなと思ってるんだよね」
あくまで個人の意見の一つというニュアンスからはじめることで、押しつけを減らす効果が期待できます。万が一、自分が信じる情報が間違っていた場合に、後悔を減らせるという意味でもお勧めです。
「正しさ」の押しつけと攻撃を避けるために
誰にとっても「絶対的に正しいこと」ばかりであれば問題はないのですが、世の中には「正しいように見えること」がたくさんあります。信念に基づいて行動するのは良いことですが、自分と違う行動をしている人に、自分の正しさを押しつけることは、なるべく控えたいものです。
立場上、どうしても考えを変えさせたいという場合でも、相手への批判や攻撃的な言葉を投げるのだけはやめましょう。自分の考えをわかってもらえない苛立ちを相手にぶつけても、心理的な反発を引き出すだけです。考えを変えるどころか、人間関係を悪くしてしまう可能性もあります。
「相手のためにハッキリ言う」という人もいますが、このような発言の裏には、正しさへの過信、受容されないことへの怒りが潜んでいます。本当に相手の態度を変えることが大事だと考えるのであれば、批判や攻撃が逆効果であることに気づくはず。「あなたのために言っている」と言いたくなるシーンに出くわしたら、ぜひ今回ご紹介した5つの特性を思い出してみてください。自分だけでなく、相手も情報にバイアスをかけ、自分の出した結論を過信している可能性があります。そんな状況で否定されたらどう感じるかを想像してみましょう。
わかり合うのが無理でも、批判や攻撃は避ける。それが不確実な時代でのコミュニケーションの、大事なポイントなのです。
【最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら