仕事で使えるAIリテラシー

AIは育てるもの 出遅れればビジネスで致命的となる恐れも

高田朋貴

 AI(人工知能)の開発サービスを提供しております、株式会社SIGNATEの高田朋貴と申します。AIを開発・運用するために必要な人材の条件や、AIを適切に活用していくためにビジネスパーソンが身につけるべきリテラシーについて紹介していく本連載。第6回は、「AIに投資する意義」について説明させていただきます。

 明確に説明できない投資効果

 前回、AIの活用には「開発と同じくらい運用も大切」というお話をさせていただきました。

 AIを導入する際、経営企画室や総務といった「現場をサポートする部署」から現場へ「便利な機械」を一方的に押し付けるようでは、現場に受け入れてもらえず、結果として思うように活用されません。また、AIはまさに「学習する機械」であり、日々の運用の中で精度を向上させていくため、運用当初においては、そのサポートとして現場の協力が必要不可欠です。だから、開発の段階から運用を見据え、現場を巻き込んでいくことが大切だというお話でした。

 しかし、多くの人はこう思うかもしれません。「相当な予算をかけるのに、運用に手間がかかっては本末転倒ではないか?」「そこまでして投資する意味はあるのか?」と。今回の記事では、この疑問に答えたいと思います。

 AIは前提として、「実際の精度は、作って動かしてみないとわからない」という特徴があります。AIの精度はデータの質と量に依存するため、「どのくらいの導入効果があるのか?」を事前に推測することが難しいのです。

 一方、経営陣は導入の検討に際して、「売り上げはどのくらい変わるか?」「何%の業務効率化が期待できるか?」といった明確なメリットを求めるでしょう。これに答えが出せないとなれば、「リスクになる投資は見送るべきだ」という集団心理が働くのは組織の常というものです。

 AIには「納品」がない

 もちろん、AIの本開発の前にはPoC(Proof of Concept=概念実証)の段階が欠かせません。実際のデータを使い、プロトタイプを作って効果を検証する過程です。小規模な開発で検証しておくことで、投資効果にある程度の見通しを得ることができます。

 ただ、プロトタイプはあくまでプロトタイプであり、「当初想定した精度が出ない」からとPoCを何度も繰り返したあげく、導入にいたる前に高額なコストがかかってしまうといったことも、AI開発の現場では頻発しています。

 あるいは、導入にまでいたったとしても、短期間で思ったように効果があがらず、早々に投資を打ち切ってしまうケースも見られます。どちらも非常にもったいないことです。

 AIは一般的なソフトウェアやアプリケーションのように、完成された状態で納品されるわけではありません。むしろ、「納品」という考え方にそぐわないのがAIであるとさえ言えます。データを読み込めば読み込むほど精度が向上するので、使い始めのときが最も価値が低く、使い続けるほど価値が上がっていくものです。AIは「育てる」ものであると言われる理由です。

 最初は小さな差が、やがて取り返しのつかないものに

 とはいえ、「効果が出るまで辛抱強く待て」と言うつもりはありません。AIは解決すべき課題と求められる精度が明確であるときに効果を発揮します。ここが漠然としていると、「本当にAIで解決できるのか」「どのくらいの精度が求められるのか」がわからず、プロジェクトが頓挫してしまいがちです。

 だから、AIの導入を検討する際には、過度な期待を抱かず、「小さく始めて、徐々に応用できる規模を拡大していく」ことが重要になります。

 こうした話を聞くと、もしかしたら、「AIとはその程度のものなのか」とがっかりされるかもしれません。特に最近は「人間を超える」といった過大なイメージが先行している面もあるので、現実との乖離にショックを受ける方もいるでしょう。

 しかし、「育てることによって精度が向上する」からこそ、いまやらないと、将来とても大きな差になってしまいます。すでにAIに投資して、順調に育てている企業は、数年後には競合他社が追いつけないほど高度なAIを手にしている可能性があります。

 いきなり高性能なAIを実装するのは難しいということは、一度出遅れると、その差を埋めることが容易ではないということでもあるのです。ビジネスにAIがもたらす最大のインパクトは、ここにあります。

 AIの導入は「組織」も変える

 よく「AIはビジネスを変える」と言われます。では、ビジネスの何を変えるのか。「高度な分析能力」を手に入れられるだけでなく、私は「組織文化」そのものへの影響も大きいのではないかと思っています。

 弊社がAIの導入支援を行ってきたクライアントの中には、いままでデータ活用に積極的でなかった企業も少なくありません。しかし、ある企業では、AIの導入に取り組むことでデータの重要性を認識し、それを有効に活用できる人材発掘を行うようになりました。

 すると、そうした人材を中心にした新たな組織が作られ、現場と経営層を「データ活用」という視点でつなぐ架け橋の役割を果たすようになったのです。いまでは彼らが組織内のハブとなり、AI活用に留まらない、さまざまな新しい取り組みが生まれています。

 AI開発は「現場任せ」でも「現場離れ」でもうまくいきません。現場と経営層がつながり、実装と効果検証のPDCAサイクルを回し続けなければならないのです。それは新規事業開発に求められるものと、まったく同じプロセスです。

 そうしたプロセスが実装されることで、組織にチャレンジを恐れないカルチャーが生まれていきます。それはAIが企業にもたらす、もうひとつの価値です。このようにAI導入には、組織文化の改革というメリットもあるのです。

高田朋貴(たかだ・ともき) 株式会社SIGNATE シニアデータサイエンティスト
明治大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。専門はコンピュータサイエンス(言語処理、人工知能等)。2015年、株式会社オプトホールディングのAI研究開発部門「データサイエンスラボ」に入社。同部署にて、主にAI開発のためのコンサルティング/受託分析や分析コンペティション設計、データサイエンス講座講師等に従事。18年4月、データサイエンスラボの事業統合を機にSIGNATEに参画。19年4月より現職。博士(理学)。

【仕事で使えるAIリテラシー】は、AI開発、AI人材の育成・採用を手がけるSIGNATEのデータサイエンティスト・高田朋貴さんが、ビジネスパーソンとしてAIを正しく理解し、活用する方法を解説します。アーカイブはこちら