新入社員時代の話をしよう。それは地獄の日々だった。研修期間は毎日、極度の緊張感でピリピリしていた。アポとり電話研修、飛び込み営業研修、営業ロールプレイングなどは、心身ともに疲弊するものだった。飛び込み営業研修では、気乗りしないまま、思わず「1位になる」と宣言してオフィスを出たところ、成績は振るわず。しかし、情け容赦なく教育担当は「負けたら、悔しがれ」と怒鳴った。最終日では過呼吸となり、会社に戻った瞬間倒れ、救急車で運ばれた。
配属前の泊まり込み研修は、いわゆる自己啓発セミナーのようなものだった。周囲の評価と自己評価のズレについて、研修担当の先輩、同期から徹底的に問い詰められた。辛くなり、その晩の打ち上げでは泥酔した上に、倒れた。
配属されてからは、営業会議で売れない理由を問い詰められる。朝から早朝まで働く日々だった。これだけ忙しいのに、なぜか毎月、宴会と芸の準備をしなくてはならなかった。さらに、突然、上司や先輩に飲みに誘われることもあり、その度に泣かされた。土曜日はどっと疲れて、昼まで起きられないのだが、仕事が片付かないので、日曜の午後は会社に行くという日々だった。「これは、東京の大学に進学してまでやりたかったことなのだろうか?」と自問自答した。
1997年に社会人になったのだが、言うまでもなく山一證券と北海道拓殖銀行が破綻した年だった。ただ、社会はどんどん暗くなっていくような気がした。翌年、SMAPが「夜空ノムコウ」をリリース。イントロを聴いた瞬間、黙って泣いた。さらにその頃、上司、先輩から飲みの席で「もうすぐ次の新人が入ってくる。お前に教えられることは、あるのか」と言われ、飲みの席ですすり泣いた。
当時は、今よりもずっと気合と根性の新人研修や、ハラスメントまがいのマネジメントがまかり通っていた。私自身、仕事が出来たわけではないし、不器用だった。とはいえ、いつの時代も、新入社員とは思い描いていた世界とのギャップ、予想以上の泥臭い仕事に悩むものである。ただ、今年はいつもの年とは違う。言うまでもなく、新型コロナウイルスショックの影響だ。
社会の前提が違う「新しい世界」の1年生
10月がやってきた。企業に新人が入ってきて半年がたった。毎年、「今年の新入社員は○○型」「新入社員にとって、理想の上司」などが話題となる。しかし、老若男女問わず新型コロナウイルスが直撃した今年においては、この手の新入社員に関する調査は牧歌的なものに感じてしまう。なにせ、生きる社会の前提が違いすぎる。
企業も、学校も「1年生」にとっては酷なものになった。皮肉なことに彼ら彼女たちは、新しい世界の1年生となってしまった。世界的にも「ロックダウン世代」という言葉が広がりつつある。
大学では、入学した途端にオンライン講義がスタートした。東京の大学に進学したが、上京せずに(できずに)地元から参加する学生もいた。勤務先の大学では、対面講義が一部、再開となった。もっと歓喜に満ち溢れると思っていたが、学生はやや戸惑い気味だ。逆にオンラインの講義に慣れてしまったからか、対面の講義に参加することや、同級生との交流については、むしろ慣れていない様子で、どこかぎこちない。
企業でも、入社式から新人研修までをオンラインで行った上に、その後もテレワークという企業が散見される。10月1日には内定式も行われたが、こちらもオンライン開催が目立った。
様々なイベントや研修、さらには配属後の実務がオンライン化されただけではない。今年の新人は、配属においても悩みを抱えているようだ。新卒、総合職で入社すると、勤務地、事業部、職種などは希望通りにいかないこともある。企業で人事をしているときには、希望外の配属を聞いて黙って泣き出す新人は毎年いた。ただ、今年はこのような問題のレベル感が違う。新型コロナウイルスショックで、配属される予定だった部門、職種が突然変更されたり、予想外の仕事につくという例も散見された。さらに、入社した途端に緊急事態宣言で、自宅待機という状態の企業もあった。まさに踏んだり蹴ったりだ。
新入社員は、もともと悩みを抱えがちであるが、今年は環境がまるで違う。自分の部署に新入社員がいる人は、彼ら彼女たちの胸中を理解していただきたい。毎年の新人の悩みとは、種類もレベルも違うのである。心身ともに悩みを抱えていないかケアしたい。新人には「苦労は買ってでもしろ」という、いかにもなサラリーマン的訓示は迷惑だ。すでに彼らは、バーゲンで爆買いしたレベルで、いや、押し売りに大量に買わされたレベルで苦労を買っている。彼ら彼女たちをいかに守るか。
コロナ時代の「新しいルール」をつくる
今年の新入社員は、どうか、悩みを自分だけで抱えないでほしい。上司・先輩、友人・知人に相談する、共有する勇気を持つ。抱え込んでいると、自分自身、行き詰まってしまう。職場の問題も解決されない。悩んでいるのは上司・先輩も一緒かもしれない。
というのは余計な先輩で、新時代の若者は、新しい勝ちパターン、ルールを勝手につくっていくものである。コロナ時代の新しい働き方、稼ぎ方をつくるのは新人だ。いや、頑張りすぎると疲れるので、息抜きながら生き抜いてほしいのだけど。
青春を自粛してはいけない。仕事もプライベートも楽しむことをサボらずに。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら