働き方ラボ

「新語・流行語大賞」をどう見るか? 時代の変化を読み解く

常見陽平

 早くも師走である。「2020年ユーキャン新語・流行語大賞」が発表された。今年の年間大賞は「3密」だった。トップテンは「愛の不時着」「あつ森(あつまれ、どうぶつの森)」「アベノマスク」「アマビエ」「オンライン〇〇」「鬼滅の刃」「GoToキャンペーン」「ソロキャンプ」「フワちゃん」だった。

2020ユーキャン新語・流行語大賞トップテン
2020ユーキャン新語・流行語大賞ノミネート30語

 私は毎年、この賞を追っている「流行語大賞ウォッチャー」である。この賞のもとになる『現代用語の基礎知識』の執筆を2010年代なかばから担当しており、その縁で同賞の授賞式もほぼ毎年、参加している(今年はイベントのやり方自体が変わったが)。この賞の楽しみ方をお伝えしよう。単にこの結果だけを見ても、まったく面白くないのだ。

 「流行語大賞」楽しむための基礎知識

 まずは、この賞の前提を確認しておこう。この賞は官庁などが発表している賞ではない。『現代用語の基礎知識』を刊行している自由国民社と、スポンサードしているユーキャンによるイベントなのである。

 6年前に、当時の『現代用語の基礎知識』編集長にインタビューをしたことがあるが、この賞がスタートした頃はメディアの取材も少なく、注目度が低いイベントだったという。しかし、今年で37回目を迎える同賞は、長く続けてきたこともあり、徐々に注目度が高くなってきたと言える。毎年、発表会には多数のメディアが押し寄せ、全国紙やバラエティ番組でも取り上げられている。

 同賞は毎年秋に発売される『現代用語の基礎知識』に掲載されている言葉から選考委員により選ばれる。ゆえに、年末にかけて流行った最新の言葉は取り上げられないし、やや遅れてノミネートされることもある。

 ノミネートされた言葉は、必ずしも称賛されているわけではない。ここ数年、この賞はバランスのとれたものになっていると感じるが、一時は政権に対して批判的なキーワードがかなり並んでいた。これに対して「公正ではない」「偏っている」という批判の声も散見された。

 ノミネート30語、受賞理由は要チェック

 いまやSNS上でのRTや「いいね」の数を測定できる時代だが、このようなネットでの影響度などではなく、あくまで選考委員会で選んだものである。この集計方法には「時代遅れ」という声もあるかもしれない。ただ、単なるアクセス数では測れない兆しの読み取り、様々な分野を横断した上での今年、知っておくべき新語・流行語がそこにはある。

 なお、同賞を受賞しても賞金がもらえるわけではない。もちろん、ポジティブな文脈で受賞した場合、知名度はますます上がるし、名誉にはなり得るが。

 大賞、トップテンだけでなく、ノミネートされた30の候補語も追うべきだ。トップテン入りした語は、公式サイトで受賞理由のコメントもチェックすると面白い。これが時代背景なども読み解いた、秀逸なものなのだ。

 「誰が受賞するか」も見どころである。前述したとおり、ノミネートやトップテン入りした言葉は、必ずしも礼賛されているわけではない。受賞を辞退されることもあれば、受賞者が授賞式に顔を出さないことだってある。語り草になっているのが、80年代半ばに流行した「新人類」という言葉の受賞者だ。仕掛け人である当時の『朝日ジャーナル』編集長である筑紫哲也が受賞するのが妥当だと考えられていた。しかし、受賞者は当時の西武の若手三羽烏、清原和博、工藤公康、渡辺久信だった。わからなくはないが、やや違う気がする。

 なお、芸人が決め台詞などで受賞すると、その後、売れなくなるというジンクスが指摘される。たしかに「安心してください、はいてますよ」「ダメよ~ダメダメ」など、今言うとスベりそうな言葉は多々ある。もっとも、これは言葉というよりもその芸人の能力・資質や運によるところも大きいだろう。柔軟に変化することができなかったのだ。

 このような前提を理解すると、見え方が少し変わってより楽しめるはずだ。

 ほぼ“コロナ一色”だった今年を読み解く

 さて、今年の同賞だが、ほぼ「コロナ関連一色」と言っていいだろう。いや、立ち止まって考えると、「鬼滅の刃」「あつ森」「愛の不時着」などのヒットコンテンツも多数生まれた年ではあった。しかし、すべてにおいて何らかのかたちで新型コロナウイルスショックに結びついてしまっている。分野はまたがっているようで、多様性がないものになってしまっている。これは、同賞が悪いわけではなく、それだけ2020年は新型コロナウイルスショックの年だったということだろう。

 前述したように、この賞は大賞やトップテンだけを追っていては本質が見えない。むしろ、今年はノミネートされた30の語を追うことにより、時代の変化や、これからの兆しを読むことができる。

 トップテンに「オンライン○○」以外、働き方関連のキーワードがほぼ入らなかったのはやや残念だった。とはいえ、ノミネートされた語を追うことで現実と、これからの兆しは見えてくる。「テレワーク/ワーケーション」に「ウーバーイーツ」と、「自由で柔軟な働き方(だとされるもの)」がノミネートされていることは時代を象徴している。これらは今後もキーワードとなるだろう。もっとも、これらが「自由で柔軟な働き方」だとされつつも、実際は「不自由で硬直化した」働き方になりえるという問題を直視するべきである。

 そして社会は「エッセンシャルワーカー」の努力によって動いていることも忘れてはならない。やや極論だが、マスクをして感染リスクを抱えつつ過酷な労働をする人と、マスクをせず自宅で柔軟に働くことができる人という働き方格差を我々は直視しなくてはならない。

 「新しい生活様式/ニューノーマル」「おうち時間/ステイホーム」と言いつつも、我慢の連鎖になっていないか。そして「自粛警察」が跋扈する。なんとも生きにくい時代だ。

 これからをどう生きるか。このノミネート語30語と受賞文を読みつつ「総合的、俯瞰的」に考えよう。大賞やトップテンだけではなく、このノミネート30語とそのつながりを考えること。これこそ大事だ。そして、ビジネスパーソンとしては、いつか自分の手掛けた案件が流行語大賞をとるように。祈りつつ、駆け抜けよう。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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