高論卓説

俳優・伊藤健太郎氏のひき逃げ いざというときの瞬発力は「ロープレ」で鍛錬

 俳優の伊藤健太郎氏が、乗用車でバイクに衝突し相手に重傷を負わせたにもかかわらず、救護措置を取ることなく現場を離れ、ひき逃げと過失致傷の疑いで逮捕された。映画、ドラマ、CMなどで活躍していたことから、億単位の違約金や損害賠償請求がされることが予想される。

 一方、歌手の工藤静香さんが、車で渋滞中に、ブレーキを離してしまい、前の車に衝突。「車を当てられた側の方が、慌てふためいて謝罪する私に気遣ってくださいました」とインスタグラムに投稿している。

 もし、工藤さんがその場を立ち去っていたら、大きな問題として取り上げられていたに違いない。運転中に限らず、不注意により事故を起こしてしまう可能性はある。重要なのは、その際に、逃げないで謝罪し救護措置を取るなどの適切な対応をとれるかということにある。

 これは事故に限らず、突然出来事に直面したその瞬間に、どのような動作や発言をするかという問題だと思えてならない。事故を起こしてしまったときに、そのまま逃走するか、即座に停止して適切な対応を取るか、瞬発力の問題だ。伊藤氏は、事故を起こしてしまったときに、頭では車を停止しなければと意識したに違いない。しかし、それがブレーキをかけて、車を停止させて、被害者の救護に当たるという行動につながらなかった。

 工藤さんは、謝罪するという対応をしている。事故を起こしたという意識が、謝罪という行動につながっているのだ。要は、突然の出来事に直面したときに、意識が行動につながるか、つながらないかで、その人のパフォーマンスが決まってくる。「冷静に行動しましょう」とは、よく言われることだが、それを実践することは簡単ではない。

 このように申し上げると、「瞬発力があるかどうかは、才能なので、後天的に身に付けることができないし、身に付けようと思ってもとても時間がかかる」という人もいる。動作が鈍い人はいつまでも鈍いというわけだ。

 また、「スポーツならいざしらず、日々の動作や発言の瞬発力を高めることなど、できるはずがない」と思っている人もいる。

 もし簡単な訓練で、動作や発言の瞬発力を高めることができるとすれば、取り組んでみたいと思わないだろうか。それも、訓練の相手がいればなお良いが、やろうと思えば一人でもできる方法がある。そんな方法があるのだ。

 私たちは何か発言するときに、時間があれば下書きをしたり、頭で考えたりして、準備をすることが普通だ。その準備をしないで、話しながら修正するという方法だ。

 そんな無謀なことに意味があるのかと思うかもしれないが、瞬発力を鍛えるには、これがよい。できれば自撮りをして、その話法を繰り出したり、その際の表情を自分で確認したりして修正するのがいい。ビジネススキルをその場で向上させる演習プログラムを実施しているが、あえて事前に準備しないで、自撮りしながらのロールプレイングを即座に始めて、動作と発言の瞬発力を鍛えていく。時間も1分から長いものでも5分以内で演習し、それを繰り返していく。瞬発力が確かに高まることを実感するに違いない。

 考えてみれば、私たちの社会的活動は、瞬発力発揮の積み重ねだ。職位が上がれば上がるほど、その度合いは高まる。

 あのときこうしておけばよかった、ああ言っておけばよかったと後悔しないために、準備しないロープレで瞬発力を高めることがお勧めだ。

【プロフィル】山口博(やまぐち・ひろし) モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。