ミラノの創作系男子たち

「時を細かく刻みながら…」心に響いたフランチェスカの言葉~女子編

安西洋之

 フランチェスカ・ピレッダを初めて知ったのは昨年のことだ。初夏の頃だっただろうか。難民や移民の社会統合を促すプロジェクトの発表の場だった。ミラノでデザインを学ぶ学生たち、アフリカなどの出身の必要に迫られてイタリア語を学ぶ若い人たち、これらの2つのグループが一緒になって活動し、それぞれが自分たちの幼少の頃の印象深い光景や場を模型で表現していた。デザインの学生たちはおよそ甘い暖かい過去を思い出していた。他方、移民の記憶には狂暴と恐怖が隣り合わせになった世界も少なくなかった。

 そのプロジェクトを推進したのがフランチェスカだった。彼女のあいさつの言葉が切れ味よく、誠実さ溢れた彼女の明るい振る舞いはぼくの心に残った。そこで本プロジェクトについて、SankeiBizの別のコラムに書いた。彼女にそのことを知らせて交信がはじまった。ミラノ工科大学のデザインの先生とは知っていたが、フランチェスカがあのようなプロジェクトに関与する個人的な動機は不明だった。

 その後、何度かメッセンジャー上のやりとりがあったが、直接会って話す機会はなかなか訪れない。偶然、リアルで会ったのは今年の初めである。ソーシャルイノベーションにデザインを持ち込んだ世界的第一人者のエツィオ・マンズィーニの講演会の聴衆のなかに彼女の姿をみかけて声をかけた。

 フランチェスカは博士課程の学生のときマンズィーニに教えを受け、彼に多大な影響を受けた学者でありデザイナーだったのだ。そして、ぼくはマンズィーニの本『日々の政治』を日本語に翻訳している最中だった。だから、彼女の関心領域がなんとなく想像できた。

 今回、インタビューをしてさまざまな断片が一挙に繋がった感がある。特に、彼女がコミュニケーションデザインの専門で、それもグラフィックではなく視聴覚のエキスパートであると知って納得する点が多かった。人々の日常生活での対話をどう促していくか。これがソーシャルイノベーションにとって肝のテーマだからだ。

 フランチェスカはミラノの生まれだが5歳の時、エンジニアの父親の転職でローマに移った。両親はイタリア中部アドリア海沿いにあるアブルッツォ州の出身であるため、ローマからもさほど遠くないアブルッツォの小さな村で休暇を過ごすことが多かった。

 どんな子どもだったのだろう。

「一人っ子だったこともあり、とにかく人と一緒にいるのが大好きだったわね。何度も引っ越したので、自分の周りのコンテクストを掴むことは得意だったと思うの。まず他人の声に耳を傾けるわけね」とフランチェスカは話す。

 耳を傾けるとは比喩でもある。例えば、風景や美しさに対しても、できるだけ虚心になって向き合う習慣がついたという。それでは、どうして大学ではデザインを勉強したいと思ったのか。

「高校は文科系で古典ギリシャ語やラテン語など人文学の基礎を勉強したので、言ってみれば、人文学の目で別の表現手段を学びたいと思ったの」

 アートや演劇という表現手段もあるが、リアルで具体的なプロジェクトのアクターになりたかったのだ。それがデザインを選んだ動機である。

 1996年にミラノ工科大学に入り、ストーリーテリングなどを戦略的にコミュニケーションに使う先生のもとで学んだ。それで映画や視聴覚メディアについて勉強した。およそ20年を経た今、この分野が注目されている。

「最近、ポッドキャストやラジオのような聴覚メディアが注目されているわ。ビデオ会議でも、話声だけを聞いているケースも多い。ということは口頭の重要性が見直されているってことね」

 彼女は言葉と言葉がつながり、意味をつくっていくことに関心がある。どちらかといえば、視覚的イメージから言葉を引き出すのではなく、言葉から視覚的イメージをつくることに魅力を感じるようだ。

 私生活のパートナーは大学時代の同級生だ。同じくコミュニケーションデザインを勉強し、今は広告やTV番組のビデオ編集などを行う会社で働いている。

 

 音楽はジャズやブルースを聞く。9歳の息子とロックも聞く。スポーツにはあまり熱心ではない。だが山を散策するのは大好きだ。1人でも他人と一緒でも、歩くのが好きだ。

 「でもね、今、刑務所の囚人がスポーツをするのを支援するプロジェクトがあって、スポーツとどう付き合うか直面している」と話す。

 息子が通う小学校とも積極的に関わっていきたいと思う。現在、十分にできているわけではないが、自分の研究と私生活が乖離しない姿勢は維持したいようだ。

 息子さんには何を期待するのか?

「希望を捨てない子かしら。希望が前進する発想や行動を生むから」

 希望は好奇心から生まれると思うが、息子さんの好奇心を刺激するために何をやっているのか。

「私からたくさん問いをし、彼からたくさんの問いを受け付けるようにしているわ」と大きな声で笑う。

 最後に、ぼくの心に響いたフランチェスカの以下の言葉を残しておこう。

「何をやるにも、時間とケアの2つが大事よね。私はリアルに他人と共にプロジェクトをするのが好きなの。それは、時を細かく刻みながら、じょじょに何かが変化し、そこから何かができていくのを実感することに意味を見いだすからなのよ」

 大雑把な時ではなく、繊細な時が意味を生むのだろうか。

安西洋之(あんざい・ひろゆき) モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?:世界を魅了する<意味>の戦略的デザイン』『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ミラノの創作系男子たち】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが、ミラノを拠点に活躍する世界各国のクリエイターの働き方や人生観を紹介する連載コラムです。更新は原則第2水曜日。アーカイブはこちらから。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ローカリゼーションマップ】も連載中です。