ブランドウォッチング

「無印良品」超大型店は一見の価値あり 簡素にして豊潤 衣食住に拡がるMUJIワールド

秋月涼佑

 「有明アリーナ」や「有明体操競技場」というオリンピック施設にほど近い東京湾岸最大級を謳うショッピングセンター「有明ガーデン」に、これまた関東最大という「無印良品」大型店「東京有明店」が12月3日オープンしました。

 早速訪れると、平日にも関わらず大変な人出で、駐車場や公共交通機関の状況を見るだけでも、遠方からわざわざ来店している人が多いことが感じられます。また、スーツ姿の何人かで視察する業界関係者らしき人が多いことも目をひきました。売り場では早くも、売り切れ入荷待ちの商品も散見され、人気の根強さを感じます。

 1977年に西友のプライベートブランドから小さくスタートした「無印良品」。こんなビッグブランドに成長する前の良くも悪くもこじんまりとした商売をしていた時代を知るものからすれば、まさにMUJI製品で衣食住すべてが揃い、「くらしの全部」百貨店を超える「百八貨店」と打ち出すのも納得な充実の売り場は驚き以外の何物でもありません。

 なんと、3フロアある真ん中のフロアには平屋一戸建て住宅のモデルルームまであり、他の製品と同様MUJIのプライスカード1615万円(税別)がついていて中を見学できます。

 このお店で、「無印良品」がここまでのブランドに成長していたというのを目の当たりにすると、どれだけ多くの生活者の厚い支持が長年にわたり積み重ねられてきたかということを実感します。

 そういえば自分のことを振り返っても、折々でMUJIの製品に大変お世話になってきました。

「無印良品」が支持される二つの理由

 それにしても世の中に「無印良品」ファンが多いことは肌で感じます。何気ない仕事仲間や、友人との会話。最近では「ムジラー」というMUJIファンを指すネットスラングまであるぐらいですが、ネット上にお勧めの無印商品の紹介記事が多数アップされていて、なるほどこれは買ってみようと思わせてくれます。

 無印ファンが、他多くの製品と別格の共感をもつ部分、つまり「無印良品」ブランドが特にユニークな部分は2つあると思っています。

 一つ目は「禅」の精神にも通じるような崇高なコンセプト。Zen Spiritsがスティーブ・ジョブズ始め多くの著名人に再発見され穏然と世界的ムーブメントになっていることは知られていますが、簡素な中に豊かさを見つける考え方は日本人にとっては非常に身近なものです。「無印良品」の製品も簡素な材料に無駄な装飾を排する流儀がゆえに、リーズナブルな価格を実現し、環境負荷にも意識した製品づくりが真骨頂です。シンプル、合理的だけれどもシャビ-(貧乏くさい)ではない。

 二つ目は、特にお店作りで表現されている部分ですが、簡潔な表現も行き過ぎてしまえば「単調」「冷たい」ものとなってしまいがちです。そこにあえて、対極の有機的な感覚を取り入れることで絶妙にヒューマンスケールな居心地の良さを表現しているのです。

 近代建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエは「Less is more(より少ない表現ほど豊穣)」とミニマリズムの精神を説きましたが、その後ポストモダニズムの潮流が起こり「Less is bore(ストイック過ぎる表現は退屈だ)」と反論されました。

 その点「無印良品」は早くから、売り場に意識的に古く使い古されたものだったり、泥臭いものであったりという手触りのある感覚を取り入れてきました。特に、ハイアットホテルグループの世界観を石、金属、木材などの本物の質感で表現したことで有名な故杉本貴志氏率いるスーパーポテトとのコラボレーションは注目を集めました。

 そんなアプローチは最新の有明ガーデン店でも存分に表現されていて、あえて古い建物で使われていた建材をディスプレイしたり、「荒物の引き売り(明治時代の行商。荷車で箒、ちりとりなどを売り歩いた)」などのユニークな展示がされていたりで、温かみや意外性に満ちたMUJIワールドを表現しています。

スーパーPB時代から営々とブレなかったブランドコンセプト

 「無印良品」が西友のプライベートブランドとしスタートした1977年から十数年は、高度成長を果たした日本が坂のてっぺんにたどり着いた時代でした。当時の西友は、作家としての顔ももつ文化志向の故堤清二氏に率いられる西武セゾングループの一員でした。「おしいい生活」というコピーとともに、ヨーロッパの最高級ブランドやライフスタイルを日本に紹介していた生活文化志向の企業風土の中では、スーパーマーケットのPB(プライベートブランド)はむしろ、地味で脇役的な印象もあったのは否めません。

 でも、それを逆手に取り、田中一光氏や原研哉氏など気鋭のクリエイター、プランナーも多く関わり「豪華に引け目を感じることなく誇りをもって簡素であること。」「無駄を省いていくことによって、豪華なものよりもっと素敵に見える。」という強い理念のもと立ち上げた「無印良品」はむしろ時間の経過、時代の変化の中で輝きを増した印象があります。(Visualize the philosophy of MUJI)

 今や生活者の百貨店に対する憧れにも似た熱気は冷めてしまい、地方では百貨店の閉店が相次いでいます。象徴的には西武セゾングループがプロデュースした豪華な消費文化の頂点と思えた、全室バトラーサービス付きの東京銀座「ホテル西洋銀座」はあっさりと取り壊され再開発されてしまいました。

 そんな時代の変化の中で支持され続けた「無印良品」をみると、失われた20年とも30年とも言われる日本の経済低迷を考えたとしても、結局日本人が選んだ居心地の良いライフスタイルはヨーロッパスタイルの豪華で装飾的なものではなく、簡素にして質実なものだったのかなと思います。

世界に日本人ならではの感性を発信

 今や、そんな「無印良品」も世界550店舗と国内479店舗を凌いでいます。(無印良品ホームページ)

Smartという英語は、日本ではスマートとスタイルの良さを表現するときなどに良く使われますが、本来の言葉のニュアンスはシンプル、合理的、無駄を排し整然としている賢明さを表現するときに使われる非常に良い意味だと聞きます。まさに「無印良品」はそんな日本人が好むライフスタイルや、生活信条を世界に表現してきたのかもしれません。そう考えると、広く日本の良さが受け入れられているようでうれしくもあります。

 ブランドとうものがいかに多くのものを伝えられるかという、まさにブランディングの成功事例だと思いますし、ブレずに着々とここまで豊かな世界観を築き上げた関係者の皆さんには最大限の敬意を禁じ得ません

 一方で、ユニクロやニトリなどSPA(製造小売)業態を武器に同じく高く支持される競合も多く、新製品が出るとネット上ではMUJI商品との綿密、シビアな比較記事も恒例となっています。

 何より、「簡素な表現の中に豊かさを見出す」ブランドのアイデンティティーを固持しつつ、常に新鮮さや驚きをどう更新、付与していけるか。「Less is bore(簡素は退屈だ)」と言われないような世界観をどうアップデートし続けられるか。これからのチャレンジにも大いに期待したいと思います。

秋月涼佑(あきづき・りょうすけ) ブランドプロデューサー
大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら