CAのここだけの話

「CAママでよかった」と思える瞬間 仕事復帰したから出会えた感動フライト

仁尾文

 SankeiBiz読者のみなさんだけに客室乗務員(CA)がこっそり教える「ここだけ」の話。第93回は中東系航空会社で乗務する仁尾文がお送りいたします。

中東系航空会社で乗務する仁尾文さん。「パイロット」の息子と一緒にフライトへ!? 提供:本人
客室乗務員になってから2回の出産を経験。子供は双子を含め3人、子育てと乗務の両立に奮闘中。提供:執筆者
ドバイのお気に入りのカフェにて。提供:執筆者
コロナによるロックダウン中に習得したヘッドスタンド。在住中のドバイにあるアルマハリゾートにて。提供:執筆者

 みなさん、客室乗務員の中にもワーキングマザーとして仕事をしている人がいることをご存知でしょうか?実は、私もそのうちの一人、“CAママ”なのです。現在、5歳の男の子と2歳の双子の女の子、3人の子供がいます。

 今回は、「CAという仕事が結婚そして出産後も継続可能であること」「CAママならではの働きぶり」をシェアしたいと思います。

産後は辞めようと思っていたけれど、生後5カ月で仕事復帰

 今の会社に入社したのは、ちょうど13年前になります。その時は、20代半ばで独身でした。

ドバイに住み始めてから3年くらいした時に、今の夫と出会い、2年後に結婚し、翌年に第一子をドバイで出産しました。客室乗務員の場合は、妊娠が発覚した時点で会社に報告し、すぐさま産休へと入ります。

 産休制度は会社によって異なるのですが、私の会社は「出産した日から数えて145日」で仕事に戻る訓練を受けなければなりません。仕事復帰の時、赤ちゃんはまだ生後約5カ月ということになります。もちろん、出産をきっかけに仕事には戻らずそのまま辞めてしまうクルーもたくさんいます。

 私も本当は辞めたかったのですが、夫の後押しもあり、出産後に仕事復帰する決意ができました。

 さきほど「出産後145日」と言いましたが、それが実は、その時の会社の事情にもよるのです。私が息子を産んだ5年前は、まだまだ新しい就航地も増え、クルーが充分にいたので、会社から2カ月余分に産休をいただきました。

 それに比べて双子を出産した年は、クルーの人数も足りておらず、月の平均フライト時間が全員80~100時間という多忙な年だったため、出産後のちょうど145日で復帰することになりました。ですがその時は、多胎出産だったのと、その双子が2カ月も早く未熟児で産まれてきてしまったので、マネージャーに掛け合い、「せめて1カ月だけ産休を伸ばして欲しい」と懇願した末、会社が私の要望に応えてくれる結果となりました。

自宅では勉強できない! 復帰に向け訓練開始後は必死

 私が仕事復帰する時に一番悩んだ事は、授乳を続けようか止めようかということでした。

 訓練に戻って驚いたのは、クラスメイト20人中、半数がまだ授乳を続けていたということです。訓練所には親切なことに、授乳を続けているクルーに気を遣って、搾乳できる部屋“マザーズルーム”が設けられていたり、母乳を保存できる“CAママ専用冷蔵庫”まであるのです。

 休憩中には、みんなでマザーズルームに行き、横並びに座ってマニュアルを読み、ランチを食べながら、一緒に搾乳したものです。その光景がなんとも面白くて、「私たちはCAでありながらママなのだなぁ」とみんなで笑っていました。

 自宅に帰ると3人の子供たちが待っています。勉強したくても思うようにはいかず、勉強の合間に授乳、夕飯の準備、寝かしつけなどしなくてはいけないので、本当に大変な毎日でした。

 家ではもう勉強できないものと割り切って、毎朝早く訓練所に行って復習をし、とにかく授業に集中していました。頑張ったおかげで全てのテストに合格し、またCAの仕事に戻ることが来ました。

 フライトが始まっても、私は子供が1歳になるまで授乳を続けました。長時間のフライトとなるとだんだん胸が張ってくるので、トイレで搾乳し、ステイ先でも数回搾乳していました。これができたのも、私がお客様の人数が少ないファーストクラス担当だったということと、同僚の理解があったからだと思います。

 また、ドバイでは共働きの家庭にナニー(子守り)がいるのはほぼ当たり前となっています。ナニーの雇用形態も家庭により異なり、住み込みで雇う人もいれば、必要な時だけ来てもらえる通いで雇う人もいます。

 私の場合、夫が毎日ドバイにいてくれるので、ナニーには泊まりではなく、通いでお手伝いに来てもらっています。彼女のおかげで、私は安心して仕事に行けるのです。

CAママで良かった! 仕事復帰で受けられる恩恵と感動

 私が、仕事に戻って一番良かったなと思う点は、世界の色々な場所で赤ちゃん用品だったり、子供の買い物が安くできるということです。ドバイは基本的に物価が高いので、当時はオムツや粉ミルクなどは海外で買ってきたりもしていました。

 機内での仕事について言うと、独身時代では気づかなかったであろう、お子様連れのお客様への気配りがもっとできるようになりました。私自身も休暇の際には家族で飛行機に乗るので、子連れの旅がいかに大変なのかがわかります。ですから、自分が働いている時に子連れの方がいると、できるだけその方の手助けができるようにきめ細やかなサービスを心がけています。そういった点では、私の妊娠、出産、育児の実体験が仕事でも活かされていると自負しています。

 以前私が乗務したフライトで、エコノミークラスのサービスが始まった時に前列に座っていた赤ちゃんが大泣きしていることに気づきました。サービスが終わる約2時間後もまだ泣いていて、ご夫婦も疲労困憊な顔をされていました。

 気になったので、数分後にまたご夫婦の元に戻ると、知らない年配の男性のお客様が赤ちゃんを抱いて飛行機の後方へと歩いていったのです。どういうことかと思い、その方に着いて行き、「ご家族ですか?」と尋ねました。すると、びっくりする答えが…。「あんなに長いこと泣いていて可哀想だったから、私が寝かしつけを手伝ってあげてるんだよ」と言うのです。

 一番驚いたのは、あんなに泣いていた赤ちゃんが、その方の腕の中ですやすや眠りについていたことでした。ご夫婦も救われたという表情をされていました。私にとっては、忘れもしない感動のフライトとなりました。

 CAは子供が生まれる直前まで業務に就くということが難しい職務ですし、毎晩帰宅できないという点で、ナニーや周囲の手を借りる必要も出てきます。しかし、そうした苦労を乗り越えてでも“CAママ”だからこそできる接客や得られる感動があるように思います。時には子育てと仕事の両立で大変な思いもしますが、いまは、仕事復帰してよかったと感じています。

福岡県北九州市出身。地元の航空専門スクール卒業後、世界中でリゾートを展開する「CLUB MED」の沖縄県石垣島と北海道に半年勤めた後、2004年にアメリカ・フロリダ州のディズニーワールドにて一年間ウエイトレスとして勤務。現在、中東系航空会社で乗務14年目。趣味は、キックボクシング、ヨガ、ズンバ、料理など。

【CAのここだけの話】はAirSol(エアソル)に登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。隔週月曜日掲載。アーカイブはこちら