日本では年間に300万台、6000トンのパソコンが廃棄されている。そのため大量の廃棄物が二酸化炭素を排出し、環境悪化の原因になっているのだ。こういった現状を変えることを目的に設立されたベンチャー企業がある。
それが「ZERO PC(ゼロピーシー)」だ。廃棄されたパソコンを修理して再利用できる状態にし、国内外で販売している。ここまでだと、通常のリサイクルショップでも行っていることだが、同社はエシカル経営を貫いているのが特徴だ。
例えば、電力はすべて自然エネルギーを使用。再利用が難しいパソコンは、部品をすべてリサイクルして廃棄物を出さない配慮をしている。梱包にはプラスチック製品を使わず、環境を考慮した運営を行っている。
なぜこのような事業を始めたのか? ZERO PCを運営するピープルポート株式会社、代表取締役社長の青山明弘さん(30)に取材を行った。
「まず、環境への負荷を減らしたいという思いがありました。新品のパソコンを1台つくるのに排出されるCO2の量は約300kgと言われています。一方、ZERO PCでは20kg未満の排出で済むため、90%以上のCO2の削減を削減することができます。梱包緩衝材にはプラスチックを使わずに、ダンボールのみです。というのも、プラスチックはリサイクル時に発生するCO2量が、ダンボールの約3倍もあるのです」
再生品ではあるが、パソコンの状態は新品と大差ない。心臓部にあたるハードディスクはすべて新品のSSDに交換するので、機能面においても問題はない。気になる値段だが、ネットやメールなどの軽作業向けが29800円(税別)から、デザイン作業やゲームなどハイパフォーマンス向けが59800円(税別)から、と様々なパソコンが揃っている。新品と比べるとかなり割安価格だ。
難民問題を解決したくて起業
実はこの事業には、ある目的が込められている。それは、代表の青山さんの体験にもとづいている。
「日本へ避難してくる難民問題を解決したくて起業しました。毎年1万人以上の人が自国を逃れ、日本に避難してきています。彼らのほとんどは、政府から難民認定の結果を待っている状態です。その間、約4~6年もあるのですが、条件の悪い仕事に就かざるをえなかったり、社会的に孤立するなど厳しい生活を強いられています。そういった難民の方々に、パソコン再生の技術を身につけてもらうことで、安心して生活できる場を提供したいと考えて、起業しました」
青山さんは、慶応義塾大学在学中にカンボジアに渡り、現地の兵士から戦争の話を聞いたり、地雷除去の活動に参加するなど、数々の国際問題に接してきた。帰国後は国際交流に関する仕事に就き、その中で感じたのが、難民を生んでしまう紛争を解決するには、生活の安定と相互の理解が必要だということだった。
「過酷な世界で生きざるを得ない当事者の力になりたいと思いました。なにか良い方法はないかと思案しているときに考えついたのが、パソコンの再生だったのです。最初はパソコンを分解して部品のリサイクル事業を考えました。ところが、ご存知のようにパソコンにはレアメタル(希少鉱物)が数多く使われています。分解してみたら、2~3割程度はまだ使える状態でした。リサイクルするにはもったいない、パソコンとして再生して販売するのはどうかと考えたのです」
現在、2名の難民がスタッフとして働いている、アフリカから逃れてきた2名だ。もう一人、難民申請中ではないが、シリア出身のスタッフも1名いる。
「パソコンの分解や部品の選別は、日本語が分からなくてもできる作業です。見て覚えてもらっていますし、英語やフランス語を話せるスタッフがいますので、工夫は必要ですがコミュ二ケーションはしっかりと取れています。また、彼らはボランティアから日本語を習っていますので、少しずつ言葉や習慣を覚え、日本での生活になじんでいます」
難民が自立できるように日本人と同水準の給与を支払っており、スキル次第で昇給もあるという。また、病気になったときや住まいの契約など、困りごとは日本人スタッフが手厚くサポートしている。
将来母国に帰ったら事業を起こしてほしい
「難民が生まれる要因の一つは部族間の紛争です。その背景には他の文化や民族を受け入れないという長年の因習があります。この問題を解決するのは非常に困難ですが、しかし、少しでも多様性を認める社会になっていくことが第一歩になるのではないでしょうか。パソコンも同じで、新品一辺倒ではなく、再生品も活用されるようになれば、より自由で多様性のある社会になると私は考えています」
ZERO PCは今後、認定中の難民が100名働ける環境を整備したいと考えている。
「海外にも拠点をつくりたいと考えています。難民の受け入れは国によって状況が異なります。ですので、制限の少ない国でも展開していこうと構想を練っています。近い将来的には、自社でもパソコンをつくりたいと考えています。オランダにFairphone(フェアフォン)というスマートフォンがあるのですが、これは再生を前提としてつくられています。リサイクルプラスチックの利用をはじめ、紛争の資金源となっていない鉱物の使用、修理しやすいようにパーツごとに取り外して交換できるように設計をしていたりと、環境への負荷を減らしているのです。この事例をモデルに、人にも環境にも負荷のより少ないパソコンをつくりたいと考えています」
パソコン再生の技術を身につけて、将来母国に帰ったら事業を起こしてほしい。それが難民問題の解決につながるはずだ、という青山さん。始まったばかりの活動だが、世界を変える可能性に満ちていると感じた。(吉田由紀子/5時から作家塾(R))