働き方ラボ

あなたに強敵(とも)はいるか? コロナ禍での切磋琢磨のススメ

常見陽平

 突然だが、あなたは「強敵」という漢字をどう読むか? 普通は「きょうてき」と読むだろう。私は「とも」と読む。昔のジャンプ漫画『北斗の拳』的世界観だ。闘った相手はライバルであり、友情が芽生えていくのである。ちなみに「地球(ほし)」「宇宙(そら)」「人生(たび)」と読む。これが私の流儀だ。

 ちょうど年末年始はコミック版の『バクマン。』(原作:大場つぐみ 漫画:小畑健 集英社)を読み返していた。大根仁監督、佐藤健、神木隆之介主演により映画化された、漫画家の青春記である。『週刊少年ジャンプ』を舞台に、若手漫画家が競い合う。連載を実現できるか、読者アンケートで高い支持を得られるか、アニメ化を実現できるか、何より面白い作品を生み出すことができるかなど、競い合う姿にはゾクゾクする。

 一方、現代は「競争よりも共創」「持続可能な社会を」という言葉が飛び交う低成長の時代である。ましてや、新型コロナウイルスショックで環境も激しく変わる中、「ライバル」や「競争」に意味を感じない人、さめた視点で捉える人もいることだろう。

 ただ、会社勤めをしていると、黙っていても競争をさせられる。特に営業の現場はそうだ。営業成績は日々、社内で共有される。企業によっては、営業成績がボーナスやインセンティブに直結するので、一喜一憂する。数字は実に正直である。競争しているのは営業だけではない。一見すると数字に無縁のようなスタッフも競争している。たとえば、コスト削減や、効率化などである。出世争いというものも存在する。最近では、役職を既得権化しない企業もじわじわ増えてきたし、管理職を目指さないキャリアも模索されている。とはいえ、同期入社の中で誰が先に管理職になるのかが気になる人も多いことだろう。

 今回はライバル、競争について考えてみよう。あなたに「強敵(とも)」はいるか? コロナ禍の中、私たちは誰とどのように切磋琢磨するべきなのか?

 社外に強敵(とも)がいると人生が楽しい

 私がラッキーだったのは、よい競争相手に恵まれたことだ。負けて当然の立場から強い相手に勝負できたのはラッキーだった。いや、厳密に、目の前で競争していたわけではない。仮想敵を設定して、勝負を挑んでいた。

 「競争相手は、市場だ」。のちに独立・起業し、上場を果たした先輩が口にしていた言葉である。社内の先輩・同僚との競争も尊いが、身内と争っていても意味がない。それよりも、社外のプロたちと争った方がやりがいはあるし、社内からも拍手される。何より、それは顧客や世の中のためになる。

 会社員時代は、営業、営業企画、広報、人事などの仕事をした。営業は成果が数字で見えやすいが、それ以外の仕事もスタッフワークのようで、実はすべて数字や結果がわかる仕事だった。

 私が特に他社と闘っていたのは、人事で採用を担当していた頃だった。人事は成果が見えにくいと思う人もいるだろうが、それは違う。人事にも「人気企業ランキング」などの指標がある。このランキングは、もともとの企業の知名度も影響するし、単に学生の憧れを可視化しただけという批判もある。ただ、集計する企業によっては採用活動後のランキングも出しているので、成果がわからなくはない。ネット上のクチコミなどで学生の評価を確認することもできる。採用人数、予算という数値で計りやすい指標もあるし、採用した人に対する社内の評価というのも可視化できる。

 この頃は、極めて意識の高い言い方だが「就活生の前で、最高の社会人となり、社会、会社への扉を開けてあげること」を目標としていた。説明会に使う資料や動画、装飾物づくりから、プレゼンテーションのやり方、トークの内容、さらには服装まで他社に負けないように研究し、力を注ぎ、磨きをかけていた。

 資料作りにおいては、学生がネットに書き込みたくなるパワーワードを仕込んでいたし、説明会では音楽のライブや夏フェスや格闘技イベントを参考にし、「煽り映像」から始めたり、最後は社員や顧客の声をまとめたビデオを流すなど「感動」するものを目指していた。就活を応援する歌まで作ったこともある。服装も「総合商社よりも、大手広告代理店よりもかっこいい自分でいる」と美容室に通い若者にウケる髪型を研究し、さらに服にも1着10万円以上かけた。採用のためだけに20万円するブランド物のスーツも購入した。面白い話をするために、自社の提供番組はすべて録画して見た上、ビジネス雑誌なども読み込んだ。もちろん、他社の取り組みも研究した。

 ただ、最後は壁にぶち当たった。気づけば、合同説明会などでプレゼンをするたびに、後ろの方には大手の人事がずらりと偵察にやってくるようになった。つまり、いつの間にか、他社にマークされる存在となったのだ。他社とこれ以上のものを超えるには、自分を超えなくてはならなかった。

 他社の人事を参考にしていても、勝てないということを悟り、私は他の分野から学ぶことにした。前述したように、ロックのライブや夏フェス、格闘技イベントなどだ。また、まるで意識高い系のようだが、「人事」という枠をこえ、「かっこいいビジネスパーソンとはどんな人か」とビジネス雑誌をみて研究した。

 最後は自分との競争だった。ただ、「かっこいい社会人」とは何かということを考え、それを目指し、競うことにいきついた。これは今も変わっていないのだ。

 君たちは誰と競うか

 新型コロナウイルスショックの時代、社内外のライバルの動きが見えにくい。いや、むしろSNS上で他社の動きをウォッチするのが楽になっているとも言えるが。自分を超えるために、自社や自分の業界以外にライバルやロールモデルを求め、自分のために自分を磨こう。特に、「かっこいい社会人」とは何かを考える続けること。別にそれは目の前にいる人でなくてもいい。いま存在する人でなくても、ビジネスパーソンでなくてもいい。競争相手、ロールモデルが、コロナ時代の仕事を楽しくする。

 そういえば先日、社会人1年目の教え子からメッセージが届いた。大手人材ビジネス企業勤務の彼は、このたび営業成績で400人中3位になり表彰されたそうだ。もともとサッカー少年で、高校進学時、強い高校でプレイするために越境入学し、全国大会にも出場したことがある彼は、「勝利」ということに静かに闘志を燃やすタイプである。進路面談をした際も、「勝利」「成長」に対する並ではない熱を感じた。全然、ブレていなくて嬉しかった。

 何かと黙っていても競争「させられる」社会ではある。ただ、自ら楽しく「競争する」ことを意識したい。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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