事業承継について解説する連載コラム「長寿企業大国ニッポンのいま」第2回は、前回記した「国や自治体が出している方針やサポート」に関して、詳しく解説していきます。
事業承継に関する各機関のサポートとその内容
現在、あらゆる機関で「事業承継」を推し進めるために様々なサポートが行われています。大きく分けて3種類の取り組みが存在します。
- 1.セミナーなどを活用し、事業承継を推進する啓蒙活動
- 2.企業の事業承継を行うにはどうしたら良いかという問題を解決するためのサポート
- 3.事業承継を行うにあたっての、費用面のサポート
経営者の方、または後継者の方がスムーズに、安心して事業を引き継ぐためのプロセスをサポートし、より多くの企業の世代交代を後押ししています。これから事業承継を検討しなければならない企業も、既に検討中・実施段階に入っている企業にも有効な手段ですので、是非参考にしていただけると幸いです。
事業承継に関するセミナーも多数開催されている
都道府県や市区町村、または地域の自治体などが今、力を入れて実施しているのが事業承継に関するセミナーです。場所によっては、既にオンライン形式を導入し、ZOOMなどで実施をしているところがあります。
経営者の平均年齢の推移といった市場動向や課題、事例を交えた講座を行うケースが主流ですが、伝え方に工夫を凝らし、落語形式で行うセミナーもあったりします。本連載第1回で少し触れた中小企業庁の「事業承継計画表」を何回かに分けて、講師と一緒に作成していくようなセミナーも開催されていて、私も登壇経験があります。
実際に、事業承継計画表を策定する場合、事業承継に係る関係者を洗い出します。現経営者と後継者はもちろん、株式を保有する親族などを今一度確認をし、株式保有比率などを正しく判断するところから組み立てられます。
また、中小企業の場合は、経営者自身の個人資産状況や、会社の経営資源・リスク状況を洗い出すことで、どれくらいの期間を設けて事業承継に取り組むべきかを可視化していきます。
私が登壇したセミナーは経営者向けではあったものの、実際にご来場いただいたのは、半数近くが後継者の方で、お父様(現経営者)のご経歴・会社の業績を把握することから、フォーマットを埋めていきました。
自治体が行う事業承継の経営セミナーならびに、ワーク型の事業承継講座などには、無料で参加できるものが多くあります。そして、その場で伝えられるのは、以下の項目の説明である場合が特に多いです。
事業承継に関して円滑に行うための3つのポイント
【1】関係者の理解
- 親族間承継の場合は、家族間での会話をしっかり重ね、後継者に覚悟を促す
- 社内役員、従業員に対する、後継者の紹介および事業承継計画と事業計画の共有(決意表明)
- 金融機関ならびに、各種取引先への後継者の紹介
- 現経営者の引継ぎ後のプランの共有
【2】後継者育成
- 代表になる覚悟の確認
- 取引先への挨拶回りと、企業・社員理解
- 経営者としてのコスト管理・経費管理などの習熟
【3】株式・財産などの分配
- 後継者の相続と、家族の相続
- 会社法の規定を活用した、株式の分散防止に向けた制度整備
セミナーではこれら3つのことを抑えることを意識付けられるため、経営者はもちろん・後継者にも学びの多いコンテンツが提供されています。
実際に事業承継を行うにはどうすれば? 相談窓口の活用法
多くの商工会議所などには「事業引継ぎ支援センター」が設置されています。
- 長年経営してきた企業をの引き継ぐ際にどうしたら良いのか
- 後継者の候補が居ない
- どのように進めて良いかわからない
- 廃業も視野に入れて相談をしたい
- M&Aも視野に入れて相談したい
など、より具体的に事業を引き継ぐにはどのように対応してよいかわからないという経営者のために、サポート窓口が設置されているのです。
セミナーで概略は把握したものの、やはり企業のことなのでオープンには質問が出来ない場合などに対応しています。中小企業診断士や専門家が派遣されているケースも多く、第1回に記した、企業の「磨き上げ」などについても相談が可能です。
「事業承継に関して円滑に行うためための3つのポイント」にも記したように、事業を引き継ぐ上で、周囲の人に協力を仰ぐべき内容と、株式・財産・退職金などの金銭に係る内容があり、事業承継には多くの作業がともないます。「事業引継ぎ支援センター」の相談窓口ではその全体的なスケジュールを作成してくれるため、より多くの気づきを感じることが出来ます。
事業承継はお金がかかる? 後継者が受けられる費用面のサポート
最後に、「事業承継」を行うための、後継者に対する費用面のサポートについてまとめます。
サポートには大きく分けて、「事業を引き継ぐ前の信用保証」と「税金面の支援」の2つがあります。
1つ目は「事業を引き継ぐ前の信用保証」で、事業承継を行う後継者の株式や資産を購入するための費用補助です。
事業を譲り受ける際には株式や資産を購入する必要があり、場合によっては、各種金融機関からの貸付が必要となります。個人で負担するには大きな費用が動くことになりますので、「経営承継円滑化法」が定める「信用保証・公庫融資」の特例を活用することによって、企業の譲り受け時の負担を軽くすることが可能となるのです。経営承継円滑化法は、中小企業の事業承継を総合的に支援するために制定された法律です。
2つ目は、後継者に対する「税金面の支援」です。企業の形式にもよりますが、事業を購入するということは、登録免許税や不動産取得税の課税など、会社の看板を買い取るだけではない部分での負担が発生いします。そのため、税金に関して、3つの猶予・優遇措置が講じられています。
「相続税・贈与税の納税猶予制度」
1つは「相続税・贈与税の納税猶予制度」です。後継者が、非上場中小企業の株式等や事業用資産を先代経営者から相続・贈与により取得する際、都道府県知事の認可を受けると、相続税・贈与税の納税が猶予されます。中小企業による事業継続を通じた雇用の確保や、地域経済の活力維持を図る観点から経営承継円滑化法で定められています。
「登録免許税の軽減」「不動産取得税の軽減」
残る2つの支援は「登録免許税の軽減」と「不動産取得税の軽減」です。
第三者承継(「M&A」ともいえる)において、事業譲渡、株式譲渡で欠かせない「不動産の買い取り」の際に発生する登録免許税や不動産取得税を軽減するものです。
登録免許税・不動産取得税の軽減は、2019年12月に経済産業省が策定した「第三者承継支援総合パッケージ」に組み込まれた施策で、具体的には下記のような軽減措置がとられています。
- 登録免許税: 2.0%→0.4%
- 不動産取得税: 不動産価格の6分の1に相当する額を課税標準から控除
このように、後継者およびM&Aの買い手に対して、費用負担を軽減する措置が中小企業庁や経済産業省から出されているのです。
費用サポートを利用し印刷会社をM&A 経営者になった会社員
実際、私がインタビューさせて頂いた後継者の中には、IT企業で長年働かれていた経験を生かし、セカンドキャリアとして地元の印刷会社の事業を譲り受けたという方がいます。
80名ほどの企業の代表権を取得する際に、個人で一から購入しようとしても、株式を買い取ることができない場合が多くあります。個人で受けられる融資には限度もあります。印刷会社は当時、倉庫などの不動産を含めて、国の支援と金融機関の融資を受け株式を取得し、事業の再生を行っておりました。
そこで後継者が利用したのが、前段でご紹介したような、国や自治体による費用面のサポートです。支援を受けることで実際に印刷会社の「2代目」として企業を引っ張る立場に転身しました。
この第三者承継支援総合パッケージは、M&A仲介を推進するように思われるケースもありますが、実際は、個人での事業の譲り受けを可能になります。日本の老舗企業の存続のための一つのあり方として是非参考にしてみて下さい。
経営者と後継者、それぞれに踏み出してほしい「一歩」
今回は、事業承継を知る機会を得られる身近なセミナーから、国による実際の費用負担面のサポートまで書かせていただきました。経産省は、第三者承継支援総合パッケージを通じて、2020年からの10年間で、60万者の第三者への承継実現を目標としています。国は、残り9年間で、長期的に事業の引き継ぎを推し進めていこうとしているのです。
経営者の皆様は、まずはご自身の事業ををいつバトンタッチを行うかを考えてみること。後継者の皆様は、引き継ぐ予定の事業をより深く知ることからスタートし、今だから得られる、国からの支援を受けてみてはいかがでしょうか。
参考
*事業承継計画の作成
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei20/q18.htm
*埼玉県事業引継ぎ支援センター
http://www.saitamacci.or.jp/management/handing.asp
*経営承継円滑化法
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.htm
*第三者承継支援総合パッケージ
https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191220012/20191220012.html
【長寿企業大国ニッポンのいま】は、「大廃業時代」の到来が危惧される日本において、中小企業がこれまで育ててきた事業や技術を次の世代にスムーズにつなぐための知識やノウハウを、事業承継士の葛谷篤志氏が解説する「事業承継」コラムです。アーカイブはこちら