最強のコミュニケーション術

コロナ不安ばかり聞かされ疲れた! 話題変更は「懐かしい話」が有効な理由

藤田尚弓

 伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。

 第25回は「不安」がテーマです。在宅勤務による様々な不安を解消するために、雑談を推奨する企業も増えてきました。沈静化しない新型コロナウイルス、経済の停滞、解雇への不安など、気持ちが沈みがちな人もいるでしょう。早めに異変を察知し、助け合うという意味で、雑談には一定の効果があります。

 しかし、気持ちが不安な人にポジティブ思考を押しつけたり、励ましたりしても状況は改善しません。不安を抱える人とは、どのようにコミュニケーションをとるのがよいのでしょうか。よくあるNG例と言い換え例を確認しておきましょう。

「話せば楽になる」は間違い!?

 不安を抱えている部下に早めに気づくことは大切です。しかし「話せば楽になる」と、気持ちを話すことを強要するのはNGです。

 確かに話を聞いてもらうだけで、不安が解消するケースもあります。しかし、話すという行為はネガティブな感情を反芻することでもあるので、嫌な気持ちを思い出したり、増幅させたりしてしまうこともあることを知っておきましょう。男性の場合、恥感情の影響で、話を聞いてもらうことが、むしろストレスになってしまうこともあります。無理に話させるよりも、部下が話を聞いてもらいたいときに、声をかけやすくしておくのがお勧めです。

  • NG例
  • 「いいから話してみろよ」
  • 言い換え例
  • 「話したくなったらいつでも言って」

「考えるな」というのは難しい

 まだ起きてもいないことを考えて不安に思うなんてバカらしい。そう考える人もいると思うのですが、不安になっている人に対する「気にするな」というアドバイスは、効果があまり期待できません。思考を抑制するのは、私たちが思っているよりも難しいものです。

 「シロクマについて考えないでください」と言われたグループと、そうでないグループを比較した有名な実験があります(*1)。この実験では、シロクマについて考えないようにしたグループの方が、逆にシロクマについて多くのことを考えてしまうという結果になりました。

 不安なことを考えないようにする方法としては、意識を今この場所に集中させる「マインドフルネス」などが有名です。しかし、この概念を知らない人に突然「やってみて」と言っても少し難しいかも知れません。

 そこでお勧めなのが、代替思考です。不安な事柄について考えないよう努力するのではなく、代わりに他のことを考えてもらうというやり方です。「成功をイメージする」といった無理なポジティブ思考よりも、不安と関係のないニュートラルなものから始めるのがお勧めです。

  • NG例
  • 「そんなこと考えるなよ」
  • 言い換え例
  • 「不安になりそうなときは、今、食べたいものを思い出してみたらどうかな」

「頑張れ」と言う前にしてほしいこと

 頑張れという励ましは、ある程度、気分が前向きに変わってきたタイミングで使ってほしい言葉です。本当に辛いときに「頑張れ」は逆効果。今の自分は頑張っていないような、ネガティブな意味に捉えてしまう心理状況のときもあります。

 人がネガティブな感情を話す理由は「不安を解消したい」「気持ちをスッキリさせたい」といった理由が多くなっています。次に多いのは「気持ちを知ってほしい」「同意してほしい」などの理解と受容です(*2)。話に耳を傾けることで楽になるケースもありますが、理解してほしいという気持ちの人もいます。アドバイスをする前に、相手の置かれている状況や気持ちに対して、「共感」もしくは「理解」の言葉を使いましょう。

  • 共感の言葉の例
  • 「それは辛いよね」
  • 「その気持ちわかるな」
  • 理解の言葉の例
  • 「○○が辛かったんだね」
  • 「○○という気持ちだったんだね」

 自分には共感できないこと、肯定してあげられないことでも、理解を示すことはできます。練習すると、すぐにできるようになるのでやってみてください。

物事の捉え方には人それぞれ癖がある

 メールの返信が来なかったときに「忙しいのかな」と考える人もいれば、「自分は軽んじられている」と考える人もいます。もちろん相手との関係性や状況など様々な要素を踏まえた上での感じ方だとは思いますが、物事の捉え方に癖がある人は意外に多いようです。

 コロナウイルスの影響で仕事が減ってしまった人の中にも「変わらなければならない時期だ」と前向きに考えを巡らす人もいれば、「飲食ばかりが補償をされて不公平だ」など不満に思うばかりの人もいます。もし不安、怒りなどの感情が大きくなってしまった場合には、物事の捉え方を変える練習をしてみてください。ポジティブな側面に心から同意できなくても、違う捉え方ができる経験をすることで、少し心が軽くなると思います。

 もし、皆さんの周りにネガティブな捉え方ばかりする人がいる場合、長時間話を聞かされることによって疲弊してしまうことがあるかも知れません。そのような場合には、トイレに立つなど物理的に距離をとって、戻ったときに話題を変えるようにしてみてください。考えることが必要な質問を振ることで代替思考をしてもらうことができます。

変化の激しい今 お勧めの質問は「懐かしい話」

 人生の節目、社会の転換期など、急激な変化が起きるタイミングでは、過去を懐かしむという行動がよく起こります。成人の日には、SNSに自分が子供の頃の写真をアップする人がたくさんいました。緊急事態宣言が出てからは、仲間と集まっていた頃の写真や過去の旅行先の写真などを目にすることが増えました。

 多くの人が変化を経験するタイミングでは「懐かしい話」がお勧めです。ネガティブな捉え方ばかりをしている人に疲れたときには、ぜひ試してみてください。

  • 「ところで最近雨が多いけど、雨の日の懐かしい思い出ってなに?」

 懐かしいという感情には、気持ちをポジティブする効果や孤独感を解消する効果も期待できるので(*3)、在宅勤務で孤立していまっている人にもお勧めです。

*1 Wegner, D. M. (1994). Ironic processes of mental control. Psychological review, 101(1), 34.

*2 川瀬隆千. (2000). 感情を語る理由: 人はなぜネガティブな感情を他者に語るのか. 宮崎公立大学人文学部紀要, 7(1), 135-149.

*3 Wildschut,T., Sedikides, C., Arndt, J., & Routledge, C.(2006) Nostalgia:Content, triggers,

藤田尚弓(ふじた・なおみ) コミュニケーション研究家
株式会社アップウェブ代表取締役
企業のマニュアルやトレーニングプログラムの開発、テレビでの解説、コラム執筆など、コミュニケーション研究をベースにし幅広く活動。著書は「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)他多数。

最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら