私は「意識高い系」ウォッチャーである。2012年に『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)をリリースし、意識高い系という言葉を早くから仕掛けた。意識高い系を描いたドラマについて企画立案段階で協力したこともある。現在、noteで意識高い系を描いた小説を執筆中である。
そんな意識高い系ウォッチャーの私にとって、たまらない出来事といえば、1月下旬からのSNS「クラブハウス」のブームである。意識高い系という言葉を仕掛けてからの約10年間や、我が国の四半世紀のインターネットの歴史を濃縮に体験した2週間だった。
完全招待制の音声SNS「クラブハウス」
すでにさまざまなメディアで紹介されているのでご存知の人も多いと思うが、クラブハウスについて簡単に説明しよう。これは一言で表現するなら「音声SNS」ともいえるサービスである。公開・非公開のトークルームで話をすることができる。交流ツールにもなるし、聴く側にまわってラジオのように使うこともできる。
完全招待制になっており、やりとりは音声のみ。テキストメッセージは一切使用不可、ログも保存されないなど制約が多い上、現状はiOS限定のアプリである。利用者数が爆発的に増えたためか、動作も不安定で、トークを楽しんでいる際にトークルームを開いたモデレーターが、突然落ちてしまうこともある。ただ、それも含めて熱狂に拍車をかけている感がある。
たしかに、有意義なサービスではある。現代ではさまざまなSNSが登場しており、ユーザーも利用目的に応じてそれらを使い分けている。ただ、そのSNSにも旬がある。アクティブに盛り上がっているプラットフォームは何をやってもレスポンスが早く、ユーザーにとっても面白いし、中毒性が増す。どんどん友人・知人が登録していくことで、テンションも上がるだろう。
依然としてコロナ禍が続く今日、都市部を中心に緊急事態宣言が発令されており、飲み会も満足に行うことができない。政治家はともかく、庶民は銀座でステーキ会食をすることもできない。そんな中、クラブハウスを開けば、まるで立ち飲み屋で飲むかのように集まることができる。著名人の話を聞くことができるし、ひょっとしたら直接会話をすることすらできるかもしれない。専門家同士の雑談を聞くのも有益だ。知的好奇心が刺激される。
ここ数年、SNSは荒れがちだったが、クラブハウスは文字ではなく音声であるがゆえに、キツいことを言うことに少しブレーキがかかるのもポイントだ。特に、クローズドな部屋にすると、落ち着いて話すことができる。
一方で、クラブハウスの通知や、開かれている部屋をみると、いかにも「意識高い系」という言動が散見されて香ばしい。その様子をみて、12年くらい前のツイッターやフェイスブックを見ているようだった。盛りに盛ったプロフィールをつくる人、「1000名超え!」などフォロワー数を誇示する人、普及し始めたばかりなのにも関わらず上級者ぶる人、トークの中でマウンティングしようとする人、ホスト側にまわって自分を大きく見せようとする人、中身のないことを自信満々に語る人など、まあ、いつもの光景が広がる。そして、毎日のように「これからの○○を考えよう」的なイベントが開かれる。
意識高い系がクラブハウスに前のめりになるのは、早めに動いた方がフォロワー数アップに取り組みやすいし、“ベテラン面”することができるからだろう。ブログやツイッターが流行り始めたときもそうだったが、ここでブレークし、「最もフォロワー数が多い○○」というタイトルを手にすることができる。
芸能人・著名人も続々と参戦
なお、これまたネット・SNSあるある話ではあるが、結局のところ芸能人・著名人は最強なのである。アイドルグループの新旧メンバーは圧倒的にSNSのフォロワー数を伸ばしている。現状、クラブハウスは課金の仕組みなどはないが、彼ら彼女らもクラブハウスに参戦していくのか。今後、どのようにマネタイズに活かすのか。もっとも、ここで課金できなくても、つながりは資産となる。ここでのつながりを、オンラインのサロンや、各種コンテンツに誘導するなどの工夫はできそうだ。
一方、芸能人や著名人が参戦することによるトラブルも気になるところだ。クラブハウスはサービス上、公開用のログが残らない仕様であり、規定上も発言者から一筆もらわなくては、そこでの書き起こしを外部で公開することはできないことになっている。ただ、今話題の取材なしで書かれる「こたつ記事」のネタになるなどの事案が起こらないか…気になるところだ。
見方を変えると、企業の採用活動でも使えるかもしれない。クラブハウスで社員との接点をつくり企業を体感する機会になる。また、採りたいと思う人を発掘するツールになりえる。SNS採用は約10年前に流行した。新しいプラットフォームは感度の高い層から使い始めるので、現状は人材発掘のツールに使うことは可能だ。もっとも、あまりにもプロフィール情報がすくないし、テキストベースでのメッセージのやり取りができないので、別の手段で連絡を取り合うことが必要ではある。
「クラブハウス疲れ」にはご用心
こうした流れは傍観する対象としては面白いのだが、やや気をつけなくてはならないことがある。それは「SNSブルー」である。SNS鬱とも言う。まわりの友人、知人が前のめりに頑張っている様子をみて、心が折れるというものである。これは、2000年代に流行した自己啓発疲れにも似ている。ビジネス書を読んで自分磨きに没頭するのだが、なかなか成果がでずに気持ちが落ちたり、周りの仲間が頑張っている様子をみてブルーになるというものである。ただでさえ、コロナ禍で気分が沈みがちである。SNSにのめりこむことで、自らを傷つけてはいけない。
クラブハウスに限らないが、SNSはハマりすぎないためにも、心の安定を実現するためにも、自分のルールを決めることを強くオススメする。これからの時代は息を抜きながら、生き抜くスキルが大切なのだ。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら