最強のコミュニケーション術

ブレストはキケン? 話し合いで決めることの不都合な真実

藤田尚弓

 伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。

 第26回は「話し合いで決めることのデメリット」がテーマです。新型コロナウイルスの登場で、私たちの働き方や生活のルールが変化しました。オンラインでの仕事が普及し、コミュニケーション不足が問題視されるようになったこともあり、相談しながら決める機会が増えているそうです。みんなで話し合って決めるという姿勢は素晴らしいことですが、そのデメリットについてはあまり知られていません。私たちの判断は他者からの影響によって変わってしまうという特性があります。

 話し合って決めることのデメリット、人の意見を聞くことのメリット、意見を言ってもらえるようにするためのコミュニケーションについて確認しておきましょう。

90%以上の人が「重要な決定は相談して決める」

 皆さんは何かを決めるときに、自分だけで考えるタイプでしょうか。それとも誰かに相談するタイプでしょうか。ちょっとした決断であれば自分だけで決めるという人も、重要な決断をするときには誰かに相談して、不安を解消したいと思うようです。

 研究によると、自分にとって重要な決定をするときに、他者に相談をする人は90%以上(*1)。複数の人に相談して決める場合のメリットやデメリットは知っておいたほうが良さそうです。

 仕事で何かを決めるとき、先輩や上司から情報を得たり、方向性の間違いを指摘してもらったりする人は多いと思います。問題解決をする場合でも、話し合ってアイデアを出し合ったほうが様々な意見が出る、よりよい決定ができると考えている人もいると思います。しかし、みんなで話し合って決めることが最善というわけではないのをご存知でしょうか。

 

みんなで決めることの不都合な真実1:極端な案も通ってしまう

 みんなで話し合った結果、ハイリスクな案が通ってしまったという経験はありませんか。集団で意志決定をすると、個人で意志決定をするときよりもハイリスクハイリターンのものを選びやすくなってしまう現象があります。これは「リスキーシフト」と呼ばれています。

《例》

1人で決定:

「A案は魅力的だけれどリスクが多いからB案にしよう」

みんなで決定:

「多少リスクはあるけれど、みんなも賛成しているし、A案で行こう」

 1人では怖く感じた案も、リスキーな案に賛成する人の意見を聞けば、それほど怖いものではないと考えてしまいがちです。

 大多数がリスキーな案に同意しているように見えれば、「危ないのでは」と思っていても同調したくなります。「みんなで決めたのだから」という気持ちは、決定への責任を軽くしてくれます。

《例》

「ミャンマーへの進出は、魅力だけど、情勢が不安定だとリスクが高すぎるよな。…でも、AさんもBさんも賛成なのか。ここで反対するのもなんだし、自分は考え過ぎなのかも知れない。みんなで決めたんだし、失敗しても自分の責任になるわけでもないよな」

 逆に、みんなで話し合った結果、1人で考えたときよりも、安全で無難過ぎる案が通ってしまうこともあります。この現象は「コーシャス・シフト」と呼ばれています。

《例》

1人で決定:

「多少リスクをとってもC案で行くべきだよな」

みんなで決定:

「確かに少しリスクを甘く見ていたかもしれない。自分も安全なD案に賛成しよう」

 慎重に考えるべきだという意見を理路整然と言える人が複数いる場合、無難過ぎる案にも私たちは同調したくなってしまうのです。特に、リスクをとることを「考慮が足りない」と評価するような職場では、安全な選択に同調する人が増えやすい傾向があります。

 1人で食事をしているときと、人と食事をしているときでは食べ方が変わってしまうように、知らず知らずのうちに受ける他者からの影響があります。みんなで話し合うというのは最善のようですが、他者からの影響を受ける場でもあります。それがプラスに働くことがあるのは皆さんご存知のとおりですが、ネガティブに働くこともあることを知っておきましょう。

みんなで決めることの不都合な真実2:思うほど意見やアイデアは増えない

 自分では気がつかないアイデアを聞けたり、見落としを指摘してもらったり。多くの人がそんなポジティブな経験をしたことがあるのではないでしょうか。多くのアイデアが欲しい場合には「ブレスト(ブレインストーミングの略)が一番」と決めている人もいるかも知れません。

 「結論を急がない」「発言の質にこだわらない」「自由に発言する」「人の意見から連想する」といったルールのもとに発言をするブレストは、ビジネスでもよく使われる会議手法です。しかしブレストの効果については多くの研究がされており、生産性を高めるという面がある一方で、生産性を阻害する面があるということも明らかになっています。

  • 【ブレストが生産性を高めた例】
  • ブレストを行うことで、今まで気づかなかった複数のアイデアが出て業務が改善された
  • 【ブレストが生産性を阻害した例】
  • ブレストをしてみたが、思ったほど新しいアイデアは出なかった。時間ばかりがかかって、業務に遅れが出た

 過去にブレストをしたことがある人は、そのときの様子を想像してみてください。誰かの発言を聞くことで、自分が発言するタイミングを逃したり、そのためにアイデアを忘れてしまったりということはありませんか。

《例》

「Bさんのアイデアは、さっきのAさんの発言に似ているな。この発言が終わったら次は自分が手を挙げよう。あ、どんなアイデアだったっけ」

 「こんなアイデアを言ったらバカにされるのではないか」と評価を気にして、発言しなくなるケースもあるのではないでしょうか。

《例》

「さすがにこの製品の用途を××にするという案は突飛だよなぁ。ブレストとは言え、もっと現実的なことを考えなきゃ」

 いい意見が出て賛同する人がいた場合、自分も同調したくなりませんか。

《例》

「お、この意見はまともだな。Cさんは、さっき俺のアイデアにも頷いてくれていたし。みんなも賛成しているから、俺も褒めておこう」

 「自分が言わなくても、みんなが意見を出してくれるだろう」といった手抜きをしやすい気持ちになる人もいるかも知れません。

《例》

「ブレストなんて面倒だな。とりあえず、一つくらい発言して、後は適当にやろう。どうせ誰かが発言してくれるだろうし」

 人数が増えれば、意見やアイデアは増えます。しかし、話し合いという場では、他者からの影響がネガティブに働き、逆に意見を抑制してしまうこともあります。シンプルに意見やアイデアを増やしたい場合には、話し合いの場を設けるよりも、1人で考えてもらったことを持ち寄る形も検討したほうがよいでしょう。

《例》

「商品Aの販促案についての会議をします」

 ↓

「商品Aの販促案を考えてもらいたいと思います。○日までに、案を3つ考えてメールで提出よろしくお願いします」

みんなで決めることの不都合な真実3:時間がかかる

 みんなで決めれば、様々な立場の人にも納得してもらうことができます。リーダーにはわからなかったポイントが見えてくることもあります。しかし、出てきた意見がすべて正しいものではありませんし、すべての人の意見を反映することは難しいものです。意見を聞いているうちに収拾がつかなくなってしまうこともあります。そうでなくとも、みんなで話し合って決めるというのは時間がかかります。

《例》

社員A「マニュアルを作るといっても、まずはサービスの定義から始めないと意味がないのではないでしょうか」

社員B「それに、何をベースに、誰が作るかも問題です。そもそもマニュアルが正しくなければ、みんなが間違うことになります。誰が責任をとるんですか」

上司C「うーん。では検討しておくので、また次の会議で話し合おう」

 ビジネスシではスピードが重要ですので、現実問題として、すべてを話し合いで決めるというのは無理だと言えるでしょう。もちろん、重要な決定であれば、それだけの時間を割いて決める価値はありますが、重要でない事柄の場合、誰かが決めてしまって従ってもらう方がいいケースも少なくありません。

《例》

「給湯室の使い方のルールが変わりました。新しいルールをメールしましたので、確認よろしくお願いします」

 ここまで、みんなで話し合って決めることは最善とは限らないということを3つの視点からご紹介しました。そうはいっても、自分だけで決めるのがいいとも限らないのは皆さんご存知のとおりです。人の意見を聞くことのメリットと、どうすれば意見を言ってもらいやすくなるのかもご紹介しておきます。

意見を「聞くメリット」と意見を「言ってもらえる関係性」

 自分が手一杯になっているときは、見逃しが生じやすい状況です。こんなとき、他の人の意見に助けられるというのは、よくあることです。

《例》

「うわ、データが消えた! 今日までに先方に提出しなければならないのに。これからやり直して間に合うんだろうか…。これから会議の準備もあるのに」

「あ、WORD? だったら最近使った項目のところを見てみれば。たぶん途中までのデータが一時保存されてるよ」

 岡目八目(おかめはちもく)という言葉は、「囲碁を打っている人にはわからないが、見ている人には8手先まで見えている」というのが語源です。当事者よりも、第三者の方が正しい判断ができるというのは、ビジネスシーンでも多く見られることです。人と相談して決めるメリットとして、昔から多くの人が感じているのではないでしょうか。

 また、人の考えに刺激を受けて、新たなアイデアが浮かぶというのも大きなメリットと言えるでしょう。

《例》

「そうそう、確かにA社のコンセプトで『シンプル+α』というのがあったよね。B社でヒットした××も同じコンセプトだって聞いたことあるな。うちの製品も『シンプル+α』で訴求ポイントを考え直してみたらどうだろう」

 自分の考えに自信がないとき、人から同じような考えを聞いて、安心するというのもあります。

《例》

「定性評価はどうかと思っていたけれど、○○さんも同じ考えでよかった。自信を持って提案しよう」

 「他の人の意見を聞く」というのは、わざわざ人を集めて話し合う機会を作らなくても可能です。しかし、率直な意見を言ってもらえるような関係性でないと、周りはYESマンばかりになってしまい、大切な意見を取りこぼしてしまいがちです。自分では高圧的な態度をとっているつもりがなくとも、立場が上になっていくと相手が圧を感じやすくなることを認識し、意見を言いやすい雰囲気を作っておくとよいでしょう。

 具体的な対策としては、普段から自分から声をかけ、相手の話に耳を傾けるのがお勧めです。用事のないときでも、「挨拶プラスちょっとした雑談」、特に「質問が含まれる会話」をしておきましょう。

《例》

「今日は暖かいね。でも花粉が飛んでる感じがするなぁ。なにかいい花粉対策知ってる?」

 相手の話を聞くときはこの3つを守るようにしましょう。

  • 意見をすぐに否定しない
  • 耳の痛いことにも感謝を伝える
  • ネガティブなことを言われても引きずらない

 普段から意見を言いやすいようにしておけば、時間のないときに独断で決定をするような場面でも、違和感があれば教えてもらえる可能性が高くなります。

*1 Heath, C., & Gonzalez, R. (1995). Interaction with others increases decision confidence but not decision quality: Evidence against information collection views of interactive decision making. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 61(3), 305-326.

藤田尚弓(ふじた・なおみ) コミュニケーション研究家
株式会社アップウェブ代表取締役
企業のマニュアルやトレーニングプログラムの開発、テレビでの解説、コラム執筆など、コミュニケーション研究をベースにし幅広く活動。著書は「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)他多数。

最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら