キャリア

日本唯一のレゴ認定プロビルダーの実力 設計図なし、5万ピース黙々と

 【一聞百見】小さなブロックを組み合わせて遊ぶ、デンマーク生まれのプラスチック製玩具「レゴ」。子供のおもちゃと侮るなかれ。世界にはこの遊びを極めた「プロ」とレゴ社が認めた大人が21人いる。日本で唯一の「レゴ認定プロビルダー」、三井淳平さん。複雑に繊細にブロックを組み合わせていく指先は魔法のよう。大阪・梅田の阪急三番街で、彼の作品に目を奪われた。(聞き手・田中佐和)

 趣味を仕事に

 今にも船をのみ込まんと荒々しく立ち上がる大波。白く砕ける波しぶきは牙のような鋭さでこぎ手を威嚇する。レゴで360度立体的に再現されたのは、葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景」の代表作「神奈川沖浪裏」。昨年12月に阪急三番街の展示エリア「阪急ブリックミュージアム」にお目見えした圧巻の新作だ。

 「例年阪急沿線の名所などを再現しますが、今回初めて自由枠で挑戦しました。浮世絵のメリハリのきいたトーンがレゴと組み合わせたら面白いと思って」

 元エンジニア。組み立てるのがレゴであっても、細部の構造にはちょっとうるさい。

 「北斎が切り取った瞬間の波をなるべく自然体で表現するために、波の論文を読んだり映像を何時間も見たりして研究しました」

 緻密に作られているようだが、実は彼の作品には設計図がない。5万ピースのこの新作も、あるのは手書きのスケッチ1枚。「設計図を書くとそれに縛られてしまう」。だから分業には向かない。1人で1ピースずつはめていく。それが三井さんのやり方だ。

 子供のころから生活の中心はレゴだった。中学生で全長2メートルのロケットを制作。高校時代には等身大の「ドラえもん」、進学先の東京大では「東大レゴ部」を創設し、平成23年、大学院生時代にプロビルダーに認定された。趣味を仕事にすると決めたのは、鉄鋼メーカーに就職して3年がたったころ。会社公認の副業として企業から依頼されたレゴ制作を続けていたが、「レゴに全ての時間を使いたい」。迷いはなかった。

 27年にレゴ作品制作会社を設立。年間10~20作品を請け負う。自社製品やジオラマなど、起業以来、仕事の依頼は絶えないという。

 三井さんが思うレゴの魅力とは。

 「たとえば動植物や景色が持つ曲線はレゴにはありません。四角いブロックでそれを再現しようとすると、解像度がすごく下がった状態になるんです」

 だが、制約はスパイスだ。「その分再現するものの特徴を強調するので、見る人が面白いと感じるのだと思います。あとはやっぱり、昔遊んだおもちゃでこんなものができるんだという驚き。みなさんのリアクションが一番のモチベーションです」

 あふれる遊び心 

 レゴ認定プロビルダーになると、「レゴ(LEGO)」のブランドを背負って活動でき、欲しいブロックを直接レゴ社から買えるようになる。世界で活躍するプロビルダーには、レゴを現代アートに昇華させた人や、実物大の車など壮大な作品を作る人もいる。三井さんの作品の魅力はおそらく、何ともいえない愛らしさや親近感。理由は子供のころから変わらない「遊び心」にある。

 昨年まで大阪・梅田の阪急ブリックミュージアムに展示された、西宮神社(兵庫県西宮市)の恒例神事を再現した「西宮神社福男選び」という作品。開門と同時に団子状態でランナーが飛び出し、福男がゴールするまでが「ミニフィグ」と呼ばれるレゴの人形で表現されている。レゴで組み立てられた本殿や参道は極めて緻密だが、何よりも目を引くのは勢いあまって転倒したり木に激突したりしているあわてんぼうな人形たち。見ていて思わず笑みがこぼれる。

 「レゴで遊ぶときに人形は欠かせません。いつも最後に並べるんですが、一番楽しい瞬間です。画竜点睛(がりょうてんせい)ではないけれど、作品に生き生きしたものが宿る。人形を並べたいがために、何年もかけて船を作ったこともありますよ」

 昨年12月から展示されている熱気あふれる「阪神競馬場」も、観衆役の人形の多さが目を引く。「ざっくり千人以上はいます」。数百人とは思ったが千人も?

 「建物内の人形は1、2列目までしか見えませんが、実は各階5、6列ある。光を当てると奥の方までびっしり入っているのが分かりますよ」とにやり。子供のころ、ジオラマ作品をのぞき込んで、思ったより奥が再現されていないとがっかりした。「『どこまで見ても何かあるぞ』みたいな、無限の可能性を感じてもらいたいんです」

 数年前から制作の全工程を動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開している。着想の背景にあるのは、幼少期の経験だ。

 兵庫県明石市の自宅マンションのベランダから、明石海峡大橋の建設を眺めて育った。「主塔が建ってロープが張られて、少しずつ形ができていくのが本当に面白かった。ものづくりは作る過程がコンテンツ。メーキング映像ありきです」

 こだわりは強いが、意外にも完成した作品への執着はない。手元に残しているのは、複雑な組み方が気に入っている10年前の作「ホワイトタイガー」くらいだ。「写真を撮ったら満足しちゃう。作ったものはばらして、組み方を変えてどんどん新しい作品に作り替える。それがレゴの理想の姿のように思うんです」

 「おもちゃ」という枠組みに収まらない芸術品を作りながらも、その本質は忘れない。アンバランスにも思える卓越した技術と童心が、レゴ作品に命を吹き込んでいる。

 「昨年作った『神奈川沖浪裏』のように、波とか炎とか、規則性があるようでない有機的なものにも今後トライしたい。どの一瞬を立体的に切り出すか、試されるところですね」

 次はどんな作品で驚かせてくれるのか。世界中のファンが完成を待っている。

 【プロフィル】三井淳平(みつい・じゅんぺい) 昭和62年、兵庫県明石市生まれ。東京大学理科一類に現役合格し、同大学院在学中の平成23年にレゴプロビルダーに認定。鉄鋼大手の新日本製鉄(現日本製鉄)を経て、27年に東京都内にレゴ作品制作会社「三井ブリックスタジオ」を設立。関西では阪急ブリックミュージアムで29年から作品を常設展示しているほか、子供向けワークショップも不定期開催している。