伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。
第28回は「ダイバーシティ(多様性)」がテーマです。女性蔑視やLGBTへの配慮のない失言などが批判される時代になってきました。森喜朗氏が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言したことについて国内外から批判が相次ぎ辞任問題に発展しましたが、世界的にダイバーシティの重要性が改めて見直され、今後も発言に注意することはますます求められるようになるでしょう。職場ではどのような発言がNGなのか。具体例を確認しておきましょう。
「性別」「年齢」「人種」「障害の有無」だけではない
昔はOKだった失礼な発言も、最近では「失言」や「ハラスメント」だと認識されるようになりました。配慮のない発言をする人は、批判をされますし、管理職として適切でないと評価されることもあります。
「女性と話すときには気をつけている」など、配慮のない発言はしないように注意しているつもりの人は多いと思います。でも、それで本当に十分でしょうか。
ダイバーシティというと性別、年齢、人種、障害の有無などだけを指すものだと思う人は多いと思います。ダイバーシティは、個人の持つあらゆる属性を指していますので、住んでいる場所、家族構成、教育、性的指向、外見、趣味、出身地、体格、勤務形態なども含まれます。そう考えると、配慮は特定の人だけではなく、組織の全員に必要だということがおわかりいただけると思います。具体的にどんな発言がNGなのか、具体例を見ながら確認しておきましょう。
これ全部アウトです! 配慮のない発言
性別:
「女なんだから、○○くらいはやらないと」「男のくせに、こんなこともできないのか」「愛嬌のない女は最低だぞ」
年齢:
「若造のくせに」「最近の若者は根性が足りない」「老害は早くやめてくれないかな」
家族構成:
「結婚して一人前」「早く結婚しないと子供が産めなくなるよ」「離婚なんて子供がかわいそう」
教育:
「Fランク大学だよね」「院卒は逆に使えない」「彼は頭使うのは苦手だから」
性的指向:
「ゲイということは、俺も狙われちゃうの?」「認める派だけど正直気持ち悪い」「美人なのにもったいない」
外見:
「美人は得だよな」「またハゲてきたんじゃないか」「もうちょっと小綺麗にできないの」
趣味:
「オタクだよね」「そんなことにお金をかけるなんでバカじゃない」「他にやることないの」
体格:
「なんで努力しないの」「自己管理ができていない」「見ている周りの人も不快にさせる」
勤務形態:
「パートの人は黙ってて」「社員のまま育休とる気?」「非常勤は気楽でいいよな」
「言葉狩りだ」 失言を指摘されると反論したくなる理由
失言に対しては「我慢する」「受け流す」という人が多いと思いますが、失言であるということを認識してもらわないと、同じような発言を繰り返しやすくなります。
特に悪気なく、コミュニケーションの一環と捉えている人や、相手を思っての注意と考えている人の場合、悪気なく人を傷つけることを繰り返しやすいのが特徴です。これまで大人の対応でやり過ごしてきた人も、発言のどこが問題だったのかを伝え、気づいてもらった方がよさそうです。
このとき気をつけて欲しいのが相手を責めるようなニュアンスを極力排除して伝えるということです。批判するような口調に聞こえてしまうと、防衛の気持ちにスイッチが入ります。そのため、自分の失言を省みる前に「ヒステリックだ」「言葉狩りだ」など反論したくなってしまうからです。
「今のは差別ではない」 失言の正当化を防ぐ2つのポイント
失言に気づいてもらい、正当化しにくくするためには、相手が「責められている」と感じないように伝えることが大切です。伝えるときには、以下の2点に気をつけましょう。
①一般論として話を切り出す
失言した本人を批判するのではなく「失言に対して厳しい時代になった」など、一般論として話を切り出すとよいでしょう。このとき「職場全体で気をつけましょう」など、自分も気をつけるというニュアンスを加えるとよいでしょう。
《例》
「パワハラ防止法も施行されましたし、言い方に気をつけないといけない時代ですよね。奮起させたいときでも、『バカ』という表現はやめたほうがいいかも知れません。私も誤解されないように気をつけないといけません。職場全体で、意識していきましょうか」
②声のボリュームを抑えてゆっくり話す
大きな声だと責められていると感じやすいものです。声を荒げずに、意識して話すようにしましょう。ゆっくり話すようにすると、穏やかに聞こえるので、声のボリュームとあわせてやってみてください。
あなたは大丈夫? NGな発言をしやすい3つのタイプ
「これぐらいは大丈夫だろう」と思うかも知れませんが、多様性を尊重し、様々な人に配慮した発言が求められる時代になっています。自覚がないまま大失敗をしてしまう前に、うっかり失礼なことを言ってしまいやすい3つのタイプにあてはまっていないかチェックしてみましょう。
1.昭和を引きずったまま 常識がアップデートされていない
「男は多少口が悪くてもあたりまえ」「昔は誰もこうやって育てられてきた」「鍛えるのも仕事のうち」など、古い考えを引きずっているせいで失言をしている人もいます。
昭和の感覚なのかもしれませんが、平成も終わり、時代は令和になりました。他者への配慮があたりまえに求められる時代であることに、そろそろ慣れましょう。基準としては、自分が言われて嫌なこと、家族に言われて嫌なことなど、「口に出さない」というところから始めるのがよいと思います。
想像力を働かせて、人を傷つけるような言い回しを控えるのが、大失敗を防ぐための急務です。「この発言はどうかな」と思ったものは言わない。これを習慣にしていきましょう。
2.サービス精神で失言する 人を“下げる”のはユーモアか?
悪気はなく、場を盛り上げようとして失言してしまうタイプです。このタイプの人は、その場にいない誰かを下げることで、場にいる人を持ち上げようとします。サービスのつもりかもしれませんが、誰かを傷つける可能性のある言動には十分気をつける必要があります。
最近では、この手の発言に不快感を持つ人も増えてきましたので、もはやリップサービスとは思うのは危険です。場にいる人を気持ち良くしたいのであれば、誰かを下げるような発言ではなく、目の前の人たちを褒めるようにしましょう。
笑いを期待して失言をする人もいますが、人を悪く言うのは、もはやユーモアとは認められない時代になりました。言いたくなった場合には、自虐ネタを使うようにしてはいかがでしょうか。
3.自分は許されると思ってしまう権力者タイプ 周囲は違和感
「自分の立場なら、このくらいは大丈夫」といった奢りが通用しない時代になりました。忖度してくれる人はまだいるかもしれませんが、おかしいと気づき、評価を下げる人は今後増えていくでしょう。「立場が上だから大丈夫」という価値観は、もはや昔のものと思ったほうが良さそうです。むしろこれからは立場が上の人ほど、配慮ある正しい発言が求められるでしょう。
利益に寄与? 企業は多様性を尊重したほうがオトク
- 「部下は黙ってついてきたほうが統率がとりやすい」
- 「出産したら女性には辞めてもらったほうが会社のためにも、子供のためにもいい」
そうした考えをお持ちの人もいると思います。たしかに、多様性の尊重によって「やりにくさ」を感じる場面もあると思いますし、対立が増えるといったネガティブな結果を示唆する先行研究(*1)もあります。
▼創造性やイノベーションを促進
しかし、多様性を尊重して共に働いていくというのは、もはや避けられない大きな流れになっています。ダイバーシティと経営成果との直接的な因果関係は明らかになっていないものの、ダイバーシティが創造性、イノベーション、チームパフォーマンスに影響する可能性を示す研究もあります(*2)。
経済産業省の調査によると、男女性管理職の登用数が多い企業は、そうでない企業に比べ利益率が高いそうです(*3)。 これに関しては「利益率の高い企業だから女性を登用できるのでは」という意見もあると思いますが、職場の多様性を認識するというだけでも、実は大きな効果があると筆者は考えています。
メンバーの多様性を知覚しているグループは、知覚していないグループよりも課題解決にむけて協力すれば創造的な成果を得られるという研究もあります(*4)。
新型コロナウイルスの影響で、社会や働き方が大きく転換しました。今後も何かのきっかけで、ビジネス環境は大きな変化を強いられるかも知れません。様々な問題に直面した時に生き残れる組織になるためにも、ダイバーシティは大事なことだと思いませんか?
仮にそうでなくとも、属性によって人を差別したり、配慮のない言動をしたりといった職場は、今後評価を下げ淘汰されていくことでしょう。様々なタイプの人が、それぞれの強みを活かしていくことは、むしろ厳しいビジネス環境だからこそ必要なことではないでしょうか。
*1 Choi, J. N., & Sy, T. (2010). Group‐level organizational citizenship behavior: Effects of demographic faultliness and conflict in small work groups. Journal of Organizational behavior, 31(7), 1032-1054.
*2 Jackson, S. E., & Joshi, A. (2011). Work team diversity.
*3 経済産業省男女共同参画に関する調査 2005年
*4 Harvey, S. (2013). A different perspective: The multiple effects of deep level diversity on group creativity. Journal of Experimental Social Psychology, 49(5), 822-832.
【最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら