ミラノの創作系男子たち

活発に動き回っていたフルビオ パンデミック下でのライフスタイルは

安西洋之

 昨年のパンデミック以来、あの人のライフスタイルはどう変わったのだろう、と想うことがある。殊に、外で活発に動き回っていた人に対してそう想う。

 フルビオ・ズビアーニもその一人だ。休みともなれば世界各地の貧困の国を訪ね写真を撮ってきた。それらを展覧会に出展。あるいはカレンダーをつくる。そうして販売収益を貧しい人たちを助けるNGOなどに寄付してきた。

 2010年の大地震で30万人以上の命が失われたハイチにも飛んだ。無政府状態で大混乱のソマリアにも出かけた。それが、今はできない。

 「パンデミックだけでなく個人的趣向の変化もあって、最近はミラノ市内のストリート写真を撮ることが多い。でも人は撮らない。工場跡の壁の落書や建築とかね」

 そこで思い出した。

 彼には一つのポリシーがある。彼は撮影対象の人と充分に時間をかけてコミュニケーションをとる。ソーシャルディスタンスが必要な現在、街中で見知らぬ人とコミュニケーションをとるのが難しい。そうすると、必然的に対象は人ではなくモノに向かうのだ。 

 ジェノバの大学で電子工学を勉強したフルビオは、若いころから世界各地を1人で旅した。文字通りカメラを携えて「歩く」。

 卒業後はテレマーケティングの会社に就職した。ワインが好きだった彼は30代後半、ソムリエのコースに通う。その結果、ワインは趣味ではなく本業となった。ワインやクラフトビールのプロモーションなどを企画・実施する会社を経営することにしたのだ。

 いわば「人生の散策」のなかで見いだした仕事だ。

 パンデミックによりレストランでのテイスティングイベントが不可能になった。実際、ワイン市場はどうなっているのだろう。

 「飲食店の売り上げは激減したが、ワイナリーのオンラインサイトからの最終消費者の箱買いは増えているよ。またスーパーマーケットでの質の高いワインも順調だ」とフルビオは話す。

 ここ数年のトレンドはオーガニックワインだ。かつてオーガニックワインは「頭で飲む」ものだった。お世辞にもあまり美味いものではなかった。

 「1980年代以降、葡萄農園の農法が有機かどうかを問われたが、ここ最近は醸造プロセスも対象に加わり、同時に味も各段に良くなった」

 さて、このオーガニックの流れがあるなか、突如話が変わるようで恐縮だが、同じようなタイミングでフルビオが熱をいれはじめたのがヨガだった。

 それまで毎朝6時に起きて10キロを走った。フルマラソンもやった。どちらかといえばハードな運動を好んでいたのだ。だが、走り込みも過ぎると身体を痛める。それでヨガをするようになった。結果、身体を囲む環境をさらに意識する自分を50代後半にして発見した。

 今ではヨガ教室の経営にもパートナーとして携わるようになった。指導者としての資格をとるコースも受講している(ただ、今のところはヨガへの理解を深めるためだ)。

 ワインと同じパターンだ。趣味ではじめ入れ込んでいくと仕事になっていく。もう一つの共通点がある。「人に何かを伝えたり、教えたりするのが好きだ」を起点としていることだろう。

 もちろんワインの方がビジネスの色彩が強く、ヨガは心地よい生活を目指すものだ。

 根底にある志向が、その時々で分野が移動する。生涯学習の見本のような人生ではないか。

 身体を動かすにもややソフト志向に転じたフルビオだが、自らの中にあるもともとの欲求が弱まったわけではない。空間を大きく移動したい。かなり激しい運動をしたい。こういう欲求だ。

 彼が過ごした昨夏の休暇は、その最たるものだ。

 山のなかをマウンテンバイクで走り回る。週末、ロードバイクでミラノ近郊を走る。これまでも、このような習慣はあったが、20日間、毎日平均およそ100キロを走ったのである。午前中に走った気分で、その晩に宿泊するホテルを昼食時に決める。

 ミラノを出発して南東に向かった。一日目はピアチェンツァ近郊に泊まり、そこから海抜1500メートルの山越えをしてリグーリア州へ。エミリア・ロマーニャ州、トスカーナ州、ウンブリア州、そしてアドリア海側のマルケ州にたどり着いた。

 地図を眺めれば分かるが、アペニン山脈を横断している。ミラノには電車で自転車とともに戻った。

 「軽いロードバイクで荷物もあまり持たずに走ったので、距離は長いがとても気楽な旅だった。それもあって、イタリアの美しい風景を存分に堪能できた。泊まる場所も田舎の小さな村で、見知らぬ人との会話にも花がさいた」

 ある小さな村のバールの入り口に「COVID-19のため、ツーリストメニューは10ユーロに値上げせざるをえなくなりました」と書いてあった。フルビオがこれをオーダーすると、ラザーニャ、肉、チーズ、デザート、コーヒーと一揃い。ワインも飲み放題だ。10ユーロ(およそ1300円)といえば、ミラノのランチなら一皿食べられるかどうかの価格だ。

 その価格を申し訳ないと釈明しないといけないと感じる人がいる。この現実に目を開かれる思いがしたに違いない。日々、ペダルを踏んで自身と語り合ってきたフルビオにとって、「現実感の多様性」がより敏感に感じられただろう。

 この感覚をぼくは失っているのではないか? とふと我が身を顧みた。

安西洋之(あんざい・ひろゆき) モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?:世界を魅了する<意味>の戦略的デザイン』『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
Twitter:@anzaih
note:https://note.mu/anzaih
Instagram:@anzaih
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ミラノの創作系男子たち】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが、ミラノを拠点に活躍する世界各国のクリエイターの働き方や人生観を紹介する連載コラムです。更新は原則第2水曜日。アーカイブはこちらから。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ローカリゼーションマップ】も連載中です。