働き方ラボ

就活で「ガクチカ」は必要か? 1度や2度の“武勇伝”よりアピールすべきこと

常見陽平

 就活関連で、ここ数ヶ月話題となっているのが「コロナの影響でガクチカをどうするか」という問題である。何のことを言っているのかわからない人もいることだろう。ガクチカとは「学生時代に力を入れたこと」の略だ。エントリーシート、面接などでよく聞かれる。新型コロナウイルスの影響で2019年までのような、これまでの学生生活が送れない中、アピールできるガクチカがないのではないかという問題だ。

 コロナ禍で“経験値”積みにくい学生

 「ガクチカ」といえば、「学園祭に店を出し焼き鳥を1000本売った」「インカレサークルを立ち上げた」「著名な起業家、ジャーナリストを招いて講演会を開いた」などという「武勇伝」を想像する人もいるだろう。このような体験がなく、何をアピールしていいのかわからないという学生はコロナ前からいた。中には、ガクチカをつくるために夏休み、冬休みに奮闘したり、証拠の写真や動画を残すなど、涙ぐましい努力を続けてきた学生もいる。ただ、学生生活が大きくコロナの影響を受ける中、そもそもアピールできるような体験をすること自体が難しくなっているという声がある。

 新型コロナウイルスショックで、学生生活は大きく変化している。講義も必ずしも対面講義ではなく、オンライン化した。サークル活動も十分に行うことができない。学園祭も中止か、オンライン開催だ。海外旅行も留学も行けない。友達も増えない。ましてや、恋人との出会いもない。アルバイトもシフトを減らされる―。思い描いていた大学生活とは大きく異なる日々が続いている。大学教員として、激しく同情する。

 これは世界的な問題でもある。ILOのレポートでは「ロックダウン世代」という言葉も生まれている。新型コロナウイルスの影響で、教育や就職の機会、収入を失うなどの不利益を受ける可能性のある若い世代のことを指す。

 もちろん、このような環境下で少しでも楽しい日々を送れるよう学生たちも大学教職員も試行錯誤を続けている。オンライン化した学生生活も必ずしも悪くないという声もある。特に講義においてはだ。ただ、このような日々を送っているがゆえに、就活でアピールするポイントがなく「ガクチカ」で何をアピールするか悩んでしまうのだ。

 学生に同情しつつも、この問題は「ガクチカ」というものが大きく誤解されていることに起因していないか。学生も、企業も「ガクチカ」を誤解し、結果として振り回されていないか。

 そもそも「ガクチカ」が大事な理由

 面接ではなぜ、「ガクチカ」を聞くのか? それは、その学生を読み解くためだ。行動特性、思考回路、価値観を読み解くためにする質問の一つである。別に楽しい思い出話、武勇伝を聞く場では必ずしもない。

 ただ、立ち止まって考えたい。このような「ガクチカ」「武勇伝」を語る人は、これをすべてやりきったのだろうか。同じように成功し続けることができるだろうか。実は周りの誰かが貢献していたり、運がいいだけだったり、再現性が低いという場合もある。中には、頑張ったのは仲間なのに、いかにも自分が取り組んだかのように語る人がいる。いわゆる「アレおれ詐欺」である。

 もちろん、これらの体験を否定するわけではない。どのように成果を出したのか、困難な状況をどう乗り越えたのか、どのように仲間を巻き込んだのかなど、問われるのは本人の取り組み方そのものである。何か成功体験がある人は、目標達成意欲や、視点が違うのではないかという見方もあるだろう。

 ただ、そのガクチカのインパクトだけに注目してしまっていては、面接官もミスジャッジをしてしまう。4年間で1度や2度の再現性の低い体験よりも、日常的に何にこだわっているのか、物事にどう取り組んでいるのかなどに注目するべきだ。

 このガクチカ話が面倒くさいのは、中にはこれを過度に評価してしまう面接官がいるということだ。面接官は別に人事部の社員だけで構成されるわけではない。現場の管理職や、経営陣も参加する。さらに人事部の中でも採用担当者は、専門知識や経験がなくても担当しやすい上、よく入れ替わる。だからノウハウが伝承されていないことがあるのだ。ゆえに、「ガクチカ過大評価」で有名企業の内定をとってしまう学生が出てしまう。それが就活武勇伝として伝えられ、学生を誤解させてしまうのだ。

 「ガクチカがない」という学生に対し、私は「冷静に大学生活を振り返ってみよう。できれば自分ひとりではなく、誰かを巻き込んで」とアドバイスしている。大学での勉強から、趣味やアルバイトまで、「何」をやったのかだけでなく「どう」やったのか、「誰」とやったのかを振り返ってみると、「地味だけど、成果を出すために自身がこだわっていること」がわかる。

 実は、この10年くらい注目されているのが学業に関する質問だ。成績の証明書を提出してもらい、それをもとに面接するという手法である。なぜその科目を履修したのか、なぜその成績なのか、成果を出すためにどのように取り組んだのか、などである。これにより、本人の価値観や取り組み姿勢などが明らかになる。残念ながら、心から大学の講義を尊重しているわけではないのだが。

 自身が、コロナにどう立ち向かったのかというのもアピールポイントにはなり得る。大変な環境下でどのように学生生活を充実させようとしたのか。何もしなかったわけではないことを確認しておきたい。

 転職活動でもみられる“勘違い”

 このガクチカ神話と同じようなものが、中途採用でも起こっていないか。何かすごい武勇伝がないと転職できないのではないか、と。特にここ数年の若手社員などは、入社すると当初想定していた職場とは異なる一方、何も経験を積んでいないので、転職でウリになる要素がないと悩んでしまう。これも大きな勘違いだ。

 圧倒的な成果が出たような武勇伝は必ずしも必要ない。これまで、何にどのように取り組んだのかを丁寧に書き出して振り返りたい。中途採用の場合、何をしてきた人なのか、何ができる人なのかは伝えるべきポイントだ。

 なお、中途の応募手段も多様だが、人材紹介会社を経由した場合、履歴書や職務経歴書の添削、面接対策も応じてくれるので便利だ。自分では思いつかないアピールポイントが見つかることもある。

 「すごい武勇伝礼賛」を手放そう。地味だけれども、誇れること。これを振り返ってみよう。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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