今回は、先回の宮崎県の取り組みに引き続き、マイナビ農業が取り組む「農業振興」の最前線をお伝えしていきたいと思います。
今回の主役は、都心からJR高崎線に乗車すれば1時間30分程で行ける場所にある埼玉県深谷市。深谷と聞くとみなさん「深谷ねぎ」が頭に浮かぶと思いますが、この深谷ねぎをはじめ、とても農業が強い都市です。農林水産省による「平成28年度 食料・農業・農村白書」によると、平成27年市町村別農業産出額(推計)は349億3,000万円で、この産出額は、埼玉県内第1位、全国でも第20位の生産規模を誇っています。都心にも近い位置から、深谷市はまさに首都圏の消費を支える重要な農業生産都市です。
そんな深谷市と私たちマイナビ農業は、農業を核にした地域活性プロジェクトを一緒に行っています。そのきっかけは、マイナビ農業が2018年に開催したシンポジウム「ネクストアグリプロジェクト」です。「農業の未来を考える」というテーマを掲げたこのイベントにご来場した深谷市産業ブランド推進室のご担当者にお声がけいただき、スタートしたのでした。
「深谷市は農業を通して地域課題を解決していくような取り組みをしたいと考えています。ぜひ一度打ち合わせしましょう!まずは深谷へぜひお越しください!」。情熱的なご担当者から、こうした胸が高鳴るお言葉をいただき、初めて深谷市へ訪問したところから大きなプロジェクトが始まりました。
■強いからこそ、強みを生かして変えていくこと
我々が自治体と打合せをする際は、まず地域の実状を知るために視察をするところから始まります。深谷市では、市が生んだ「日本資本主義の父」と言われる渋沢栄一氏の生家を訪問し、偉人の残した教えを守っていきたいという地元の人々の意志を感じました。また、農地を視察し、市が今後取り組みたいことについて協議のお時間をいただきました。
「とても農業が強い都市なんだな」。その規模感やこれまでの市の状況を聞き、農業がとても強い都市であることを感じました。前述した通り、深谷市の生産規模は都心の消費を支えていると言っても過言ではないこと、そして、都心からの交通のアクセスの良さから、かつてより農産品を食品として加工する製造業も高い水準の規模感で有していました。これだけ農業が強い状況であれば、「農業」というテーマでの地域振興や農業振興は後回しにしてしまう自治体さんも多いと思います。
でも深谷市はそうではなく、深谷市の産業ブランド推進として強いからこそ、地域の農業が変化に乏しいことを課題に感じ、変革を目指している。その情熱を強く感じたことが印象に残っています。民間企業でさえも会社の柱として今成功している事業に変革を与えることは、躊躇する、あるいは検討さえしないという事も多くある中、地方自治体として既に強い産業の変革を根本的におこなっていこうとする姿に出会ったのは深谷市のそれが初めてでした。民間企業で事業を運営する立場としても、このスタンスや取り組みからは今でも大変勉強させてもらっています。
この変革への強い意志は、かつてこの国を強くするために多くの企業の創業に係った地元の偉人・渋沢栄一氏のフィロソフィーを脈々と受け継いでいることを感じました。強いからこそ、強みを生かして変えていくこと。このキーワードが深谷市の取り組みにユニークさ、斬新さを与えていきます。この進化を恐れない姿勢は農業振興や地域振興をしていくにあたって起点となる大切な考え方であり、振興を支えることをビジネスとしている私たちとしても基点しなくてはいけない考え方だと学ばせていただいたことを、今振り返ると強く感じています。
しかしそうは言えど、「新しい事(モノ)を受け入れない」、「コミュニティが広がらない」といった空気は少なからず存在していました。今が良ければ良い。将来的に変わらず享受できる。そうした思考が地域の中に潜在的に潜んでいる。これを変革出来ればこれは深谷市だけではなく、農業界自体も変える大きな力になる。地域の農業界も変革し、かつ日本の農業課題にも大きく変化を与える--そうした取り組みの基盤が生まれていくのでした。
■深谷市の取り組むべき方向性 それは新しい知を深谷へ集積すること
ご担当者とのやり取りの中で、次第に深谷市の新しい産業ブランディング推進をサポートする方向性が定まってきました。
それは公式のコメントとして次の通り発表されました。「深谷市は、農業振興地域がまち全体に広がり、開発を伴う製造業などの誘致が非常に困難な状況にある一方で、農業と食品製造業については、地域の取引の核となる産業となっていってほしいという事。そして、深谷市の今の産業の強みを生かして、アグリテック(農業×製造業・IT)関連企業の集積を図り、本市における農業課題の解決、農業生産性の向上、そして何よりその取り組みが未来に広がり、「儲かる」農業の実現を図るという事を目的に「アグリテック集積戦略」を策定します。」そうしたメッセージを皮切りにいよいよ具体的な取り組みが始まりました。
令和元年6月27日(木)、深谷市長がアグリテック集積に向け、『アグリテック集積宣言』を出しました。同時に、世界のテクノロジーを支える巨大企業たちを生んできた地であり、多くの新興ベンチャー企業たちが密集する地域であるアメリカ・シリコンバレーをオマージュする形で、アグリテック集積都市DEEP VALLEY(ディープバレー)を形成することを目指すプロジェクトがが始まるのでした!(ちなみに、深谷を英訳するとDeep Valleyです)。
初めに取り組んだ「DEEP VALLEY Agritech Award」は、儲かる農業都市の実現のため、深谷市の農家が抱える農業課題を解決する自社の独自の技術(アグリテック)、アイデア、ビジネスモデルをビジネスコンテスト形式で提案してもらうもの。意欲溢れる企業を表彰する形式で令和元年よりスタートしました。※宣伝となりますが、現在第3回目(3年目)となる。コンテストの募集も開始しています。
■DEEP VALLEY Agritech Award(ディープバレーアグリテックアワード)
これまでの2年間、このアグリテックアワードを通して受賞をされた企業による取り組みが深谷市で始まっていますし、このプロジェクトが動いたことにより、地域の意識の変化が生まれてきています。
次回では、実際の取り組みと状況についてお話させていただきます。
【「ビジネス視点」で読み解く農業】「農業」マーケットを如何に採算のとれるビジネスとして捉えていくか-総合農業情報サイト『マイナビ農業』の池本博則氏が様々な取り組みを事例をもとにお伝えしていきます。更新は原則、隔週木曜日です。アーカイブはこちら