CAのここだけの話

お客様ゼロのカーゴフライト乗務がCAに人気なワケ コロナ下でもクルー魂は健在

松岡至宝

 SankeiBiz読者のみなさんにだけ客室乗務員(CA)がこっそり教える「ここだけ」の話。第106回は中東系航空会社で乗務8年目の松岡至宝がお送りいたします。

中東系航空会社で日本人CAとして働く松岡至宝さん。写真はカナダとアメリカの国境に位置するナイアガラの滝を訪れたときのもの。提供:本人
アブダビでモスクを訪れる際はアバヤを着用しました。提供:執筆者
世界一のビール祭とも称される、ドイツ・ミュンヘンの「オクトーバーフェスト」に参加しました。提供:執筆者
友人とシンガポール旅行へ。シンガポールの代名詞ともいえるホテル「マリーナベイ・サンズ」のインフィニティプール。そのプールサイドにある贅沢な席で、夜景とお酒を満喫しました。提供:執筆者
シンガポールといえば、「ホーカーズ」と呼ばれる屋台村。サテーやラクサなどシンガポールの定番料理とタイガービールで乾杯!提供:執筆者
ペルー旅行では、標高約3400mのところに建設されたかつてのインカ帝国の都クスコも訪れました。提供:執筆者

 みなさま、コロナ禍をいかがお過ごしでしょうか? 2019年末から感染が広がり始め、2020年の3月末から各国にロックダウンが敷かれた結果、大きなダメージを受けているエアライン業界ですが、現役で働いている客室乗務員は意外にも前向きにコロナ前のように飛び始めています。新しい形態となった働き方と休日の過ごし方を、現在中東在住の私がお話しさせて頂きます。

大打撃を受けたエアライン業界

 2020年、多くのエアラインが苦境に晒されました。コロナで一番の打撃を受けた業界のような気もします。

 2020年2月までは満席のフライトが数多くありましたが、毎日乗務している肌感覚でも、2021年5月現在、運行しているフライトの機内は常に空席が目立ちます。毎週のように、様々な就航先のフライトがキャンセルになったり、または再開になったりという社内メールが届きます。

 行き先によって異なりますが、お客様にとっても、フライト前にPCR検査、到着後もPCR検査…と、ストレスと時間の掛かる移動になりますので、ご旅行を控えていらっしゃる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 客室乗務員としても、毎週異なる国にフライトしていた環境がガラッと変わり、現在はほぼ地上で待機していることのほうが多い生活になってしまいました。

 世界を飛びまわっているときは、時差ボケがひどく、目覚めてから何度考えてもどこに居るのかすぐに判断できないなんてこともあります。目覚めて「ここはどこ?」と混乱していたら、自宅のある中東から飛行機で15時間のブラジル・サンパウロに滞在していたという経験は今では懐かしい思い出です。

コロナに負けず“クルー魂”発揮

 現在、客室乗務員はフライトで外国に行ってもその就航先のホテルから原則外出禁止とされています。今までのように現地で観光をしたり、食材や雑貨を調達するということが出来なくなりましたが、そこはクルーの習性でしょうか。唯一の楽しみである“現地のものを楽しむ”というチャンスは逃しません。

 コロナ禍で発達したデリバリーサービスを私たち客室乗務員も高頻度で利用しています。フライト前はいつも、ホテルまでの配達が可能なサイトやサービスを同僚同士で共有しています。

 ヨーロッパでは美味しくて安い果物などを仕入れてくる客室乗務員も多くいますし、私自身、先月は友人からオランダ産の蜂蜜をお土産に頂きました。

 こういう状況下でも少しでも現地のものを調達して楽しむ。“クルー魂”だなと思ってしまいます。

 私も日本に帰った時は日本の食材はもちろん、中東では手に入れることのできない日本の本をアマゾンで注文して取り寄せたりしています。電子書籍のオンライン購入が可能な便利な世の中になりましたが、紙の書籍が好きな私には有難いサービスです。

 ワクチン接種の数も世界的に増えてきて、ヨーロッパのアイルランドやデンマークなどの数カ国のように滞在中外出許可が認められている国も少しずつではありますが出てきているようなので、このまま状況が落ち着いてくれるのを期待するのみです。

CAのあいだでカーゴフライトが人気なワケ

 そんな中、私の会社で以前より多くなった業務がカーゴフライト(貨物輸送機での乗務)です。乗務員構成は、客室乗務員3人とパイロット3~4人です。通常の旅客フライトでは、B777の場合は客室乗務員11人~、A380の場合は約23人がオペレートしているので、カーゴフライトはだいぶ少ない人員で運営されています。

 旅客フライトの大幅な減便もあり、会社は現在、運輸のほうに力を入れているようです。通常の旅客飛行機の下部にあるカーゴで輸送するタイプと今まで旅客機として使用していた飛行機の座席を取り外し、機内にも大量に段ボールなどの荷物を搭載して運輸する2タイプのカーゴフライトがあります。

 このカーゴフライトは通常の旅客就航地ではない空港が目的地だったりします。通常では訪れることのない空港に行けるわけですが、アサインされる人員が少ないこともあり、今では客室乗務員の間でちょっとした人気のフライトになっています。

中東ではクルマも多国籍 乗り比べし放題!?

 地上に待機している時間・休日が多くなった分、新しいことを始める同僚も多いです。新しいビジネスを始めてみたり、近場のリゾートホテルに泊まり休暇を過ごすステイケーションを満喫したり、資格勉強や肉体改造に取り組む客室乗務員も多くいます。

 以前は旅行先の国で、国際免許証でレンタカーを借りるくらいドライブが好きな私ですが、中東在住8年目にして今年初めて在住国現地の免許を取得することにしました。コロナ禍以前は休暇が3日もあればヨーロッパへ旅行に行っていたような生活だったので必要性を感じなかったのですが、気軽に旅行に行けない中、新しいチャレンジとして始めました。

 日本の運転免許証を持っていたら簡単に「conversion=書き換え」が出来るので、思いのほか早く、たったの1日で運転免許証を手に入れることができました。

私の住んでいる都市ではカーシェアリングがここ数年で発達しており、練習がてらに利用しています。これが意外と楽しくて、都市の色んな場所に何十台も車が散りばめられており、乗り捨ても可能です。

 そして中東ならではかもしれませんが、日本車はもちろんヨーロッパの車、アメリカの車も登録されています。アプリで自分の近くにある車をすぐに予約できる仕組みですが、自分で車種も調べることが出来るので、気分によって車種を選べるのです。日本ではなかなか運転する機会のない外車に気軽に乗れるので楽しいですね。

 ガソリン代も駐車料金も掛からないので、むしろ車を買わなくても良いのではと最近は思ってきました。

CAたちは意外にもポジティブ

 大打撃を受けているエアライン業界ですが、渦中の私たちは意外にもポジティブにコロナ禍で新しい趣味を見つけたりしながら楽しんでいます。みなさんも楽しいことを見つけて、コロナ禍を少しでも明るく過ごしましょう。

 早くコロナが落ち着き、みんなが自由に移動できる環境に戻ればと切に願っています。その時はまた機内でお会い出来ることを楽しみにしております。

高知県出身。同志社大学経済学部卒業後、証券会社で営業職として2年間勤務。日本人でも全路線に乗務できる中東系航空会社に惹かれて転職。現在8年目。旅行、各国のお酒を現地で試飲することが趣味。

【CAのここだけの話】はAirSol(エアソル)に登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。隔週月曜日掲載。アーカイブはこちら